二次創作小説(紙ほか)
- Act1:ウィザード ( No.397 )
- 日時: 2016/10/02 00:01
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「——最初の対戦相手は、中国——正確に言えば、その中の特別行政区の1つ・マカオのデュエリスト養成学校だ」
——数日前、D・ステラの対戦カードが決定したとき、フジはそういった。
マカオとは、中国内にある特別行政区だ。元はポルトガルの植民地であったが、現在は中国内で大きな自治権を認められている。
そして何よりも有名なのは——世界でもトップクラスのカジノの街ということだ。
マカオは2002年にはカジノ経営の国際入札を実施した結果、ラスベガス・サンズなどの外国からの投資を得ることが出来た。そのため、コロネア島とタイパ島を繋ぐ埋立地であるコタイを中心に新たなカジノやホテルが出来るなど、発展が続いているのである。
また、そこでは賭けデュエル等も行われており、そういったゲームの延長線上でのデュエル・マスターズが発展したことに続いて、マカオにもデュエリスト養成学校が出来たのである。
「その名は、ジンリュウデュエリスト養成校——まあ、流石中国というだけあって質の良いエリートを多く輩出している、いきなり強豪校だ」
まあ、D・ステラに参加している学校に強豪じゃねえところなんざねえが、とフジは付け加えた。
それはヒナタ達も重々承知していたことだ。
しかし。
「だが、マカオはいち早く侵略の力を取り入れた行政区でもある。最新鋭のカードとデッキを揃えたデュエリスト達が何処にでもいるような状態だ」
何よりも、その侵略に真っ先に影響を受けたのはマカオだったのである。
特に、マカオを侵食した侵略者は——
「——気を付けるこったな。奴らの”奇天烈の侵略者”は、とんでもねえ戦法を使うからな」
「とんでもない戦法……」
ごくり、とノゾムは息を呑む。
まだその全貌こそ明らかになってはいないものの、侵略者特有の進化ビートダウン戦法をより研究する必要がありそうだった。
「次にD・ステラ本選のルールだ。前日渡された書類にもあったと思うが、再度確認する」
D・ステラ本選では、最初はABCDの4つのブロックに分かれ、8チームが決勝トーナメントへの進出をかけて戦う。
そこでは、まず5人のチームから3人を選出してぶつけ合うというもので、先に2勝した方が勝ちという単純なルールだ。
そして、決勝リーグでは5対5のフルメンバー戦となる。
Cブロックの日本の最初の相手は、隣国の中国となったわけである。
「……各自、くれぐれも準備を怠るな。D・ステラは、すぐそこだ」
***
「……やれやれ、とうとうこの日が来ちまったかぁ」
「そうっすね……」
海戸国際空港のロビーで、ヒナタとノゾムは溜息をつく。
ジェイコフやリョウなど、今まで学校で戦ってきたライバル達も、教師や親たちも見送りに来てくれた。
だが何より——2人は、これから起こるであろう戦いのことを考えていた。
世界。つまり元々のフジの思惑である、邪悪龍やコロナを自分たちに引きつけるという作戦が遂に始動したのだ。
「そういや、焔先輩居ませんでしたね。仲良かったんすよね?」
「……ま、仕方ねえや」
はぁ、と溜息をつく。そういえば、彼は最近学校に来ていなかったらしい。同じクラスのコトハに聞いても、よくわからないの一点張りだった。
「んじゃ、オレトイレにでも行ってきますわ」
「おーう、まだ時間あるしなー」
軽く返したものの、彼は胸の内では不安を隠せなかった。
彼は、クリーチャーに関わった人物ではない。一番、一般人離れしていそうな割には一般人に近い存在だ。
事件に巻き込まれている心配はないとみて良いのであるが——
「……ヒーナーター?」
ぎゅうっ、と後ろから抱き締められるような感覚を、ヒナタは覚えた。
後ろから覗き込むと、そこにはコトハの姿が。
こんな人前で抱き着かれていることに少なからず羞恥を覚え、赤面しながらヒナタは叫んだ。
「おまっ、馬鹿ッ! こんな人前で!」
「最近ヒナタ分が足りてなかったし」
「何それ、俺栄養か何か!?」
「えへへ……冗談よ冗談」
手を離すと、悪戯っ子のように彼女は笑みを浮かべた。
ベンチに並んで座る。世界で戦うということは、彼女はとても楽しみだったらしく、期待に胸を膨らませていた。そして、にこにこ、と機嫌がよさそうに言う。
「最初の相手は中国、それもマカオなんでしょ? まさか、隣国と戦うことになるとはね」
「……なあコトハ」
「何よ」
「最近、クナイの奴が学校に来てなかったのは、何故か分かったか?」
「結局分からなかったわ。先生達もだんまりって感じ。ただ、これは兄貴に聞いたんだけどね——星目先輩が主催した強化合宿にも、あいつは来なかったみたいね」
「……そうか」
根は真面目なクナイの事だ。先輩から呼ばれた合宿に参加しないわけが——と言いたいところだったが、肝心のテツヤがテツヤなので、嫌気が刺して行かなかったと言う事もあり得る。
なんせ、鎧龍随一のド畜生の片割れなのだから。
「……なーんか嫌な予感がするのよね——ま、今は目の前の対戦に集中するっきゃないか」
「そうだな。此処で気を揉んでても仕方ねえか」
聞けば、クナイは大将だったらしい。
負けた責任をチームメイトやテツヤに追及された線もあり得るが——少し考えにくかった。
「先輩! そろそろ時間みたいっすよ!」
「お」
たたっ、と駆けてくるのはノゾムだ。
「今、武闘先輩にたまたま会って話してたんですよ。これからの動きを」
「やっべ、もうそんな時間かよ」
「そうね。じゃあ、レンやホタルちゃんも呼びにいかないと」
***
——海戸国際空港から、目指すはマカオ国際空港となった。
離れていく日本を見ながら、ヒナタは今までの事を追憶する。
ノゾムと出会ったことから始まった、今回の長い戦い。英雄を狙う、邪悪龍の使い手・アンカや、身体と精神をそれぞれの理由で侵された英雄たちとの激闘。
そして、世界に居る邪悪龍の使い手を引きつけるため、そして侵略に立ち向かうために始まったD・ステラへの挑戦。
白陽を狙う少女・コロナの追撃も振り払わねばならないし、ノアの言っていた死神博士の存在も気になる。
だが——
「先輩、何シケた顔してるんすか」
「……悪い、ちょっと考え事してた。らしくなかったな」
『全くだ。お前は、少しあっけらかんとしてる方が丁度いい』
「だよな」
「……先輩、何があろうとオレは諦めません。先輩と出会って、クレセント達と出会って——今日まで、此処まで頑張って来れたから」
『邪悪龍も、この世界の強豪とやらも、まとめてぶっ飛ばす! そうでしょ?』
「その通りだ」
言ったのは、後ろの席から話しかけてくるレンだ。
「僕らの挑戦は今、始まったのだ。目の前に立ちふさがる相手は、誰だろうが打ち勝たねばならん」
『ですねえ。この旅に至るまでの僕らの戦い、決して無駄では無かったので。決着を付けにいきましょう』
「そうですよ! 頼もしい英雄達も居ますしね!」
『そうじゃのう。ワシらに任せておけい』
レンの隣に座っているホタルも、言った。
ノゾムを挟むようにして、隣の席のコトハがヒナタに拳を突き出す。
「大丈夫よ。あなたには、あたしが付いてるじゃない! そんな不安そうな顔、しないの!」
『コトハ様の言う通り、ですにゃ!』
「……そうだな」
彼女と拳を合わせた。
此処まで来たのだ。気を引き締めていかねばならない。
「絶対、勝つぞ——」
言った刹那——機体が、揺れた。