二次創作小説(紙ほか)
- Act1:ウィザード ( No.398 )
- 日時: 2016/10/02 01:42
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
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「……流石だ、アマノサグメ」
『ワタシの速度とバリアがあれば、この程度、ってところだわ。ステルスを掛けているから、英雄達にもバレない』
「しかし、少し機体が揺れたようだが……」
『ワタシの体重のせいではない。マナが空間を揺らし、この機体も揺らしたということだ』
飛行機にしがみつくようにしているのは、コロナとアマゾカゼ——ではなく、アマツカゼの進化形態・アマノサグメであった。
彼らの張っているバリアは、飛行機の受ける風の抵抗も全て無力化するほどの力を持っており、ステルスと合わせて凄まじいマナのリソースを注いでいることは言うまでも無かった。
『それほどまでに、私の力は”アレ”に呼応するようにして大きくなっている。早く、見つけねばな』
「その前に、暁ヒナタのことも気になる。奴の動向——監視せねばな」
***
「……何か、行きの便で、やっぱり不自然に機体が揺れた気がするんだよなあ」
「まだ言ってるの? 気の所為でしょ。一応、サーチはさせたけど、何も引っかからなかったわよ」
「ま、どっちにしたって、だ!」
——マカオ国際空港。
海の見える、綺麗な場所にある此処は、遂に海外に来たのだ、と実感させられる。標識の中国語を見て、此処が日本ではないと実感した。
以前は、週2に福岡空港から直通便が飛び立っていたくらいだが、海戸国際空港が出来てからは、直通便が増えた。娯楽・頭脳スポーツの先端都市同士というだけあり、やはり需要が増えたのもあるのだろう。
「マカオ、来たァァァーッ!!」
「それ、大阪の時もやりましたよね……先輩」
「まさか毎度毎度やるの? 恥ずかしいからやめてほしいんだけど」
「別に良いだろ? なあ、ノゾム」
「……いや、ぶっちゃけ微妙っす先輩」
「えええ!?」
飛行機の長旅で疲れ切っている一行は、唯一テンションが高くなっているヒナタに白い眼を送った。
拘束されながら、長い時間狭い中にいるというのは、ストレスがやはり非常に溜まるのだ。
楽しみと言えば、座席についていたモニターの映画を見るか、ゲームをするか、デッキを組み直すか(それでも多くのカードは手荷物ではなくスーツケースの中に入れてしまっている)……後は途中でやってくるキャビンアテンダントの持ってくる飲み物くらいなものか。
「もうテトリスもバトルシップも飽きました……敵の潜水艦を発見……敵の潜水艦を発見……」
「ダメだ!」
「おいテメーら、馬鹿やってる暇は無いぞ」
時間感覚がマヒしていたが、今は午後の4時。
ここからシャトルバスで、ジンリュウデュエリスト養成学校へ向かうことになっている。
休む暇など無いのだ。
加えて、決戦は明後日。メンバーを事前に登録する必要こそ無く、試合ごとにメンバーを選出することになるのだが——やはり、各々の戦法は確認しておく必要がある。
「指定された時間は6時だからな」
「……何で、こんな遅い時間に呼ばれたんでしょうか? 学校視察なら、午前とかにやりそうなんですけど」
「さあ、それは分からん。向こうから何も知らされてないのでな」
言ったフジは、溜息をついた。
「……まあ、余り良からぬ予感がしないのは気の所為か」
***
シャトルバスで、数十分。フレンドシップ橋を通り、マカオ半島に到達する。
そして、しばらくすれば海戸同様に埋立地に作られたジンリュウデュエリスト養成学校が見えてきた。
がーがー、とイビキを立てているのは、意外にもさっきまでテンションMAXだったヒナタである。
その寝顔を、呆れ半分の表情で見つめるコトハ。
「全くもう、仕方ないんだから」
「調子に乗って、空港の中をウロウロしてましたもんね……」
後ろの席からホタルが覗き込んで言った。ノゾムも頷く。
「……うーん、美学が……」
「……レン先輩がヒナタ先輩のストッパー役になってたんで、お疲れみたいっすよ」
珍しく寝言を言っているのは、レンだ。
腕を組んでいたので、一瞬分からなかったが、彼もつかれているのだろう。
大方ヒナタが原因であるのだが。
しかし、気持ちよく寝ている2人には悪いが、そろそろジンリュウに着く頃だ。起こすことにする。
「レン先輩、そろそろ着きますよ」
「むっ……もうか」
声を掛けられて、起きるレン。
彼は寝起きが良いので良かったのだが——問題はこのグラサンである。
すっげーイビキをかいている上に、揺すって声をかけたくらいでは起きそうにない。
『コトハ様ァ、ヒナタ様すっごい深く寝てますよ、しかもうるさいですにゃ!!』
『やれやれ困った主だ。槍でもぶっ刺せば起きるだろうか』
『ぶ、物騒ですにゃ!』
「何、あたしに任せときなさいって」
言うと、コトハはヒナタの耳元で囁く。
「——起きないと、キスしちゃうぞー——」
成程誰に教えられたのか、一瞬で分かる文句である。大方あの兎にでも吹き込まれたのだろう。
だが、これだけでは当然起きるわけがない。
しかし、艶やかに、そして——淑やかに彼女は彼の耳にささやいた。
「あたしじゃなくて白陽が」
「!?」
ガバッ、とグラサンは冷や汗をかいて起き上がった。
白い眼差しを向ける白陽。苦笑いするニャンクス。当然全部聞こえている。
「何か、今すっげー悪寒がした気がする……」
『おい如月コトハ、私をダシに使ったな』
『これは100%起きますにゃ』
『男好きの言いがかりを掛けられた件について釈然としないのだが』
「良いから、さっさと行くわよ、ヒナタ! イビキかいて寝ちゃって、全くもう……」
「おーいテメェら。そろそろ降りる準備をしろ」
フジの声が聞こえた。
窓を見ると、既にシャトルバスは黒いアスファルトの駐車場に止まろうとしていた。
そして、建物を見上げる。
ジンリュウデュエリスト養成学校は、ガラス張りの近代的な校舎が目を引いた。
「……どうやら、着いたみてーだな」
既に空は薄昏くなっていた。
理由も知らされないまま、彼らはそのまま、指定された場所へ進むのだった——
***
「……そろそろ到着時間だが……」
「リーダー。着いた模様です」
「ククッ。良いだろう。鎧龍の選手達とは、明後日の試合で手合わせする以上、しっかり持て成さねばネ……まあ。”余興”もしっかり用意してある」
シルクハットをかぶると、少年は言った。
「——俺はベットしよう。彼らがこの俺を——『運命天導(ウィザード)』をヒリヒリさせてくれる勝負師であることにネ——」