二次創作小説(紙ほか)

Act2:ギャンブル・パーティー ( No.400 )
日時: 2016/10/04 23:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……え」

 次の瞬間、スポットライトが当たる。
 一瞬で、会場の注目はコトハに集まった。

「え、えええ!? 嘘ォ!?」
「おっと、言葉が足りなかったようだネ」

 この言い方であると、あたかも彼がコトハ自身を賭けて欲しいと言っているようだ。
 だが、これには語弊がある。
 彼の賭けの内容には、まだ続きがあった。

「勿論、彼女自体を寄越せとかどっかの悪者のようなことを言ってるわけじゃあない。ただ、君が負けたら、彼女に1つ俺の頼みを聞いてもらうだけなんだよネ」
「……おいテメェ。一体何を言って——」
「持って来い」

 パチン、とテイシュウが指を鳴らした。
 ガラガラ、と音を立ててやってきたのは——ハンガーラックだ。
 しかし、問題はそれに掛かっている衣服である。
 それを紹介するように、彼は言った。

「これでも俺は、物好きでネ——少々、日本の影響だとかを受けて、こういう趣味があるんだよ……」
「な、そ、それは——!!」

 ヒナタは、そして鎧龍チームの全員は驚愕した。
 フリルの付いたスカートに、首から胸元に掛けた結び目、そして黒と赤で構成されたカラーリング——



「ズヴァリ、チャイナメイド服だ!!」



 ——確かに趣味丸出しだァァァーッ!!
 全員は突っ込んだ。そもそもチャイナドレスとは、チャイナとは言ってはいるが満州人の服装をもとにしたもの。何処でどう日本の影響を受けたのかは知らないが、これを改造した結果、これに至ったらしい。
 ——何をどうしたら、この結論に至ったんだぁぁぁ!?
 


「そんなわけで。暁ヒナタ。お前が負けたら、貴様のチームメイトである如月コトハにこれを着て貰おう。そしてそのまま、記念撮影して貰おうかァァァーッ!!」



 会場の方から「ちょっとヒナタ!! 絶対に受けるんじゃないわよ、その勝負!!」という声が聞こえる。
 実際問題、この賭け——受けるかどうかかなり迷ったのである。
 が、しかし。例え負けたとして別にこの場で写真撮影するだけならば——とヒナタは思っていた。
 現に彼女は恥ずかしがってはいるが、あの姿は悪くはない。いや、むしろ良い。
 つまり、そんな思考をしていた時点でヒナタの頭の中では——
 ——メイドコトハ……メイドコトハ……また、見られるというのか!? だが、もしも引き受けて俺が負ければ、コトハは大恥をかく羽目になる。俺が負けたが為に、コトハが——だが、メイドだぞ……メイド。
 実は、文化祭でフジのメイド喫茶に徴集されたコトハのメイド姿を見たあの日から、ヒナタの趣味にはメイド属性が加わっていた。
 彼の奥手な癖して欲望剥き出しの脳には、あの彼女の姿が鮮明に焼き付いていたのである。
 が、しかし。それでも、自分の勝負に彼女を巻き込むことは、ヒナタとしても良しとするわけにはいかなかった。
 ここは、代わりの条件を突き付ける必要があるが、半端なものでは即・突っ返されるだろう。
 そして——一つの妙計を彼は思いついたのである。

「何でコトハなんだよ」
「特に意味は無い。無いが——美少女には、メイド服が似合うと相場が決まってるだろう? それも、気の強い奴がしおらしそうに着ているのが良い」
「だけどよぉ、負けて罰ゲームを受けるのが、俺じゃなくてコトハなのがちょっと気に食わねえんだよな——此処は1つ、提案があるんだが」
「何だ? 面白くなきゃ、即却下するがネ」

 ——面白い、ねぇ……なるほど。なら捨て身のアイディアだが——
 笑みを浮かべたヒナタは、会心のアイディアだと言わんばかりにそれを突き付けた。
 


「——俺が負けたらコトハの代わりに、俺がメイド服を着ようじゃねぇか」
「……何、だとッ……!?」



 会場は再びざわついた。
 この男は何を言っているんだ、と。

「ほほーう、サムライだネ日本人。あくまでも自分の勝負に他人を巻き込むことは良しとしない、か。例えそれがレクリエーションでも。……だが良いだろう。面白そうじゃないかぁ。女にさせるよりも、よっぽど。……まあ、女に着せるのはまた今度で良いか。誰にしようかネ」

 一方、席ではコトハが既に真っ青な顔をしていたことは言うまでもない。

「ちょ、良いのあいつ!? あたしを庇ってあんな賭けに出ちゃったけど!?」
「安心しろ。如何なる勝負でも、頭脳スポーツであるカードであいつが負けるはずは無い。多分」
「微妙な信頼だなオイ!!」
「まあ、良いじゃねーか。ヒナタが選んだ選択なんだからよォ」

 フジがそれっぽい事を言って〆るが、全く問題は解決していないことは言うまでもない。
 当のテイシュウは、面白ければ何でもOKという考えらしく、賭けの内容を呑もうとしているわけで。

「あ、それとテメェ、自分が勝つ前提で話を進めてねぇか。取らぬ狸の皮算用って言葉が日本にゃあるんだぜ。こっちが勝った時のことも考えてるんだろうな」
「それもそうだな。お前が賭けて欲しいものは何だ?」
「……」

 しばらく考え込む。
 明後日の試合に影響の出ない、ということはテイシュウのカードの要求やデッキの開示は出来ないし、そもそも勝負に対してフェアな考えのヒナタはそんなことをするつもりもない。
 いざ、何か相手に賭けるよう頼もうと思っても——考え込んでしまう。

「——むぅ、思いつかねえな」
「ほう。日本人らしいネ。遠慮しなくても良いんだぞ? なんなら、俺がお前の好きなカードをなんでも1枚、奢るってのはどうだ? 日本には出ていないカードで、《タツリオン》ってカードのシリーズがあってだネ。こいつの一番最後の奴がとても強いんだ。他にも、五文明に現れた巨大なファッティサイクル、”帝王(モナーク)”というのもある」

 ——《タツリオン》——!? ”帝王(モナーク)”——!? 成程、そいつらを手に入れれば更に戦力アップが期待できる——かもしれない……!? まあ、どっちにしたって悪い事はねぇな!!
 にやり、とヒナタは笑みを浮かべた。
 ——だが、此処は敢えて、だ! 思いつかねえと本気で思ってたのか? 最初っから俺のカードは——これだ!



「カードなんてこの際どうだっていいぜ。それよか、俺が勝ったらテメェにメイド服を着て貰う」



 おおおお、と会場から歓声が沸いた。

「ほーう。面白い。良いじゃないか。受けよう、その勝負」
「良いのか? 負けたら恥晒しだぜ」
「負けるつもりはないよ。結局、賭けの内容は両方ともお前に決めて貰うことになってしまったが——面白いから、良し……だネ」
「んじゃあ、勝負の内容を教えてくれねえか?」
「ああ。それか。ポーカー、ブラックジャック、バックギャモンにジン・ラミー……いろいろ考えたんだが、折角だ。これに落ち着いたネ」

 言った彼は、得意げに腕を広げる。
 その右手にはカードの束が握られていた。



「結局、デュエリストならばデュエマということに落ち着いたよ。 ただし、試合の時とは違うデッキを使っても構わんがネ——」