二次創作小説(紙ほか)
- Act3:再燃 ( No.402 )
- 日時: 2016/10/06 18:35
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「うん、ヒナタ。落ち込むことないわよ」
「……」
「そ、そうっすよ、先輩。如月先輩を庇ってたところ、すっげーかっこよかったすよ」
「……」
「だ、大丈夫ですよ! ネットにばら撒かれた訳じゃないですし!」
「……」
「まあ、色々終わったと貴様は思ってるかもしれんが人生まだまだこれからだ、ノゾムのアレに比べればまだマシな方だぞ」
「ひでぇ!!」
「……うん。何か……すまんかった。生きててすまんかった」
「先輩ィィィーッ!!」
帰りのシャトルバスで、死んだような目でヒナタは窓の外を見ていたのだった。
あの後、戸惑う間もなくチャイナメイドコスを着せられ、更に特殊メイク・胸に詰め物までされる徹底っぷり。
写真を10枚くらい、思い出すのも恥ずかしいポーズで撮られたことなど、思い出したくもないが、これだけやったのに当のテイシュウは「うーん微妙だネ。あ、もう良いよ? 写真はこっちでどうするか決めっから。どーしよっかなぁン?」等と抜かしていたので、既に精神はボロボロなのであった。取り敢えず。ノゾムの気持ちはよーく分かった気がする。
***
——今日泊まる宿にチェックインした後。ヒナタは、個室でばったりとベッドに伏せていた。相部屋のノゾムは、今シャワーを浴びている最中だ。
完全なる敗北感。今回は使ったデッキこそ違ったものの、相手は明後日はさらに強力なデッキを使ってくるはずだ。
にも関わらず。今日の圧倒的な速攻。余りの速さに、ヒナタは対応が遅れ——敗北した。
デッキが使いこなせていなかったという言い訳は通用しない。ヒナタは基本、ほぼ全てのタイプのデッキを使いこなせるオールラウンダー。どのデッキを使っていても、単純に力量差と相性で負けたという事には変わりないのである。
『大丈夫だ、ヒナタ。また次に勝てば良い』
「……そうだけど、本当にあいつは強かった。今度は、あんなのじゃすまねぇ——気を緩めたら、逃げ腰になったら、轢き殺される——あのコロナのプレイングがそうだったように」
どの文明でも、やはり侵略者というのは強力なビートダウン種族だ。
しかも、序盤から現れる進化クリーチャーの性能がずば抜けている。革命でも追いつけるかどうか、分からない。
こちらもそれを追い越すつもりで戦わなければ、潰される。
あの時、コロナに成す術なく負けたように——
「入るわよ」
「ん」
ガチャリ、と扉が開いた。
そこには、シャワーを浴びた後だからか、髪を降ろしているコトハの姿があった。まだ、湿っている髪がどこか艶っぽい。
ベッドの上に座り、並ぶ。彼女が申し訳なさそうに萎んだ顔で言った。
「……今日は、ごめん」
「何でお前が謝るんだ。俺が自分から勝手に受けた勝負だぜ。どう考えても、あの場で断ることは出来なかったし——これが最善だった」
「……本当にそうかなあ」
「だけど、最後はやけっぱちだったとはいえ、ノリノリでポーズをとっていた自分をタイムスリップして撲殺してぇ……」
「あ、あはは……」
ヒナタは気が滅入ったように腕を組んだ。
女装していた自分を思い出すのをそこでやめた。これ以上は死にたくなる。
「……ともかく、あのトランスフォーマー擬きの侵略者をどうにかしねえことにはな……」
「それわざわざ言ってあげないでおこうよ……」
「しかも、ぜってー持ってる侵略者の進化クリーチャーは、あれだけじゃねえだろ……あの勝負師が、あんなお遊びに本気を出すわけは絶対ねぇ」
「ま、張りつめるのも良くないわよ」
ぽん、とコトハは彼の背中に手を置いた。
「ま、まあ今回の件はあたしが原因みたいなものだし……あなたにおっ被ってもらいことになっちゃったようなものだわ。だから、ヒナタが1人で何か抱えてるところなんて、もう見たくない」
「コトハ……」
「特訓よ! 明日は、試合に向けてガンガン特訓するしかないわ! もう時間は無いんだから! あたしは幾らでも付き合うわよ! 本番、まだ誰が出るかは決まってないけど、状況や残りの相手に合わせて選出されるなら、万全を期すに越したことはないわ!」
しばらくヒナタは押し黙る。
そして——いつもの軽薄な笑みを浮かべた。
「——確かに。1人で悩んでるなんて、馬鹿みてーだったな。ともかく、メイドの分はたっぷり返さねえと——ダメだ、思い出しただけで吐き気が」
「うわぁ……これは大分ダメージが……」
「貴方のメンタルは、その程度ですか、暁ヒナタ先輩ッッッ!!」
背後から声が響く。
見れば——既にシャワーを浴び終えたらしいノゾムが、腕を組んで仁王立ちで立っていた。
「メイド姿のまま、女装コンテストに無理矢理出され、どっかのグラサンとパツギンの所為でノゾミちゃんの渾名がデフォルトになったオレに比べればっ!! あんたなんてまだ良い方でしょうがっ!! 精神力が、メンタルパワーが足りないッッッ!!」
「メンタルパワーって何ーッ!?」
「とにかくですよ、先輩。1回や2回の敗北でポッキリ心が折れてるようでは、この先の戦いに勝つことは不可能!!」
「お前、それは割と人の事言えないよね!?」
「よって、チーム全員、メンタルを鍛えるためにメイド姿のまま特訓することを具申します!!」
「却下します!!」
こいつはもう、単に暴走しているだけであった。
完全にトラウマが蘇っている。それを全員に撒き散らそうとしているので、厄介極まりない。
今回の件でヒナタもこれ以上メイドを見ると変な物に目覚めてしまいそうなので、これ以上は突っ込みたくはないのであった。
「まあ、そんなことはともかく、明日1日バッチリ特訓しましょう! 先輩!」
「そうよ! 練習あるのみだわ!」
「……お前ら……!」
何であれ。こうして、やるべきことは決まった。
足りないものを探し、明日の間にどれだけ力を付けるか——特訓あるのみだ。
***
「……クックックッ……それで、既に調整は終わっているというわけだネ?」
「はいっ! もちろんですよぅ! 『運命天導(ウィザード)』の異名を持つ貴方に相応しいデッキです!」
「よろしい。ならば十分だ」
カードを手に取ると、テイシュウは笑みを浮かべた。
インベイトから送られてきた侵略のカード群。
ただのスペックではすまされない速度とパワーを持つのは、ソニック・コマンドだけではないのだ。
それを研究してきた彼は、自らの磨いてきた戦法に死角が無いことを自負していた。
「——奇天烈の侵略者、マジック・コマンド。鎧龍——お前たちを楽しいゲームに招待しょうかネ——!!」