二次創作小説(紙ほか)
- Act4:奇天烈の侵略者 ( No.405 )
- 日時: 2016/10/09 15:34
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
——あの後も沢山デュエルの特訓をした一日であったが——明日は試合ということもあり、ヒナタは落ち着けなかった。
ベッドの上で寝転がり、隣のベッドで眠っているノゾムを横目にして、明かりを付けながらデッキを組んでいく。
ドラグハートを取るか、進化を取るか——単純な力はドラグハートが上だが、速さは進化の方が上だ。
しかし、《バトライ閣》を採用している以上、両方を取ることは出来ないのである。
最後の1枚まで考え、考え、考え抜く——そうやって築いてきたデッキは、今まで一度もヒナタを裏切ったことはない。
——そういや、ナナの奴もそんなこと言ってたっけ……1枚1枚カードの役割を考え、配分する——そうやって考え抜いて作ったデッキはまさに自分の思う通りに動いてくれる、だったな。
昼間ノゾムに見せたドラッケン連ドラは、あくまでも試作中の1つに過ぎない。あの男に——テイシュウに勝つならば——更に構成を煮詰めなければならない。
「後、もうちょいか。何とか出来そうだ。この構築なら、テストプレイは、朝にちょっとやるだけで十分だな」
『相手はコマンド、私を生かせるかどうかは分からんぞ』
「そうだな……ドラゴンが相手じゃねぇ以上は……」
そうやって息をついたときだった。
ふと、コンコン、と扉をノックする音がした。
除き穴から、扉の向こうを見る。やってきてたのは——
「……あはは……来ちゃった」
——コトハであった。
すぐさま鍵を開ける。
照れたような表情で、彼女は部屋に入ってくるのだった。
「おいおい、どうしたんだよ、こんな真夜中に」
「明日は試合だからね。此処までずっと頑張ってた大将の顔、見ておきたくって。どうせあなたのことだから、ずっとデッキ組んでたんでしょ」
「はぁー……本当、敵わねえなあ」
「皆、明日に備えて準備してる。まずはこの一戦——勝たなきゃ話にならない」
「そりゃそーだ。目指すのは天辺、世界一だぜ。俺がしっかりしねえと。デッキもバッチリ、今できるベストのものを組まねえと」
彼女も笑いかけて見せる。
「ま、大丈夫よ。あんたのデッキはいつも生き生きとしてるもの。1枚1枚、最後まで考えられていて——そうやって考え抜いて作られたデッキってデュエリストに応えてくれるのよね」
「……」
ヒナタはしばらく、ぽかんとしていた。
自分が考えていた事を、そのまま言い当てた彼女には本当に、何かを感じる。
「……やっぱ、お前には敵わねえなあ」
「え?」
「何でもねーよ。とにかく、ありがとな」
「何言ってんの。これだけじゃないわよ。どーせ、目が冴えちゃってるんだから——テストプレイ、付き合うわよ」
「だけど、明日も出発は早いぜ? 良いのかよ。ノゾムも、もし起こしちまったら悪いし」
「すー……すー……」
「……ま、こいつは大丈夫そうだな」
「あたしは大丈夫よ。ちょっとくらい。ほらほら、デッキを出しなさい——」
夜が更けていく中。
2人の対戦は続いた。
刻々と近付く明日の決戦も——この時だけは忘れ、純粋に楽しめた気がした。
——やっぱ俺、誰か傍にいねーと、本当にダメダメだな——昔っから。
***
『デュエリスト養成学校対抗、世界大会——D・ステラ! その第一回戦が今まさに、このジンリュウデュエリスト養成学校大アリーナにて行われようとしています!』
会場が沸き立つ。
今回の試合が行われるのは、ジンリュウデュエリスト養成学校の所有する巨大会場。
まるでカジノのような、絢爛とした装飾物に広大なフィールド。
此処が今まさに、クリーチャーが駆け、呪文が飛び交う戦場と化すのだ。
「ふぁあ、随分なものを所有してたのね。学校の癖に」
「大丈夫っすか、如月先輩。今日欠伸多いっすよ?」
「なーんでもないわ。試合に支障は無い」
「貴様がそう言うのならばそうなのだろうが」
既にデュエルフィールドの前に立っている鎧龍チーム。
そして、正面を見据えた。
中国・マカオ代表、ジンリュウデュエリスト養成学校の代表が入場してきたのである。
『今回試合を行うのは、我らがマカオ代表・ジンリュウデュエリスト養成学校です! リーダーにしてジンリュウ屈指の勝負師と名高い、リュウ・テイシュウ選手率いる、最高クラスの秀才が集まっています!』
シルクハットを取り、彼が頭を下げる。
そして、向こう側にいるヒナタに向かって呼びかけた。
「ふふふ、待ちわびていたよ、この日を……今日も負けたら、メイドになってくれるのかネ、それも大観衆の前で……なあ、暁ヒナタ」
「やるわけねーだろ、二度と、な! 良いのか。そんな余裕ぶっこいてて」
「ふん、こっちこそ野郎の女装なんざ二度と願い下げだネ。だが、今日は良い勝負が楽しめることを期待してるよ。君が出るのかは知らないけどネ」
「へっ、こっちこそ楽しみにしてるぜ。吠え面かかせてやんよ」
鎧龍チームとジンリュウチームが互いに揃い並ぶ。
『その対戦相手となるのは、日本代表・鎧龍決闘学院!! 大将・暁ヒナタを始めとした、強烈な個性のメンバーで構成されたチームです! 特に、3年生不在、2年生3人、1年生2人というチーム編成であるものの、これまでの予選でも圧倒的な実力を見せつけています——それでは、両チーム、先鋒戦のメンバーを前へ!』
今回は選出戦。
5人のチームの中から、相手の残りメンバーから誰をぶつけるかを試合ごとにチームで考え、選ぶことになるが——この先鋒戦だけはノーヒントでメンバーを考える必要がある。
つまり、此処で重要なのは、安定して勝てるメンバーだ。
その中でも有力なのは、レンとノゾムだが——デュエルフィールドに上がってきたのは、ノゾムであった。
『鎧龍の先鋒は、1年生・十六夜ノゾム選手です!』
「しゃあっ!! 気合い入れてくぜ!」
『早速あたし達の出番だね!』
小柄であるものの、幾多の戦いを乗り越えてきた気迫は上級生に劣らない。
既に覚悟完了、いつでも戦える準備は出来ている。
尚、レンとノゾムで先鋒はもめたのであるが、最後はフジの「相手ギャンブラーっぽいし、不運属性の黒鳥はやめといた方がよくね?」という発言が決め手になった——というわけではなく。
「これは僕とノゾムがきちんと協議を行った結果だ。僕の運の無さは関係ない」
「マジかよ。でも大丈夫か、ノゾムの奴」
「大丈夫よ。あの子、あんたに昨日何度も負かされた後、すっごい必死にデッキ組み直してたしね。あんたより早く組み終わってたみたいだけど」
「ま、あいつなら心配する必要はあるまい」
「……問題は対戦相手ですよ」
『一方の、我らがジンリュウデュエリスト養成学校の代表は、リ・リンユー選手です!』
現れたのは、シルクハットを被った少女だった。
昨日も、テイシュウの傍にいたあの少女に間違いなかった。
「レディースエーン、ジェントルメーン! リンユーの世紀のマジックショーへ、ようこそ! 最高のエンタメデュエルをお届けしますよー!」
「マジックショーにエンタメデュエルだぁ?」
「はい、貴方が十六夜ノゾムですねー? 私が、リ・リンユー——ジンリュウチームのメンバーを務めていまーす! 今回は早速、貴方に水の侵略の華麗なるマジックショーをお見せしたいと思います。お楽しみにぃー!」
「オイオイ、ふざけてんのか? さっさと始めようぜ。テメェのマジックショーとやらのタネと仕掛けは、このオレがデュエル中に解体してやっから覚悟しとけ!」
いきり立った様子でデッキを取り出すノゾム。
一方のリンユーも、カードをデュエルテーブルに並べる。
シールドが展開され、互いの視線が交差すると同時に——戦いの火蓋は切られた。
『それでは、試合開始!』