二次創作小説(紙ほか)

Act7:開始地点 ( No.416 )
日時: 2016/10/14 23:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 会場に歓声が響き渡った。
 とてつもない攻防の末——それを制したのは、ヒナタだったのだ。



『勝者、暁ヒナタ——よって、一回戦を制したのは鎧龍決闘学院——!!』



 しばらく、魂が抜けたようだったが、ようやく正気を取り戻す。
 がばっ、と後ろから抱き着かれた。
 満面の笑みを浮かべたコトハ、そして後から続くようにレンやノゾム、ホタル。そしてフジもやってくる。

「やったわ、ヒナタ!! まずは一勝、よ!!」
「ったく、最後の泥沼のような攻防……胃が痛くなる」
「とはいえ、まずは世界での一勝を勝ち取ったことになるか」
「あ、ははは……なんつーかもう、何も言えねーや」

 ヒナタとしてはそれどころではなかった。
 あそこまで盤面を固めるまで、どれ程精神をすり減らしたことか。
 勝負の魔物から解放されたことで、彼もまた安堵の息をつくことができたのである。
 あらゆる感情がその場を支配していた。歓喜するもの、嘆くもの、憤るもの——悔しさと嬉しさが入り混じる空間の中で、ただ惚けることしかヒナタにはできなかった。

「負け、という言葉は俺が一番嫌いな言葉なんだよネェ……」

 歓声の中、ツカ、ツカ、とブーツが床にぶつかる音が聞こえた。
 現れたのはテイシュウだ。何処か不機嫌そうに言った彼だったが——シルクハットを取り、続けた。



「だから敢えて言わせて貰うよ——おめでとう、君達の勝ちだ、とネ——!」



 負けたらそこで終わりというのは、トーナメントの無情なところだ。
 しかし、その中でも勝者をリスペクトする姿勢。テイシュウは、最後まで勝負に純粋に殉じたのである。
 最後の最後まで、彼には学ぶところが多かった。
 ヒナタは立ち上がる。死闘を演じたこのライバルに向かい。

「ありがとう、テイシュウ。こっちも、最後までヒリヒリした勝負だったぜ」
「ハッ、しかしそれでもやはり残念だ。後で何と言われるか……やっとここまで来たと思ってたのに。まあ、俺はこの勝負が出来て、そして君と出会えただけで十分だがネ」
「十分じゃ、あーりーまーせーんー!!」

 ぐいっ、とテイシュウの耳がリンユーの手袋に覆われた手に引っ張られている。
 見れば、リンユーが起こったような顔で彼を睨みつけていた。

「グエンさんと言い、テイシュウさんと言い、何でこうも不甲斐ないんですかね! 激おこですよ、コーチも先生も! 後で猛特訓ですから!」
「は、はははー……。それは仕方ないネ……」
「十六夜ノゾム! 貴方とのデュエル、なかなか楽しかったですよ! また、私のマジックショーに来てくれますよね?」

 指を鉄砲に見立て、彼女はウインクしてノゾムの方を向く。

「マジックショーはともかく、お前は絶対倒すからな!! いつか、絶対な!!」
「かーわいい♪ 貴方のような子、けっこー好みですよ、私!」
 
 ぐむむ、とノゾムは何も言い返せなくなってしまう。彼にとって、これが苦い経験であることには違いない。
 最後にテイシュウは言った。

「まあ、アレだ。勝った負けたはあるかもしれないけど、負けたからって何か終わるわけじゃあない。むしろ、俺達はここからがスタートだネ」
「デュエマやってたら、また会えるかな」
「会えるさ。その時もまた、敵同士だ。また、最高に熱く、狂った勝負をしようじゃないかネ!」
「勿論だ!」

 拳を交わす2人。
 勝ち、負け、相反する2つの事象が支配するこの大会で、それとは関係なく、また1つ友情が生まれたのである。

「あ、それと——これ。返却しておくネ」
「え?」
「改めて、良いデュエルだったよ、暁ヒナタ!」

 去り際に渡された封筒。
 何か紙の束が入っているようだった。
 何だろうか、と中身を確認しようとした途端に、

「おい、ヒナタ! そろそろ退場だ!」
「お、おう!」

 無情にも、時間が来てしまい、レンに引っ張られながら彼はその場を後にするのだった——



 ***



「終わっちまうと、あっという間だよなぁ……」

 ヒナタはそう呟く。
 一戦一戦が一期一会の繰り返しの、此処までの戦いだったが、疲れがたまっているのかどこかこの年齢で既に哀愁を感じさせる台詞になってしまっているのは気のせいか。
 シャトルバスに乗り、空港を目指す。色々あったが、マカオでの戦いもこれで終わりだ。

「うわあ、凄い綺麗よ、ヒナタ!」
「お、本当だな!」

 目に映るのは、ビルの明かりが彩るネオンアート。
 まるで、宝石のように輝くそれが強く、脳に焼き付いていく。
 ファンタジーの世界のような、浮世離れした光景を記憶に焼き付ける為、通路側の席に座っていたヒナタは思わず、バスの窓から先を遠く覗き込む——

「やれやれ、勝利の後には良い光景だな」
「レン先輩、今回私達何もやってませんからね?」
『すごいすごーい! 白陽、これすっごいきれーだよ!! きらきらってしてる!』
『目が……ちかちかする……ついでに私の出番も、瞬く星のように消えていく……』
『もう、落ち込まないの!』
『僕はありましたのですにゃ!』
『ニャンクス。傷口に塩を塗ってはいけませんよ? 出番が空気のように少ない白陽にはこれ以上ない好機だったのを……ああ、次は無いでしょうね』
『アヴィオール貴様、覚えてろよ……』
『傷口に塩を塗って抉ってからまた塗るスタイルか。これじゃから闇文明は。ふぁあ、眠いわい』
「コマンド相手だったからなあ。あれ、ノゾムは?」
「ふて寝しちまったみてーだな」

 反対側の席で、窓を向いたまま、彼はこくり、こくり、とうたた寝していた。
 胸には、さっきの敗北を抱えたまま——

「あ、そういえばこれって何だったんだ?」

 ヒナタは茶封筒を取り出す。
 コトハも、中身を覗き込んだ。
 そして——凍り付く。次の瞬間、バス内にヒナタの悲鳴が響き渡った。

「う、う、う、う、うぎゃあああ!?」
 
 思わず、広げた瞬間にヒナタは動揺して手を滑らせてしまう。
 そのまま、中に入っていた紙束——それも、白い裏面の厚紙が散らばった。
 それも、勢いで床へ全部——

「? なんだコレは」
「何でしょうね?」
「……んあ? なんだコレ」

 そして、床伝いに流れてきたそれを拾うレンにホタル、そしてよりによって、さっきまで大イビキをかいていたはずのフジ。
 完全にこの男に至っては確信犯としか思えないタイミングであったが——それを拾ってみてしまう。

「ば、ばか、拾うんじゃねえ!!」

 急いで叫ぶヒナタであったが——時既に、遅し。
 バス内は沈黙に包まれた。

「……ヒナタ。強く生きろ」
「待って!! 同情の眼差しを向けるのやめて!!」
「……ヒナタ……ププッ、強く……ププッ、ぶえっへへへへへ」
「ブラック社長テメェ!!」
「……ヒナタ先輩。学校新聞に掲載しときますね」
「ホタルワレェ!! 鬼かお前は!!」
「……ヒナタ先輩、ぷぷっ、よく、お似合いっすよ!!」
「お前も起きてたのかよ!?、ち、畜生!! 誰か写真ごと俺を歴史から抹消してくれぇぇぇーっ!!」

 ——画して。
 鎧龍に勝利を齎したデュエリスト、暁ヒナタは後にマカオで伝説として語られることになる。
 『運命天導(ウィザード)』の異名を持つ、リュウ・テイシュウを打ち破ったデュエリストとして。
 そして——公のパーティーの場で女装メイドコスを披露したデュエリストとして——

「……やっぱり、あたしが着た方が良かったかしら」



 ***



 ——数時間前。タイ、バンコク国際デュエルスタジアム。

『決着——侵略をものともせず、激闘を制したのは——イギリス・ライトレイデュエルスクールだ——!!』

 会場は騒然としていた。
 新能力・侵略を前にして、彼らは一歩も引かない戦いどころか、圧倒してしまったのである。

「馬鹿な——我らが”三界の侵略者”がこうも簡単に——」

 


「それ以上口を開かないで頂きたい」



 冷たい声が響き渡る。
 それだけで、全てを黙らせてしまうような威圧感。
 純白の制服に、剣のような意匠の髪留め。
 金髪碧眼に加え、浮世離れした美貌を持つ少女は——年柄とは裏腹の低い声で、言い放った。



「——侵略も、革命も、我らの眼中には無い。我らが剣で、全て切り伏せるのみ。約束された、勝利の剣で——敗北は、我らには有り得ません」



 ***



 ——同時刻、サウジアラビア、デザートホークデュエルスクール特設会場。

『決着——!! 何と圧倒的な実力なのでしょうか!! 仮面を付けたこの生徒は一体——!?』

 中堅戦に現れたのは、この仮面を付けた少年だったが——有無を言わさない強さで、デュエルを終わらせてしまったのである。

『これは、今回のD・ステラのダークホース枠か!? ブラジル代表・エクスフォレスタン決闘学校——!!』

 そのまま、一言も口を利かず——彼はチームメイトと共に会場を去っていく。
 新たなる決闘を求めるようにして——