二次創作小説(紙ほか)

短編6:Re・探偵パラレル ( No.417 )
日時: 2016/10/15 15:05
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ——現世のそれとは違う19世紀ロンドン。通称・シャーロック・ホームズが存在する世界線。
 悪化する治安に労働条件。これらが重なることで、起きた様々な事件が今日も社会を騒がす。
 というのも——
 今ロンドンでは、博物館・美術館を立て続けに狙う窃盗事件が多発していたのであった。

「……で、この俺に調査の依頼に来た、と」
「はい! 今度の展覧会の時に、その警備を頼みたいんです!」

 ——彼の名は、ヒナタ・アカツキ。探偵だ。
 様々な盗品関係の事件を今までスピーディに、そして確実に解決してきた対窃盗のプロフェッショナル。
 ……というのは建前で、実際の依頼は大抵下着ドロの炙り出しと言う悲しい現実が付いていた。
 が、しかし。以前に怪盗から博物館の秘宝を守った(わけではなく、実際には先に粉砕されたので怪盗がやってこなかっただけ)実績もあり、今回別の博物館の関係者である女性・ホタルから、今度宝物の展覧会を開くため、その警備という依頼を受けることになったのである。

「……というのも、我が帝国広しと言えど、対窃盗スペシャリストの探偵は貴方しかいないんですから! 下着ドロ退治の印象ばっかついてる所為で微妙に依頼人が増えませんけども!」

 ——毎度思うけど警察に任せろよ下着ドロは!! 何でいっつも俺が処理してんだよ!! 悪いけどその評価は自分がいっちばん分かってるから!! 本当悲しい!! 泣ける!!
 というツッコミはおくびにも出さず、

「良いでしょう。その依頼、この俺が引き受けました」
「ありがとうございます!」

 と快く返すのが紳士の礼儀というものである。

「しかし、ロンドン市警でも対処できないとは……最近の怪盗はどいつもこいつも。というか、展覧会自体中止にした方が良いのでは?」
「いえ、それでは向こうの思う壺だと社長のフジ・ブトーは言っておられまして……」
「あの人なら仕方ないな」
「今ロンドンを騒がせている……怪盗は3人。それぞれが対立し、潰し合ってはいますが——いずれも厄介な手口を使うらしいことは既に知っていますよね。摩天楼の怪奇・怪盗ブラックバード、青い閃光・怪盗ラビットキッド、そして魔性の女怪盗・フェブラリーキャッツ。いずれも噂によれば使い魔(クリーチャー)を使うらしく……」

 此処最近。
 超常異常を操る犯罪者が増加していると彼女は言う。この時点で、現世のそれとはちょっとずれた19世紀ロンドンであるということはお分かりだろうが、その背後にいるのが使い魔(クリーチャー)と呼ばれる存在だ。
 世間では、幽霊だの悪魔だの言われつつも、その正体は何ら明らかになっていない。
 ただ一つ言えること、それは使い魔と連携して悪事を働く犯罪者がおり、警察も手を焼いているということだ。

「それでは、私はこの辺で!」
「ああ」

 だがしかし——ヒナタ自体、その存在を信じていない訳では無かった。
 というのも。




「……ヒナター、飯はまだかー。オイラもう腹が……」




 ……居るのである。自宅に。
 その使い魔(クリーチャー)が——
 この犬のようなチビ狐の名は白陽。
 今や、この探偵事務所の立派な使い魔(クリーチャー)であった。
 祖父から送られてきたこれは、喋る上に飯を要求し、更に昼間は本を読みふけってぐーたらしているというポンコツ具合であったが。
 ヒナタとしては、
 ——よもや、本編で出番が微妙だからか短編にまで出張ってこようとは……この狐、出来る……!!
 と考えていたが、そんなことはともかく仕方なく戸棚を漁るのだった。

「今度はどんな事件の解決だー?」
「警備だ警備。博物館のな——怪盗に狙われていると」
「そうか。相手は使い魔使うのか?」
「使う。それも、3人だ」
「へえ。やっべぇな」
「やっべぇよ。でも、久々にまともな案件に立ち会えたぜ」
「此処最近ずっと下着ドロ退治だったからなあ」


 
 ***



 後日。博物館に送りつけられたらしい予告状がそのまま依頼人から事務所に送られてきた。
 当初、ヒナタはホタルの話を加味しても何故自分の所にわざわざ依頼が来たのか謎であった。
 しかし、これを読んだ結果ヒナタは悟った。何故自分の所に警備の依頼がやってきたのかを。
 その予告状の内容は——



 予告状
 ハハハハハハ、愚鈍なロンドン市民諸君。
 展覧会の1日目の夜、この闇夜に紛れし美学の貴公子がありったけの宝を美学を以て持ち去ってやろう。メインディッシュは、黄金の聖杯だ。
 怪盗の美学に賭けて盗み出してやるから精々マンホールの下から美学に警備でもしていたまえ美学。
 P.S:美学って……何だっけ
 美学怪盗ブラックバード
 


 ——テメェで美学って単語がゲシュタルト崩壊してんじゃねえか!



 
 予告状
 午前2時に黄金の聖杯を盗んでみせよう。私が宝を盗み出せる確率は——100%。覚悟しておきたまえ
 P.S:白陽来る? 来るよね? 警備に来るんだよね!?
 怪盗ラビットキッド



 ——おい、誰と誰のコンビが書いたのか一瞬で分かったぞ。



 予告状
 展覧会の夜、黄金の聖杯を盗みに来ます。
 べ、別に、対窃盗探偵のヒナタ・アカツキを警備に呼んで来たってかまわないんだからねっ!
 P.S:魔性の女怪盗と勝手に呼ばれるのは不服
 怪盗フェブラリーキャッツ



 ——俺のところに依頼が来た最大の原因こいつの予告状じゃねえか!! てか知らねーよ、お前の異名なんか!!
 ともかく、怪盗3人の狙いが黄金の聖杯なる宝であることは分かった。
 しかし、それ以上に予告状の方が頭を抱える内容だったのである。

「オイ、どういうことだぁぁぁー!! 予告状の時点で既に頭を抱える内容だよ!! 面識無いはずの怪盗の予告状に俺の名前書いてたりお前の名前書いてたりしてるけど、無かったことにしてスルーオーケーだよね!?」
「何故予告状にオイラの名前が……!? 謎だ」
「謎でも何でもねぇよ!! 此処まで本編読んできた皆さまなら誰が書いたのか一瞬で分かったろうよ!! 本当なら内通疑惑掛かってるところだぞ、お前!!」
「まあ良い。とにかくヒナタ。怪盗3人からどうやって博物館の宝を守るかを考えるかが先決だろ?」

 考えてみれば、このチビ狐の言う通りであった。
 博物館の見取りを取り出し、当日の警備の配置を確認する。
 成程、昼間から勤務している同じ警備員が夜間にも関わらず大量配備されており、労働基準がずさんであることがわかる。他、ロンドン市警の警官も各所に配備されていた。
 が、しかし。クリーチャーを従える3人の怪盗が相手では寝不足の警備員や、警察など何人いても楽々と突破されてしまうだろう。そこで、ヒナタの出番である。

「俺と、使い魔(クリーチャー)であるお前が、奴等を何とかして食い止める……! 相手は、警備の薄いところを狙ってくるはずだぜ!」
「よっしゃ! 任せとけ!」

 画して。黄金の聖杯を狙う3人の怪盗と、探偵・ヒナタの対決が幕を開けたのである。
 ——もう完全に本来の探偵の業務から逸脱してるけどな!!