二次創作小説(紙ほか)

短編6:Re・探偵パラレル ( No.418 )
日時: 2016/10/16 23:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「で、お前も来ていたのか……」
「何だ? 来るとまずいことでもあったか? 三流探偵」
「お前も人の事言えねえだろ、三流刑事」
「そこまでにしたまえ」

 ——当日、午前零時。
 博物館にやってきたヒナタを迎えたのは、見知った警察の人物であった。
 1人は、細身でニヒルな刑事で、もう1人はガタイの良い警部。彼らも警備に来ていたのだろう。
 
「挑発されたとなれば黙ってられないのが、うちの上層部でね。まあ、仕方ない。俺らがわざわざ出る羽目になったのさ、ヒナタ。まあ、普段下着ドロ退治やってるお前の名前があったのも意外だったが」
「何処にだ?」
「今日の警備部隊の中、そして予告上の中に、だ」
「前者はともかく、後者は意外でも何でも……いや、これ以上は野暮か」

 ムッとしながら言い返すヒナタ。
 ついでに、と言わんばかりに反撃する。

「あと、俺は好きで下着ドロの退治をしているわけじゃ——」
「ま、お前ンところに下着ドロの被害届の横流ししてんのロンドン市警(おれら)なんだけどね」
「ちょっと待てやコルアァァァーッ!?」

 流石にヒナタは反論する。
 面倒な仕事を、ただの私立探偵に押し付けていたのではないか、という疑惑が沸いてくる。
 曰く、今のロンドンでは怪盗による窃盗被害が多くなっており、市警も手が回らない状態。更に治安が悪く、やれ切り裂きジャックだのやれ暴動だので彼らも休む間がないのだという。
 そのまま、表情筋一つ動かさず、キイチは一応の謝罪に出た。
 
「まあ、良い。お前とは色々あった仲だ。許してヒヤシンス」
「ヒヤシンスじゃねえよ、面倒事押し付けるのやめてクレメンスだよこっちは」

 最も、謝る気など毛頭ないことはヒナタにもわかり切っていた事ではあるのだが。
 
「そんな茶番をしている暇は無い」
「ッ……!」

 ——おお、流石ロンドン市警屈指の鬼警部と言われるシド警部——! いつかのマグレとは威圧感と溢れ出るシリアスオーラが段違い! 
 この巨漢・シドは、身を翻すと言った。

「着いて来い、君は一応我々の知り合いだ。使い魔も居る以上、我々と一緒に行動してもらう」



 ***



「此処は——」

 やってきたのは、最も侵入がされやすい、とヒナタが感じていた場所である。
 それは、この窓ガラスで張り巡らされた4階ホール。あまり考えたくはないが、此処をよじ登られでもしたら、真っ先に割られて侵入される恐れがあるという。
 
「黄金聖杯は、最も警備の厚い3階のメイン展示室に置いてある。あらゆる入り口を警備員や警官が警備しており、後はこのガラスで覆われたホールのみだ。しかもあそこには窓がない。通風孔くれーだな、換気できるのは」
「おそらく、敵が怪盗ならば、此処を何らかのトリックを用いて突破する——というのが一番有り得る」
「例えば、グライダーで飛んできて上からガラス切りで叩き割るとか」
「でもなあ、こんな人目につくところから侵入するかあ?」
「もう、それぐらい警備は厚いんだ。ほぼ死角はねぇ。後はあり得ると言えば、最初っから警備に紛れていたくらいだが、此処の連中は皆、入る前に身体検査を受けている。俺達も含めてな」
「そう言えば、受けたな。服ぬげって言われて何事かと思ったわ」
「まあ、後はここで俺らは眠い一夜を過ごすのみよ」
「だが、気を引き締めろよキイチ君。油断は禁物だ」
「はいはい分かってますよ、シドさん。ま、でも今回の警備はかなり俺らが口出ししてますしね。今回に限っては警備員を総取り換え。ブラック社長なんぞに任せてはおけねーよ。誰一人として寝不足はいない」

 彼の言い方からして、今回の警備体制には相当徹底されたものがある、とヒナタは感じた。
 ほかにも、沢山の策や罠を張り巡らせているらしく、今の博物館は夜の要塞状態。
 これなら自分の出る幕は無いな、とヒナタは思っているうちに、もうじき2時である。
 怪盗達が予告していた時間帯だ。

「……さて、そろそろか?」
「だが、この警備の厳重さに流石に恐れを成して——」

 と、次の瞬間だった。
 



 ガシャアアアアアン




 何かが壊れる音が聞こえる。
 そして——しばらくして、警官の1人がやってきた。

「申し上げます! 黄金聖杯を展示している3階から侵入者が!」
「何ィ!?」

 キイチは血相を変えていった。
 まさか、一番警備が厳重な上に、窓一つない3階の外からどうやって侵入したというのか。

「な、何だ!? トリックか!? トリックなのか!?」
「い、一体、何が起こった! 言え!」
「し、侵入者は——」

 警官は狼狽しながら、喉の奥から声を押し出す。





「バカでかいハンマーで壁をぶっ壊して入ってきました」




 全員は沈黙する。
 そこには、トリックもへったくれもイカサマも存在はしなかった。
 ただ純粋で、原始的で、簡単でそして——強いもの、それが力——

「怪盗ってなんだっけぇぇぇーっ!?」
「待て。まだ只の野盗の可能性も無きにしろ非ず——早く3階に行くぞ」




 ***




「ははははははははは!! 青い閃光、怪盗・ラビットキッド様と!」
「その助手を務める、ラビッ☆ と登場、クレセントちゃんの登場ー!」

 ——怪盗だったぁぁぁーっ!! 強盗でも野盗でもなく、あれ絶対に予告状の中の怪盗の1組だぁぁぁー!!
 3階の壁に大穴を開けて参上したのは、総髪の背が低いマスクを付けた少年に、使い魔と思われる白い兎の獣人の姿があった。この2人組が、恐らくあの予告状にあった怪盗・ラビットキッドと見ていいだろう。
 獣人の手には、巨大な鉄槌が握られており、彼女がやったとみて間違いはない。恐ろしい怪力も持ち主であることがわかる。
 しかし。流石に警官隊によって取り囲まれているのが見えた。
 黄金聖杯を、此処から奪ることは難しいだろう。
 
「何をやっている!! かかれ!! ひっとらえるのだ!!」
「オオオオオオ!!」

 シドの号令で、警官隊と警備隊がラビットキッドとクレセントに飛び掛かるが——

「ぐおおおおああああ!!」

 勝負は一瞬でついた。
 警官隊と警備員は、クレセントによって薙ぎ払われていく。
 その鉄槌を使うまでも無い。徒手格闘のみで皆倒されていくのが見えた。
 見かねたヒナタとキイチ、シドはラビットキッドとクレセントの前に立ちふさがるようにして躍りかかる。
 そして——言いたかったことを、ヒナタはぶつけた。

「おいちょっと待てや!! なんだこれ!? 怪盗って格闘技で警備薙ぎ払っていくもんなの!? 力業でごり押すのが本当に怪盗のやり方なの!?」

 ただし。それは予告状の件でも聖杯の件でもなく、あのラビットキッドのやり口に対してであったが。

「何言ってんだあんた? 怪盗ってのは、怪力でごり押す強盗、略して怪盗じゃねえのか?」
「アホかお前!! いっぺん、言葉の意味を勉強し直してきやがれ!! んな怪盗あるか!!」
「違うよノゾ——ラビットキッド! 怪盗ってのは、怪力でぶっ壊す強盗、略して怪盗だよ!」
「成程な。納得だ」
「納得じゃねえよ!! 結局同じだからね!?」
 
 喉を枯らしながら突っ込むヒナタであったが、それを手で制して前に出るのはシドだ。
 
「貴様。その黄金聖杯を盗んで何をするつもりだ?」
「シ、シド警部……!?」
「古くより。黄金聖杯には、このような伝説があるのだ」
 
 目を閉じ、シドは語りだす。

「——黄金聖杯。それは、手にした者の願いを叶える強大な器。歴史上では、それを巡って度々争いが起きた——それが聖杯戦争」
「ちょっと待てや!! どっかで聞いたことあるけど!?」
「今までは、例えばそうだな、この国の伝説のア〇サー王を女体化したアレとか、別の時間軸の成れの果てとか、歴史上の人物だとかを召喚してなんやかんやして——最後に勝ったものが聖杯を手に入れることができるとかいう噂だったか何だったかが伝わってたような気がする」
「アバウトだなオイ!!」
「なら使い魔(クリーチャー)じゃなくて使い魔(サー〇ァント)の方が良いんじゃね?」
「やめろォ!! 怒られる!!」
「ちなみに今のは全部フィクションだ、手に入れても願いは叶わん、所詮はただの純金のカップ」
「伝説(笑)じゃねえか!!」
「何!? フィクションだったのか!?」
「まさか信じてたのか、この自称怪盗!?」

 驚きを隠せない様子のラビットキッドであったが——それでも、何としてでも聖杯を奪い取るつもりらしい。
 クレセントが、再び得物を握る。

「折角願いが叶うと思ったのに——身長をせめて後10cmくらい伸ばせるようになるという夢が!!」
「身長やっぱり気にしてたのね!!」
「うーんー——もういいや。さっさと盗みだしちゃお!」

 だっ、と彼女は地面を蹴る。話の流れなど関係ない。狙う先は——ガラス張りのケージの中に入った、黄金聖杯だ。
 純金でできたそれには無論、願いを叶える効力こそ無いものの、売れば相当の金額が叩きだされるだろう。
 どちらにせよ、盗むだけの価値はあるのだ。

「——さっ、避けないとケージごと叩き割っちゃうよ、その頭——!」
「いかん! 使い魔(サー〇ァント)の攻撃は——危険だ!! 避けろ、ヒナタ!! キイチ君!!」

 あの鉄槌の威力。
 大きさ、重量感からして凄まじいことは察せられる。衝撃派だけでも大怪我しかねない。
 ヒナタは、余りの迫力に動けなかった——わけではなく。




「白陽!!」

 


 その名を呼んだと共に、ガキイイイン、と硬い金属音が鳴り響く。
 そこには、紅蓮に燃える炎を身に纏った超獣の姿があった。あの衝撃をものともせず、打ち消してしまったあたり、流石というべきか。
 手に握られた大槍で鉄槌を受け止め——彼は言った。
 
「サー〇ァント、ランサー参上。ヒナタ——じゃなかったマスター、指示を」

 ——伏字ィィィィィィィーッ!! お前もそれ引っ張るんかいィィィィ!!