二次創作小説(紙ほか)
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.419 )
- 日時: 2016/10/16 12:30
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「ともかく、この私の前で宝は盗ませんぞ——」
現れた白陽は、もう先ほどのチビ狐のものとは違っていた。
口調も大人びており、伝説の国・ジパングの陰陽師の服を身に纏い、得物である大槍——と西洋では言われるが、正確に言えば長刀に近い——を再び構え、距離を取る。
クレセントは嬉しそうに口を開いた。
「あはっ! どうやら、本当に来たみたいだね、白陽!」
「やはり、お前だったのかクレセント! 幾らお前でも、敵対するならば容赦はしない!!」
「あたしに容赦したら、死んじゃうからね!!」
ガキィンッ!!
火花を鳴らして、両者の得物が弾かれあった。
しかし。がくり、と膝を先についたのは白陽の方だ。
やはり、かなりの負担がかかっているのだろうか。
「あたし達2人は前世で戦い、そして禁断の恋を結んだ仲——ああ、禁断って響きって甘美——でも、やっぱあたしたちはこうやって戦ってる方がらしいよね!」
「そんなことは関係ないッ! 此処でお前を倒す」
「おいクレセント! 宝の方を狙え! そっちに構うんじゃねえ!」
「やーだよっ! もっと、白陽と戦いたいしっ!」
真紅のルビーのような瞳をギラつかせる。
まさに、戦闘と狂気に呑まれているような表情だ。
「なあ、このクレセントちゃん、ちょっとバトルマニア入ってない!?」
「あー……スキルで狂化がEだけど入ってるからなあ。一回戦闘すると、制御が」
「バーサーカーじゃねえか、本当にサー〇ァントだよこれじゃあ!! 令呪とかないの!?」
「あるわけねーだろ!?」
キイチの悲痛な願望も、怪盗本人に一蹴され、場はより混乱を極めた。
実は、元からこのような一面があったのはあったのだが、それはさておき。
クレセントが鉄槌を振るい、殴る。殴る。殴る。
地面を蹴り、一回転し、そのまま大上段に振り下ろす——それを、槍だけで白陽は受け止め、受け流し、そして打ち払った。
が、それだけで精一杯だ。恐るべし、バーサーカー。怪力のみならず、敏捷性もとてつもない。肉体で敵っているとはお世辞にも言い難い白陽では、戦いづらいことこの上ないのだ。
「くそっ、強化妖術で体を強化していなければ、今頃木っ端微塵だ!!」
「あはは! それじゃあ、これとかどうかな!」
次の瞬間、クレセントの鉄槌の小さなハッチが6つ、側面から開いた。
そこから——魔力を燃料に、大量の誘導式ミサイルが飛ばされていく——
「他所でやれぇぇぇ!!」
というヒナタの叫びはさておき、白陽も負けじと大量の護符を生成した。
それをバリアのように張り巡らせ、一発一発を受け止めていく。
流れ弾がこちらへ飛んできた。急いで階段へ隠れる。
「アホかぁぁぁ!! あいつら何リアルファイトおっぱじめてんだぁぁぁ!! これもう、探偵モノでも何でもねぇよ!!」
「本編では見られない2体のリアルファイト……需要はあるのではないか?」
「何であんたが需要とか言ってんの!? 絶対ないからね!?」
とうとうボケ始めたシドに突っ込むヒナタ。
しかし。
「あはははは! これでお終いだよ、白陽!!」
この戦いにも終わりが訪れようとしていた。
クレセントがとうとう、天井まで自慢の脚力で飛び上がり、そのまま一回転して——鉄槌を白陽へ大上段へ振り回したのだ。
これだけならば今までと一緒だ。
しかし。力の入りようが全く違う。
鉄槌は青い雷を迸らせており、そのオーラが全く別次元のものであることを示していた。
「ムーンサルト、スタァァァァァァンプ!!」
振り下ろされる鉄の礫。
それは、鋼さえも打ち砕く金剛の一撃。
この世の絶対的物理法則・重力に威力を相乗させたその一撃は——
「ふんっ」
——大振りだったのが仇になったか躱されてしまう。
だけならば良かったのだが——鉄槌が、床にめり込んだ。
更に——
「え、あれ!? ちょ——」
めきゃっ、と音がする。
あれだけの威力の技だったのだ。空振りして床に振り下ろして、タダで済むわけがない。
そのまま、衝撃波で鉄槌の部分のみならず、周りにまでヒビが入り——彼女の居た場所は文字通り崩落した。
「きゃあああああ!?」
貫通。
それに尽きる。
そのまま彼女の姿は2階、1階、そしてその更に下へと消えていった——
「クレセントォォォーッ!?」
叫ぶノゾ——ではなくラビットキッド。頼りの綱が居なくなってしまった以上、形勢は一気に逆転したと言える。
そのまま彼女がこちらへ戻ってくる気配もない。
「さあ、どうする? クソガキ。今なら豚箱行きで許してやるぜ」
「有利になったとたんに強気になるな、お前!!」
「くっ、まずい、どうする!? まさかクレセントが此処までアホとは、オレも予想外!! 現実は小説より奇なり!! いや、でも考えれば考える程、予想外でも何でもなかった!?」
「良いから捕まれやァァァーッ!!」
ダッシュするキイチとシド。
もうここから先は彼らに任せよう、と一部始終を見届けようとしたその時だった。
プシュウウウウ……
何やら、空気の抜けるような音がする。
次の瞬間、下の階から警備員がやってきた。見れば、せき込んでおり、しかも涙で目が真っ赤に腫れていた。
ゴホッ、ゴホッ、とむせながらも、彼は辛うじてその正体を言った。
「や、やられました!! 催涙ガスです!!」
という旨の事を、鼻声で伝える。
「何ィ!? ガスマスクは配備したはずだぞ!?」
「ダメです!! 使っても、中に入ってきました!!」
「発生源は分かったか!?」
「そ、それが——さっぱりで——」
と、その時だった。
キイチの瞳に、涙が浮かぶ。
そして、眼球が充血して、瞼が腫れ始めた。
同時に彼はせき込みだす。
「げほっ、がほっ、うっうっ!?」
膝をついた。
どうやら、既にガスが部屋に回り始めたらしい。
無論、彼がこの状態ということは——ヒナタやシド、ラビットキッドもただでは済まない。
クリーチャーである白陽も同じだ。
全員せき込み、鼻水が出て、涙が出てしまっている。
「はははは、ご機嫌よう諸君」
「いやあ、愉快ですねえ。痛快ですねえ。このアヴィオール、自分の作った兵器がしっかりと効いているのを見ると、快感を感じます」
つか、つか、と階段を上る音。
見れば——そこには2つの影が。
1つはスーツを纏った竜人。
もう1つは——マントにシルクハットを被った紳士服の男であった。間違いない。
使い魔を連れた怪しげな2人組。彼らも怪盗だ。
「げほっげほっ、おヴぁえらか!! ぼれをばいばのば(これを撒いたのは)!! うえっ、うぇ、ばびばが!!」
鼻声になり、もうまともに喋れない。
一方の相手は得意げになって言った。
「その通りだ。ドイツ製のガスに魔力を込めたもので、ガスマスクも貫通する優れもの。このアヴィオールは魔法の扱いは誰にも負けん」
「ふっふっふっ、如何でしょう?」
「此処から先は……このブラックバードの……ショーだ。美学無き者共……そこで宝が……」
ただ、妙だったのは、その声が妙に鼻声で途切れ途切れだったことか。
「この、ゲホッ、づらっゲホゲホッ、宝がぼって(持って)いかれるのを指をくわえ、うっうっ、見ているヴぁ……ずるるる……覚悟しろ……」
——あれえええ!? ひょっとしてこいつ、自分のガスでこうなった!? だとしたらただの間抜けだぞ、何でそんなもん使ったんだ!?
見れば、完全に目が腫れて鼻水が出ており、咳き込んでいる。
撒いた本人・ブラックバードは完全にこれで弱ってしまっているようだった。
これぞまさに、ザ・自滅であった。