二次創作小説(紙ほか)
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.42 )
- 日時: 2014/06/22 23:23
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
「えーっと、クレセントちゃん、あの空に浮いてるのは一体?」
『し、知らないよ……さあ』
クレセントは呆然としていたが、思考が全て元通りに戻ると、ノゾムは叫した。
「いやいやいや、待てぇぇぇぇぇ!!」
確かに、ニュースの中継で例の一角馬を見た後だったが、そのときより体が小さく、幼い子馬といった感じだった。
だが驚いた点は、それだけではない。さっきまでヤツは2区----------ヒナタの家の辺りにいたはずだ。そしてヒナタならば、迷わず交戦しているだろう。それが此処にいると言う事は、ヒナタが負けたか、あるいはその他の要因が絡んできたと言う事だ。
前後ろ足は短く、頭も小さい。動物園で見たことがあるロバやポニーよりも小さいといった印象だった。
しかし、その角は非常に鋭く、獰猛で、鋭利なユニコーンの側面を表していた。
「我が名はハーシェル。気高き一角馬よ!」
高らかに名乗りを上げて、直後地面に降り立つ。
「気に食わぬ……純潔の乙女の近くにやってきたと思ったら間違いであったか!! 気に食わぬ、気に食わんのじゃ!! 突き殺してくれる!!」
「ぎゃああ、コッチ来たぁぁぁ!!」
やはり、敵だと誤認されているのか。暴走している所為か。
完全に暴走してしまっている所為か、目を真っ赤にしてこちらへ駆けてくる。
咄嗟に避けるノゾム。と、同時にカードの中からクレセントが現われて、鉄槌をふるって一角馬の身体を受け止める。
「何て硬い鎧……!! この鉄槌で砕けない装甲なんて見たこと無いのに……!!」
一方のハーシェルはヒヒン、と声を上げながら突っ込んできた。グシャァ、とアスファルトに大穴が空く。
石が飛び散って、身体に打ち付けられる。
痛い。すねも腕も足も。
「いたたたた……、もっと場を弁えた戦いしろよ、あのクソ馬!!」
「まずいわね……さっきまでの憑代の体の特徴から、自分だけでも完全に実体化して戦える程になってる」
「よりしろ……!?」
つまり、憑依するための媒体である。
「そう。あたしも白陽もデュエリストがいないと自力では実体化できないんだけど、クリーチャーは自分に似た生命体に憑依することで、その生命体のデータを身体に読み込んで自力で実体化できるようになるの。ただ、それは時間がかからない、というだけで最悪自分にあまり似ていない生命体--------例えば人間に憑依しても時間はかかるけど、あんなかんじに自力で実体化できるようになるわ」
鉄槌で押さえつけながらノゾムに言うクレセント。今ならまだ余裕がある。
「それなら、今までにもアイツが騒ぎを起こして居そうなもんだけどな。何故今日、実体化したんだって話になる。そんなことができるならよっ!」
「多分こいつ、今日目覚めたのよ。それしか考えられない! って、わわわ!?」
ガキィンッと鋭い金属の音と共に、鉄槌が振り払われた。そして、胸をめがけて一直線に角が突き立てられる------------が、そこは流石クレセント、といったところか。鉄槌を捨てて身軽な動きでぴょん、と後ろに飛んで回避した。
「あっぶないわね!!」
『ブルァァァァァ……ヌシ、男がいるな……!! 汚れた女など要らぬ!! 純潔の乙女以外には興味はないわあああ!!』
ガッ、とアスファルトを抉って一角馬が突貫した。
「くそ仕方がない、クレセント! 決闘空間に引きずりこむぞ!」
「ムリムリムリぃぃぃ!! こいつ全然止まんないもん!!」
さすがに、相手も止まっていないと、霧が向こうも包む前に消えてしまう。
「ちょ、ちょっと!? 何かあったんですか!?」
いそいそと掛けてくる音と共に、スライドの扉が開いてホタルが中から現われた。
そして、目の前で行われている激闘を眼にして立ち止まってしまう。
腰にはデュエリストの証であるベルトに吊られたデッキケース。
まずい、一角馬にとっては絶好のカモである。
「まずっ、ホタル! 今出てくるな!」
「ふぇ!? なんですか、あの兎さんに馬さんは……スクープ! 大スクープです!!」
「馬鹿ヤロォォォォ!! 出てくるなっつったろーに!!」
たたた、と首にぶら下げたデジカメを持って走ってくる。
そして、彼女を目に留めたハーシェルが瞳を丸くする。
「ふははははは!! ヌシ、我と波長が完全に一致しておる!」
「ふぇ?」
「我の番になれぃ!! 決闘空間開放!!」
ガッ、とクレセントとノゾムを突き飛ばし、ホタルへ突貫。そのまま、黒い霧を噴きだした。
「ヤ、ヤバ!? クリーチャーも決闘空間を開放できるのかよ!!」
角がかすって多少擦り傷が出来たノゾムは、当然ながら自分のTシャツに穴が開いていることに気づく。
だが、そんなことはどうでも良い。ホタルが空間の中へと消えてしまった---------------
***
「うぅ、何が起こったの……」
目を擦ると、ホタルは目を丸くした。紫色の空間の中に半透明のガラスの盾、そしてデッキケースから飛び出した40枚のカードが山札、手札を成した。
「え? デュエマしろってこと? でも、誰と……」
「我に決まっておるじゃろう」
ククク、と目の前の一角馬は不気味に笑った。
「う、嘘……クリーチャー? でもあの男も使ってたし……」
「ふふ、実体化したクリーチャーを見たことがあるようだが、関係ない。ヌシは我の嫁となるのだから」
「な!?」
「この空間では、勝ったものこそが負けたものを蹂躙できる。実に良いルールじゃ」
ホタルはこの時、ようやく自分が置かれている状況を理解した。
この空間の中では勝利こそが全て。
勝つことこそが、絶対的なルール。
負ければ、絶望しか残らない。
「させない……そんな勝手なこと、させません!」
「そーか、そーか。嫌ならば、我に勝ってみることだな。まあムリだろうが」
正直言って、まだこんな空間の中に急に閉じ込められて、しかもデュエマをするといった今の状況にすら頭がついていっていない。
だが、デュエマをするしかない、と言う事だけは理解できた。
自信は無い。
だが、あそこでノゾムがあの兎と共に戦っていたのは、自分をあの馬から遠ざけるためだとすれば、彼の止めた声に応じず出しゃばってこうなってしまったのは自分の責任他ならない。
「勝てる……んでしょうか?」
だが、逃げられるわけでもない。
ダメ元だが自分のデッキを信じるしかないのだ。
「ダメですよ……私はノゾムさんみたいにデュエマが強いわけじゃないよ……」
「ふはは、怖気づいたか?」
「でも……逃げることはもっといけないって事も分かってます……!!」
ノゾムは逃げないでやってきた。自分を守るために。自分もあんな人になりたい。強くなりたい。
-----------それに、勝てば何でも従わせられるってことは、私がここで勝てばあの一角馬を仲間にして------------お父さんとお母さんを助けられるかもしれない!
「覚悟が決まったか。我が名はハーシェル。気高き光文明のユニコーンじゃ! ヌシは?」
名前を問われた。まだ、現実味が沸かない。だけど、勝つしか道は無いのだ。
「私は淡島ホタル……貴方に勝ちます!!」
このとき------------決闘の火蓋は切って落とされた。