二次創作小説(紙ほか)
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.421 )
- 日時: 2016/10/18 10:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
凛とした声が聞こえる。
階段の下から、ヒナタ達は現れた声の主の姿を見た——途端に、壁から蔓が生えてくる。
それを見た彼らは一気に飛びのいた。
それは植物の蔓で間違いない。それが壁や階段から生えていっているのが、謎であるが。
そして、それを発生させたのは、あの声の主。
セーラー姿に、スカーフを巻いたポニーテールの少女。そして、その傍を歩く、長靴を履いた猫だ。
やはり、彼女らも怪盗なのだろう。
「ふふ、窃盗専門探偵・ヒナタ・アカツキ。この女怪盗・フェブラリーキャッツから宝を守れるものなら守ってみなさい! 挑戦を受けたからにはこの勝負、逃げる事は許さないわ!」
「フェブラリーキャッツ様の挑戦状を受け取ったからには、勝負ですにゃ!」
「成程な。この俺に挑戦状を叩きつける意味合いもあったのか、俺の名前が書いてあったのは!」
「さあ、正々堂々とした勝負に邪魔者は不要! ニャンクス!」
これが、予告状にあった最後の怪盗・フェブラリーキャッツだ。
白陽が槍を構え、威圧する。しかし、躍り出たのはニャンクスと呼ばれた猫だ。
「では白陽様、少々大人しくしていてくださいにゃ」
「何を。大人しくするのは貴様だキャスター。ランサーである上に魔力耐性の高い私とは相性が悪い」
「それまだ引っ張ってたのかよ!?」
「キャスター枠ってどっちなんだろうな。アヴィオールでもあいつでもいけるよな」
「むう、難しいな、キイチ君」
「そういう話じゃねえよ!!」
近くの展示ケージに隠れながら、ヒナタは役に立たない刑事と警部に怒鳴る。
「キイチ君。此処は適当に、アヴィオールの方はクラスが闇っぽいという理由でアサシンにぶち込めば万事解決だ」
「流石シドさん」
「ざっけんな! んなこと言っている場合か!」
と、言っている間に今度は壁や床から太い蔓が伸びて、白陽の四肢を狙っていく。
恐らく、全て縛って動けなくするつもりだろう。
が、しかし。
「植物は燃せば燃える! 焼き尽くしてやる! 炎熱乱舞ッ!!」
「果たして通用しますかにゃ? ヴァインド・ヴァイン!」
大量の護符が飛んでいく。
それら全てに火が付けられた。
護符は火の弓矢となった——が、しかし。
「確かに、物理的に言えばそうですにゃ。でも——魔力容積の違いというものがある。僕と白陽様では、明らかに魔力の容量が違う! よって、その程度の炎では葉を焦がす程度でしかない!」
「成程、幾ら炎が草に強くても、レベル1とレベル50の差を覆すのは不可能と言っているようなものか……!」
「レベルって何のレベル!?」
余りにも魔力の差がありすぎるのか、錬成された蔓は炎さえも弾き返してしまう。
そのまま、白陽の四肢に蔓が絡まっていく。
恐ろしいスピードだった。彼が退避する前に、蔓は腕も、脚も縛ってしまったのである。
「馬鹿め、まだ念導力は使える! イリュージョン・ファイ——」
「させませんにゃ!」
ぎゅん、と音を立てて何かがニャンクスの手から放たれた。
それが——白陽の胸に触れた途端、光を放って彼の体へ吸い込まれていく。
動かない彼は恰好の餌食だったというわけだが——
「うっ!? マ、マナが、体内のマナが——」
「にゃははは! これが僕の丸薬の力ですにゃ! さあ、このまま縛り上げてやるのですにゃ!」
「っおのれ……!」
「おい、どうしたんだよ、白陽!!」
ケージの傍で叫ぶヒナタ。
白陽の様子が明らかにおかしい。まだ、体を縛られても念導力が使えるはずなのに、それが使えないのだ。
「お、おのれこいつ……! 丸薬で私の魔力を封じるとは……!」
そう、あの丸薬には白陽のマナを封じる、つまりは妖術などを全て封じる効力があったということだ。
「とは言え、貴方ほどの実力者ともなれば、結局はこの僕が常に縛っていなければならない! さあ、後はフェブラリーキャッツ様! 貴方が直々に!」
「そうね」
つか、つか、と歩いていくフェブラリーキャッツ。
そんな中、今まで殆ど役に立たなかった刑事と警部の2人が、飛び出した。
「させねぇよ! 警察なめんな!!」
と言い、飛び掛かるも——
「あべしっ!!」
「ひでぶっ!!」
彼女の強烈な蹴りが2人に炸裂した。
それをヒナタは茫然として見ているしかなかった。少し息切れしている辺り、体力は低そうだが、戦闘力は高そうだ。
そのまま屠られた刑事と警部はヴァインド・ヴァインによって四肢を縛られてしまう。完全に動きを止められてしまった。
これで、もう彼女の前に立ちはだかるのは探偵のみ。
対峙するヒナタとフェブラリーキャッツ。
背後を見れば、蔓が展示ケースを締め付けてとしている。それを彼女が奪い取るという寸法だろう。
あの蔓、縛る、絞めるといった簡単なことは出来ても、あの太さではものを掴むような器用な真似は出来ないはずだ。
いや、出来ないことはないはずだが、既に3人を縛るのにリソースを使っている以上は、かなり疲労していると見た。
「さあ、どうする? ヒナタ・アカツキ。止められるものなら止めてみなさいよ」
「クッ……!」
「おい、どうにかしろヒナタ! 探偵だろ!」
「何か策は無いのか!」
「本当に役に立たなかったな、あんたら!!」
しかし、怒鳴っている暇は無い。
今は彼女をどうにかして止めなければ、どの道ヴァインズ・ヴァインに囚われて終わりだ。
それが無いのは——必死で白陽やシド、キイチがもがき、魔力のリソースを浪費させているから。
それもいつまで持つかわからない。
ヒナタは——サングラスをかけた。スッ、と今まで起こった事が頭へ入ってくる。
「あれは、探偵主人公特有の推理モード!!」
「まさか、こんなところで発現するとは!!」
「どっかで見たことあるんだけど、こういうの!?」
——奴をどうにかして止める方法——ガスも、クリーチャーも、使えない。道具もない。
——奴の情報は、さっき階段から降りてきたばっかだから何もわからない。だけど、徒手格闘で勝てる相手じゃなさそうなのはわかる!
——ん、階段——? 下から——? そういえばあれの形状は——? そういえば、さっきの蹴りの時も——そうかっ!! 全てが繋がったぜ!!
——思い出せ、俺!! この謎を解く方法は、必ずある! 頼りになるのは俺の記憶力と推理力だけだ!!
思い立った時、既にヒナタは床を蹴っていた。
一方のフェブラリーキャッツも構える。
「ふっ、女だからと言って嘗めないで頂戴、持久力は最悪だけど、武術の腕は立つのよ! 返り討ちにしてやるわ!」
「——!」
ダッ、とヒナタはそのまま駆け抜ける。
刹那——彼女の傍を一瞬で滑り込み、そのまま通過する。
一瞬、全員は彼が怪盗を通してしまったのかと思った。
しかし。走り出そうとした怪盗はその場に立ち止まった。そして——バッ、としゃがみこんでしまう。
「な、なにが起こった——!?」
「あの怪盗を止めた、だと!?」
騒然とするその場。
ニャンクスが、「どうしましたかにゃ、フェブラリーキャッツ様!!」と叫んでいるものの、とうとう蔓を引きちぎってしまった白陽に羽交い絞めにされている。
そして——振り向きもせず、フェブラリーキャッツは呻くように言った。
「ど、どうしてわかったの——!?」
「へっ、最初にお前が出てきた時から分かってた。あの時は朧げだったから断定できなかったけど、お前のあの蹴り——あれで俺は自分の推理に確信が持てたぜ」
サングラスを髪の上にあげると、彼は言い放った。
「——お前が今日履いてきてるのが、”紐パン”だってことがな!!」
その場の空気は彼の推理によって——冷凍された。