二次創作小説(紙ほか)
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.422 )
- 日時: 2016/10/18 06:13
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
数秒後、そこにあったのは息を荒げているフェブラリーキャッツと床に頭から埋まっているヒナタ・アカツキの姿であった。
残念でもないし当然の結果と言える。
そのうえ、白陽も今度は蔓にぐるぐるに簀巻きにされて、完全に状況は一転してしまったと言えた。
「流石対下着ドロ専門探偵と言ったところだな、お見事」
「せめて床に埋まる前に言ってやれ」
「とにかく、黄金の聖杯は頂いていくわよ!」
ピキピキ、と音を立てて、とうとうケージが砕け散る。ずぼっ、と頭を床から抜いて、ヒナタはその様相を見ていた。
「馬鹿者!! それに触ってはいかん!!」
怒鳴ったのはシドだ。
しかし、得意げな表情を浮かべて、怪盗は聖杯を手に取る。
「はっ、世迷い事を。このまま持ち逃げしてやるわ! 所詮はただの純金のカップ、売れば金に——」
と言って、彼女が聖杯を手に取ったその時だった。
『ウ、ウウウウウ——!!』
妙な呻き声が聖杯から聞こえる。
思わず彼女はそれを手から放した。
「確かにそれは願いを叶えるような代物ではない——しかし、不用意に触れれば——恐ろしいものを召喚すると言われている!!」
「お、恐ろしいもの、ですって!?」
「あくまで伝説だ——そんなことは今まで一度も無かった! しかし、これは——」
次の瞬間、聖杯の一部が口のように開き、それがぱくぱく、としゃべり始めた。
『復活の時は来た……! ”杯の魔人”であるこの我が——再びこの世界で暴れてくれよう!』
聖杯から煙のようなものが噴き出た。
そして、煙の中に魔人のようなものが現れる。
もんず、と怪盗の体を、それが掴んだ——
「——きゃあっ!?」
『ぶははははは、この私の怒りは、全てを破壊するまで止まりはせんのだぁぁぁ! 聖杯に封じられし屈辱、しかと思い知るが良い! 封印されて3000年、遂に聖杯の効力は切れたのだ!』
「本当にロクなもんじゃなかったってことかよ!」
「成程、どっちにしたって封印は解けたってこったな!」
次の瞬間、白陽やキイチ、シドに絡まっていた蔓が外れる。
そして——
「フェブラリーキャッツ様を離すのですにゃ!!」
ニャンクスが、大量の蔓を魔人へ放つ。
しかし。それら全てがもう1つの手で掴まれて、引きちぎられてしまった。
「何だ? この程度か?」
「ぐっ——!」
呻くニャンクス。
自分では、主人を助けることが出来ないのか。
この圧倒的な力を前にして——
「おい、キイチ。久々だな、こうやって隣で並ぶのは」
「そうだな、三流探偵」
今度は前に出たのは、ヒナタとキイチだった。
無謀すぎる。クリーチャーでさえ太刀打ちできない怪物に、挑もうというのだろうか。
「お前らとは色々あったもんなあ」
「ああ。仕事押し付けたり」
「仕事押し付けられたリ」
「上層部に捜査と言って金搾り取ったり」
「そっちの手柄横領したり」
「BBQしたり」
「メタル〇ア貸したり」
「随分とまあ、ドロドロした関係だったが——たまにはこうやって、協力するのも良いもんじゃねえか?」
「そうだな。1人じゃ出来ねえことも、2人なら——」
数秒後。
そこには、魔人に頭から床へ埋められた三流探偵と三流刑事の姿があった。
「ちょっとはシリアスを保て、貴様等はぁぁぁーっ!!」
怒鳴るシド。予測可能回避不可能であった。残念でもないし当然である。
ずぼっ、と床から頭引っこ抜くと、口々に彼らは言い出す。
「いや、もうなんかすいませんでした。ノミ野郎ですいません、ネズミに寄生してすいません」
「卑屈になるな!!」
「本当すいませんでした、人間風情が調子こいてすいませんでした、大人しくしてます許してください」
「正気を持て、キイチ君!!」
『何か……ごめん』
「お前も謝るんじゃない!!」
が、再びぶはははは、と笑いだすと魔人は言った。
『だがな! お前らは此処までだ! このまま私に皆、潰されるが良い!』
「ちょっとあんたたち!! 早く逃げなさい!! 今度こそ殺されるわよ!!」
叫ぶフェブラリーキャッツ。
確かにその通りだろう。この魔人の魔力、相当なものだ。
しかし——勝てない相手ではない。
ヒナタは、ニャンクスに呼びかける。
「おい、ニャンクス! お前、主人を助けようとは思わないか!? 怪盗だとか、警察だとか、探偵だとか、もうそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!?」
もう、今は立場の事でどうこうと言っている暇は無い。
このままでは全滅もあり得る。
「で、でも、僕だけじゃ——!」
「私も協力しよう。お前の主人を助ける。だが、今のままでは妖術で攻撃が出来ない」
「!」
それならば、と彼女は丸薬を1つ、取り出した。
そして白陽に投げる。
次の瞬間——彼に、炎のオーラが戻っていく。
「これでもう、戦えるはずですにゃ!」
「……協力してくれる、ということだな」
「僕にとっては、フェブラリーキャッツ様が——全てなのですから!!」
彼らは再び自らの得物を構える。
白陽は大槍を。
ニャンクスは宝杖を。
目の前の魔人へ向ける——
「ニャンクス!? ダメよ! 危ないわ!」
「フェブラリーキャッツ様! 僕達が今、助けますにゃ!」
「ニャンクス。2人掛かりだ。連携して倒す!」
「了解ですにゃ!」
次の瞬間、彼女の足元に魔法陣が現れた。
そこから、大量の蔓が現れる。
それを、白陽が足場にして巨大な魔人の顔面を目指す。
『ははは!! させぬわ!!』
魔人の拳が迫った。
しかし、それを軽々と白陽は避けてしまう。
そして——
「幾ら貴様と言えど、私のこの一撃は耐えれぬまい! 所詮は魔人、魔神ではないのだ、再び眠るがいい!」
『おのれっ!!』
ふうっ、と魔人が吹き出したのは炎の吐息。
しかし、彼の護符がそれを受け止めてしまう。
そして——
「炎、熱、乱舞ッッッ!!」
大量の護符が炎の弓矢となって、魔人の全身を撃ち貫いていく。そして、動きが止まったところが好機だった。左胸を狙い、大槍が投げつけられる。
悲鳴を上げて、聖杯に封じられし怪物は、そのまま崩れ落ちていった。
同時に、その巨大な手からフェブラリーキャッツが落ちていく。
それを——ヒナタが受け止めた。
「……酔狂なものね。怪盗を助ける探偵なんて、聞いたことが無いわ。何であたしを助けたのよ」
恥ずかしそうに、彼女は言う。
しかし。
「犯罪を犯すのに理由があったとしても、誰かを助けるのに理由なんざ要らねーんだよ」
そう言い切った彼の背景に、崩落していく魔人の影。今度こそただの純金のカップとなった聖杯は——再び、黄金に輝いていたのだった。
***
「……博物館の3階はヤバいことになったものの、聖杯は無事。だけど怪盗2人は取り逃し——」
後日。報酬を取り敢えず受け取ったヒナタは、目の前にいる人物に目をやった。
「お前は司法取引で、お前は他の怪盗が盗んでいた宝の在りかを言って無罪放免、だとぉ!? フェブラリーキャッツ改め、コトハ・キサラギ!! どういうことだぁ!?」
「時価3億円近くのお宝の在りかで、しかももう見つかってるわ。万が一の時の為に調べておいたのよねー? 後、盗んだものは全部返した。怪盗業は完全に廃業よ」
「で、何しに来たんだ……」
盗みから足を洗った、と悪びれずに言うコトハに、げんなりとした表情でヒナタは言う。
今更それでは彼女が何をしに来たというのか。
「……貧民層だったあたしは、クリーチャーのニャンクスに出会ってから、盗む事でしか生きる方法が見出せなかった。だけど、あんたはあたしにまた、別の可能性を示してくれた。あんたがいなけりゃ、あたしは死んでたかもしれないしね。誰かを助ける生き方——それも悪くないと思ったわ」
「そうか」
「それでね。このあたしを、この探偵事務所で助手としておいてほしんだけど——」
「!?」
びっくりしたような表情で、ヒナタは机をばん、と叩く。
「ちょっと待てや! どういうことだ!」
「ま、つまり、あたしの働き先になってほしい、ってことで」
「ダメ! 絶対ダメ! うちも経営難だし——」
「んじゃ住み込みで」
「図々しいな、お前!!」
「僕もいますにゃ!」
「お前もかよ!」
「ま、それでひ、紐の件はチャラにしてあげるから……ね?」
頬を紅潮させると、彼女は言う。
どこかいじらしい彼女に、ヒナタは仕方なさそうに溜息をついた。
人手が足りないとは重々感じていたところだ。
助手が増えるというのは、悪くない話。
かのシャーロック・ホームズにも敏腕な助手がいるというし。
「ま、いーんじゃねーか? オイラも良いと思うぜ。元怪盗の助言は、結構捜査で役に立つかも?」
「……確かに、そうだなあ。んじゃ、決まりだ」
「やった! ありがとう、ヒナタ!」
「ま、これからよろしく頼むぜ、怪盗——いや、コトハ、そしてニャンクス」
——画して。
新たに助手も加えて、新たにヒナタ・アカツキ探偵事務所は再スタートを切ったのだった——
「——あのー、すいません。私、ホタル・アワシマと言う者ですけど。この間依頼に来た」
「あ」
見れば、それはこの間の博物館の職員だった。
そして——淡々と彼女は言う。
「この間の分で、博物館の3階が色々備品が壊れたりして、警察に相談したところ、”あ、そういうのは全部ヒナタ・アカツキ探偵事務所にね”って言われて」
「え、ちょ、おま」
「——総額、1万ドルの請求がこちらです」
ぴっ、と渡された請求書。
確かにそこには請求額が合計1万ドルと書いてある。開いた床の穴など、明らかに怪盗が残していったものなどがあったり——
「ま、これは依頼を受けたそっちの責任だと、フジ・ブトー様が」
「ざっけんな! これ全部怪盗がやったんだぞ!?」
「残りの2人捕まってませんしね。まあ、色々差し引いても1万ドル残るわけなんですよ」
この額は、今回の報酬を差し引いてもマイナスになる。
完全に大赤字だ。
そして、ヒナタの顔も真っ青になっていく——
「だ、大丈夫よヒナタ。あたし達も協力するから……」
「り、り、り、理不尽だぁぁぁーっ!!」
ロンドンの街に、三流探偵の絶叫が響く。
これは、理不尽で不条理な19世紀ロンドンを生き抜く、探偵たちの物語——
短編6(完)