二次創作小説(紙ほか)

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル) ( No.423 )
日時: 2016/10/21 00:15
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ——某日、ロンドン・ガトウィック空港にて。

「やれやれ、またもや長い空の旅だったな」
「だけど、今度はどんな戦いが待っているか、楽しみですねっ!」
「そうだな。もし、今回オレが出るなら——今度こそ、勝ってやるぜ!」
「とにかく、今度も強敵だわ。気を引き締めていきましょう」
「分かってるよ。油断は最大の敵、だからな!」

 ——2回戦の相手が、イギリス代表のライトレイデュエルスクールであるという旨を伝えられたのは、あの戦いが終わってすぐであった。
 もたもたしている暇は無い。今度の戦いの舞台であるロンドンを目指し、長い長い空の旅の末——ヒナタ達はイギリスへ辿り着いたのである。
 そして此処は首都・ロンドン。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国及び、これを形成するイングランドの首都。屈指の世界都市として有名なのは、芸術、教育、商業、娯楽、ファッション、ヘルスケア、メディア、交通などに於いても高い影響力を持っている故か。
 そして——カードゲームでの影響力もアメリカに次ぐと言われる。
 それもそのはず、第一回戦でイギリス代表の王立ライトレイデュエルスクールは、侵略を使用していたタイ代表をあっさりと下しており、かなり士気が高いと思われる。
 特に、2戦目に現れた少女だ。あの少女の前では、侵略も何も通用はしなかった。

「確か、相手は黒単使いだったな」
「そうですね。でも基本、彼らのチームはほとんどがオールラウンダーになれるように教育されていますから、次は何を使うかわかりません」
「そういえば、こっちじゃ何が人気なのかな」
「環境デッキは、その時その時ですけど、やはりカリスマ的人気を誇るのは、日本が火なら欧米諸国は全体的に光、つまり原典のMTGで言う主人公カラーの白が人気です」
「こっちとは真逆なのね」
「ステレオタイプのヒーローのカラーでもあるからな」
「話はそこで纏まったか?」

 後ろから声が聞こえた。
 タブレットを携えた、フジの姿がそこにはあった。

「そういえばフジ先輩、今回はここで待機、って言ってましたけど、どうしたんすか?」
「待ち合わせだ。もうじき来るはずだが」

 待ち合わせ、と彼は言った。
 どうやら、今回はその案内人の指示で向こうの学校へ視察へ行くらしい。
 パーティのようなものは当然だが、無いというのは事前に確認した通りである。正直、二度とごめんだ、とヒナタは感じていた。

「——長い空の旅、お疲れ様です。鎧龍チーム」

 全員が振り向いた。
 目を惹きつけられたのは、その金髪だろうか。
 そして、剣の意匠の髪飾りを髪の両サイドに着けている。
 瞳は空のように蒼い。ノゾムに至っては、見惚れてしまったほどだ。

「来たか」

 口を開いたのはフジだ。
 彼女も受け応えるように返事を返す。
 その両隣には厳つい顔をした、黒スーツの男が立っていた。

「——王立ライトレイデュエルスクール、コーネリア・ブルースデールと申します」
「! この人って!」

 この間、タイ戦で2回戦に現れ、すぐさま決着をつけてしまった少女だ。
 ほぼ、完封だったことが記憶に新しく、名前も焼き付いていた。

「紹介しよう。彼女はライトレイデュエルスクールの中でも、”漆黒近衛隊(エボニー・ロイヤル)”と呼ばれるマスタークラスに配属されている。それと同時に——我らが武闘財閥の管理する、『遊撃調査隊(クリーガー)』の一員でもある」
「『遊撃調査隊(クリーガー)』——!?」

 以前、フジからその名は聞いていた。
 クリーチャーにかつて、関わった者で組織された、クリーチャー事件に対抗する為の組織だ。

「暁ヒナタ、黒鳥レン、如月コトハ、十六夜ノゾム、淡島ホタル、と言いましたか——それぞれが星のクリーチャーの使い手、ですか」

 口ぶりからして、彼女も星のカードのことを認知しているようだ。それもカードではなく、クリーチャーとして。
 しかし、その声は、瞳は、どこか冷たい。
 何気ない事を呟いているだけなのに、凍てつくようなものが心を刺し貫いてくる。
 ——なんか、怖い人だな……。
 テレビで見たときと、ほぼ同じ印象だ。
 しかし、『遊撃調査隊(クリーガー)』である以上は自分たちの味方であることには変わりない。信用に値する人物であるとはいえた。

「——では、私の紹介も終わったことですし、これから貴方達には我が校に来て戴きます」

 彼女は、外にスクールバスを止めてある、と言った。
 それでライトレイまで行くというらしい。 
 彼女に案内されるがままに、彼らは空港を後にしたのだった——




 ***



「——すげぇ」

 一言でいえば、それに尽きた。
 結局は鎧龍と同等クラスでしかなかったジンリュウとは違い、と言わしめる程だ。東京の人工島に鎮座するだけあって、鎧龍もハイテク校ではあるのだが、此処は更に巨大だ。
 4階立てのガラス張り校舎を3つ有しており、更に加えて、万能スタジアムに研究施設まで備えてあり、面積は相当なものだ。
 加えて、全校生徒は2000人。鎧龍の全校生徒700人代を上回り、最早この時点で大学クラスとなっている。
 更に、それらがイギリス全土から集められた猛者だという。

「2度の実技試験に加え、ペーパーテストは国内でもトップクラスの難易度。学力なくして、入学はあり得ません。そして——」

 最初にやってきたのは合同ホール。
 此処では、有に300人は超えるのではないか、という人数の生徒が既にデュエルを行っていた。

「あれは?」
「この間、入学したばかりの1回生達と高等部の6回生です。演習という名目で、実力者達と繰り返し戦い、そして圧倒的な実力で、完膚なきまでに叩きのめし、”負かせる”」
「負かせる……?」
「はい。カードゲームに於ける甘い考えを全て打ち砕き、そして次のプロセスへと繋げる。この学校では、1人1人を最強クラスに磨き上げる為に、徹底とした教育プログラムが組まれているのです。いつか訪れる、負けられない戦いの為に」
「相当、厳しいんだな……」
「それだけではありません。プロ選手を度々招き、講義や模擬指導なども行っており、更に1年に1度は夏休みの一部を使って合宿を行い、地力の向上を図る」

 ですが、と彼女は続けた。

「デュエルだけではありません。さっきも言った通り、学力無くして入学はあり得ず、学力無くして勝利もあり得ない。また、スポーツは頭脳を活性化させ、当然頭脳のスポーツにも影響を与えます。P.E(体育)も重視しており——」

 そう、しばらく彼女の話が続く。
 今までのデュエリスト養成学校とはけた違いのスケールで選手を育成していることが分かる。
 繰り返すが、ただただスケールが違いすぎる、と漠然とした感想がそこにはあった。
 教育方針だとか、理念だとか、学校を回りながらそういった話を聞かされる。
 余りにも硬派で徹底的なので、苦言を漏らすようにヒナタは問うた。

「……なあ、なんつーかすっげぇかっちりしてんのな?」
「楽しさだとか、そういうものはデュエル・マスターズには必要ないので。遊びではありませんから」
「そ、そうか」

 ——遊びではない、か。
 話を聞いていたレンは、険しそうな表情でそれを聞いていたのだった。
 ——確かにイギリス、ライトレイの教育方針のそれは、日本のどのデュエリスト養成学校のものよりも厳しいものだ。更に輩出されるプロプレイヤーの質も遥かに高い。日本が特段低いというわけではないが、そこにあるのはカードゲームへの意識の違い、か——

「日本も、鎧龍も見習ってはどうでしょう? 今やカードゲームはただのゲームではない。頭脳スポーツです。武闘フジ、貴方もそれは分かっているでしょう?」
「……あのだなあ」
「楽しんでいるレベルでは、まだ遊び。彼らも、我らの教育方針を取り入れればさらに強くなれるのでは? 良いですか。私は、カードゲームを遊びとは思ってはいません。スポーツです。更に強固で厳しいものにすれば、更によくなるはず。それは前から言っているはずですよ」

 流石のフジも若干困惑した様子で返す。
 そのまま何か紡ごうとするが、先に声が割って入る。

「下らんな」
「!」

 言ったのはレンだった。
 彼が進み出たことに、全員は意外そうな顔をする。
 それも、初対面の相手に対して「下らん」と一蹴。空気が凍った。

「……聞き捨て、なりませんね。それは一体、何に対する”下らん”、でしょうか」
「遊びだの何だの言うが、まさか貴様は僕らが手を抜いて戦っているとでも言いたいのか? 押しつけがましい真似はやめていただきたい、ミス・コーネリア。僕らは僕らのやり方で強くなる」
「——我らのデュエル・マスターズには余りにも程遠い——貴方達は甘い考えの日本人の中では私達に近いと思っていましたがね、間違いでしたか」
「さあな? 確かに、この中には貴様の言い分に同調した者もいるやもしれん。だが、それはそれで各自で決めるまで。貴様に口出しされる覚えはない。まさか、自分達の考え以外が全て間違ってるとでも言いたげだな」
「……やれやれ、勝つためにゲームをするのか、勝負のためにゲームをするのか。明らかに前者の方が生産的でしょう。ゲームは勝つためにあるのですから。当然の事を、何故理解しようとしないのです」

 不機嫌そうに言うと、彼女はヒナタに目をやる。

「特に暁ヒナタ。貴方のように、勝負を楽しむような部類の人間はダメだ。もっと冷徹に、理不尽に、相手を徹底的に蹂躙しなければならないのに。そんなデュエルは果たして、本気と言えるのですか?」
「待ちなさいよ! あんたたちが間違ってるとまでは言わないけど、ヒナタはいつも本気で戦ってるわ! それを馬鹿にされる覚えはないわよ!」
「そうだそうだ! そして先輩は強いんだ!」

 真っ先に反論したのは、コトハとノゾムだった。「お、落ち着けって!」とヒナタは2人を窘める。自分が言われた事よりも、彼らが怒りだす方がいけないと思ったのだろうか。
 ホタルは、険悪なムードに震えてさえいた。

「そして黒鳥レン。貴方も美学だの何だの、それこそ下らない事を言っていないで、もっと冷徹に勝利を求められるのではないですか? 貴方こそ、我々に一番近いと思っていたのですがね」
「——だとすればとんだ勘違いだ。僕は自らの美学に従い、デュエルを行う。勝負に於いての美学とは、相手に学び、相手を尊ぶこと。相手無くしてゲームは無い。貴様の考えが間違っているとまでは言わないが、少なくとも僕は同調できない」
「”下らない”。対戦相手など、蹴落とす対象でしかないのに。油断すれば、自分が蹴落とされる。まして、貴方達に至っては負ければ最悪死ぬような世界に片足突っ込んでるのに」
「今、クリーチャーの話を出すのはお門違いというものではないのか? 競技と殺し合いでは、また別の話だろう」
「どちらも同じでしょう。やらなきゃやられる。それがこの世の真理ですから」

 完全に雰囲気は険悪なものとなる。
 まあ、いいでしょう、と彼女の方から一方的に話を打ち切り、この場は収まった。
 レンも不服ではあったろうが、そんなことはおくびにも出さず、その後は一切黙っていたのだった。
 険悪なムードのまま、学校視察は終わったのである。