二次創作小説(紙ほか)

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル) ( No.424 )
日時: 2016/10/22 02:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——それでは、本日はありがとうございました」

 淡々とした声で、コーネリアは言う。
 先ほどのレンとのやり取りで、完全に空気は凍り付いていたが。
 一触即発。
 もう、場の誰も喋りはしなかったが——別れ際にフジが切り出す。

「——コーネリア。最近、そちらで何か変わった事は無かったか?」
「……? どういうことですか、フジ先輩」
「イギリス国内に反応があるとの報告が入ったのが一週間前。変にテメェらには騒がれても困るから、今の今まで隠していたがな——此処、ロンドンには、星のカードがある」
「!!」

 『遊撃調査隊(クリーガー)』の一員である彼女は、世界の各地に散らばっているクリーチャーとかつて関わりを持った者達の1人で、クリーチャーの可視及び決闘空間の解放が可能だという。
 それを生かし、このイギリス国内にあると言われる星のカードの捜索をフジは彼女に依頼したらしい。
 しかし、コーネリアは首を横に振る。

「……いえ、全く見つかりません。反応はロンドン市内にあるとみて間違いないのですが」
「そうか。引き続き頼む。俺様達も何時までも此処には居られるわけではないからな」
「分かりました。それと——もう1つ」
「? なんだ」

 怪訝そうな表情でフジは問い返す。
 間髪入れずに、少し不安そうな表情をコーネリアは浮かべた。

「観測装置のデータにノイズが混じっており、只のエラーか或いは——何かが、この町の波長に入り込んだ可能性が高いです。奇妙なものだったので」

 そのまま、タブレットの端末をフジに手渡した。
 データをダウンロードすると、それをざっと見てから、彼も頷く。
 警戒するに越したことはない。邪悪龍の使い手がすぐ傍まで迫っているかもしれないのだから。

「……そうか、気を付ける」

 タブレットから目を離すと、再三彼は申し訳なさそうに言った。

「ともかく、今日はすまなかったな。うちの後輩が不快な思いをさせたかもしれん」
「いえ、お気になさらず」
「……」

 黙りこくるレン。確かに突っかかったのは彼であるが、その後に彼女がヒナタを罵ったのも事実。どこか、晴れないもやもやがあった。
 ヒナタ達もそれに続いていく。
 そのまま、シャトルバスがエンジン音を立てて、ライトレイから去っていくのを冷淡な表情でコーネリアは見つめていた。




「——極東の黄ザル共が……調子に乗るなよ」



 ***



「——許せないわよね!」

 バスの中で、憤慨したのはコトハだった。

「何というか、嫌な感じっていうか、あの人……おまけにヒナタのことまで馬鹿にして!」
「だけど、あの人の言う事も分からねえでもねえよ? カードゲームは、突き詰めていけば頭脳スポーツ。海戸も、鎧龍もそれを目指してるからよ。徹底的にやる、ってのは間違っちゃいねーと思う」
「ヒ、ヒナタがそれ言っちゃう!?」
「なんつーか、先輩がそう言うのは意外っすわ」
「じゃあ、ノゾムはどう思う? あの人らのやり方は」

 ノゾムは一瞬、答えに困った。
 
「ま、確かに合理的、ではあると思うっす……」
「ああ。デュエマを、スポーツとしてみるならこれほど良い環境はねぇよ。はっきり言って、奴から見れば俺らは甘ちゃんかもしれねえ」
「そ、そんな……」

 沈んだような表情で、ホタルは言った。
 コーネリア達からすれば、デュエマはゲームですらない。
 競技性を突き詰めたスポーツだという。
 その姿勢は、ある意味ではデュエマに対して最も正直で最も本気の向き合い方であるとも言えた。
 しかし。

「——でも、俺もだけどさ。レンは、それはちょっとちげーんじゃないか? って思ったんじゃないかな」
「レン先輩が……」

 窓の向こうの景色をぼんやりと見つめるレンを見る。
 メンバーの中では、特に真剣にデュエマに向き合ってきた人物が、一見相似性さえ感じられるコーネリアに真っ向から対立しにかかった。 
 それは、彼の中で積み上げられてきたものが関係していると言えるだろう。

「あいつも、色々あったからな……それでも命懸けのデュエマをやっている中で、結論を出すのは、すっげえ難しいことだ」
「先輩……」
「俺は、大好きなデュエマで人の命が決まるのは、はっきり言って嫌だ。そんなの、ゲームでも何でもねぇ。レンの言った通り、只の殺し合いさ。だけど、こうやって命懸けのデュエマに関わる中で、白陽達に出会えたのもすっげぇ素敵な事だって俺は思ってる。コーネリアも、ゲームとその狭間で揺れてるんじゃねえか?」鍛えて
「過去にクリーチャーに出会った人物、ですからね……」

 全員は唸る。
 唯一人、レンだけがぼーっと窓の先を見ていたのだった。




 ***




「——一秒たりとも時間は無駄には出来ん」

 宿泊先のホテルに着いた矢先、フジは言った。

「ライトレイが得意とするのは、単純に強いデッキで押し潰す戦法だ。天門ループ、黒単、ドロマーハンデス次元、キューブリペア、墓地ソース、イメンループ、オプティマスループ以下略ッ! 聞いただけで相手したくないようなデッキばかりだ。あの鬼畜ビルダーを思い出す」
「確かに……これはげんなりしますね」

 それらは全て、単純に勝つことを追い求めた至高のデッキ達。
 いずれも、カードパワーの高いドラグハートやサイキックをはじめとしたカードは勿論、見ただけで眩暈がするようなループコンボを搭載したデッキも多い。
 今回の敵は、侵略者ではないのである。

「なら、あたし達もそれなりに鍛える必要があるわね」
「試合まで、今回は確か4日、でしたか……」
「かなり時間が開く分、デッキも引き続き練っていかねえとな」

 笑みを浮かべるヒナタ。
 相手が強敵であることには変わりない。

「各自、練習メニューをこなすのは勿論だが、どう過ごすかは自分自身で決めていってほしい」
『はいっ!!』

 5人の返事が響き渡る。
 今回は時間が長い分、より有意義に時間を使えるかが鍵となる事は間違いない。
 前回のジンリュウ戦以上の緊張を彼らは強いられることになったのである。

「だけど、今回の相手もヤバそうだな……」
「はい。かなり、辛い闘いになることは間違いないです」
「——相手が誰だろうと関係は無い」

 不安がる後輩に、声をかけたのはレンだった。

「いつも通り、何があろうと僕は僕のデュエルをする。貴様等もそうだろう。不安ならば、不安を消せるくらいに練習すれば良いだけの話だ」

 彼の言葉に、ノゾムとホタルは顔を合わせる。
 確かに、今更臆している暇は無い。
 時間はあるようで、もう無いのだから——




「——それじゃあ、特訓開始だ!」