二次創作小説(紙ほか)
- Act2:シャノン ( No.425 )
- 日時: 2016/10/22 22:45
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「——ハ、ハハハハ!! 甘い、甘いぞ、ヒナタ!! 貴様はその程度か!!」
「何のォ!! 押し切ってやるぜ!!」
凄まじい表情を浮かべ、未だに対戦を続ける2人。
既に今日だけで40戦近く行っているが、昼飯の間もガン飛ばし合い、遂には午後の練習。
極限の精神状態でスパーリングを繰り返していた。
「オラァ、テメェら。夜はDVDでの分析もあるのに、こんなところでバテたらどうすんだ。勝手に極限状態に陥ってんじゃねェ」
「仕方ないですよ。オールラウンダーのヒナタ先輩が、結局のところ一番対戦のし甲斐があるってレン先輩言ってましたもんね」
「頭も使ったら疲れるんだからな、分かってんのかコイツら」
ぜぇ、はぁ、と息を切らせる2人。
鎧龍チームは、オックスフォード・サーカスのビルにある多目的ホールを、フジが貸し切って練習をしていた——までは良かったが、ヒナタとレンはライバル同士ガチになりすぎるのが問題であった。
こうして、どちらかがくたばるまでデュエルを続けるのは、熱帯魚のベタの雄同士に通じるものがある。
「そ、それでは、僕は少し外の空気を吸いに……」
「おーう行ってこい、死にそうな目ェしてるから行ってこい」
「は、ははは……もう、疲れたのか、レ……ウッ」
「ひゃあ!? ヒナタが倒れたァ!?」
が、流石のレンもきつくなったらしい。ヒナタもぐったりしている。脳もエネルギーを使う上に、ブドウ糖しか栄養源にしないため、脳疲労というのは一気に根を詰めすぎるとしばしば起こるのだ。
「休憩だ休憩。各自6時まで自由時間とする!」
***
オックスフォード・サーカス。
ロンドン髄一のショッピングポイントであり、立ち並ぶ店の数も多い。石造り風味の建造物も多く、風情を感じる。
大路には、赤塗りの二階建てバス——いわゆるロンドンバスというものがあり、浮世離れした世界観に一役買っていた。
「全く違う世界に来たみたいだな、アヴィオールよ」
『ですねえ。ボクらの住んでいた世界の街には、このような建造物も多かったですが、懐かしい』
「土産の1つでも勝って帰るべきか——だが、カタログで既に頼んでしまったものもあるし……」
『黒鳥レン、案外そういうことを気にするのですね』
「別に良いだろう。たまにはな。まあ、観光しに来たわけではないのは分かっている。だがな……」
その後も色々な店を見て回る。
飲食店は勿論だが、沢山の写真が展示されてあるフォトギャラリーや、デパート、雑貨屋などを、ざっと見ていった。
『いやあ、良いですねえ。日本だけでは、こういうところには絶対いけないでしょうし』
「貴様には、もっとこの世界のものを見せてやりたいな。なんせ、僕でも見たことのないものであふれているのだから」
『ボクには勿体ない幸せです』
「……む?」
思わず、目に留まったのは巨大なカードショップ。石造りの建物で、アンティークな外観だ。
『カードショップですか?』
「ああ。珍しいものがあるかもしれん」
英語表記の文字を読むと、どうやら今日、此処で大会があったらしい。土日ということもあり、多くの参加者でにぎわっていたらしいが、もう終わってしまっていたようだ。
中から、小学生から中学生くらいの少年少女が出ていくのが見える。
——中だけでも見て回るとするか。良さそうなカードがあれば、買っておこう。
そう思い、店内に足を踏み入れた。
成程、なかなか広いスペースの店だ。
冷房の冷たい風が肌を撫でる。
見れば——日本で見たことのあるカードもあれば、全く記憶にないイラストのカードもあった。
——ふむ。カードの現地調達か……どれ、良さげな闇のカードは——
展示されているシングルカードをじっくりと吟味する。目はカードに釘付け、そのまま店内を練り歩く。
本当に買うかどうかも考えていれば、あっという間に時間が経ってしまうかもしれない。時間は有限だ。早く決めなければ。
「ひゃうっ!?」
その時、何かにぶつかった気がした。
余所見をしながら歩いていたので、目の前からやってくる人影に気付かなかったのだろう。
すぐさま、反射的に謝る。
「すまない。大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫だよ」
ぶつかったのは、少女だ。
それも、自分よりも小柄で、ノゾムとほぼ同じくらいか。
碧眼が、レンの黒い瞳を覗き込む。
何気ない仕草だったが、小動物のような印象を与え、思わずレンは目を逸らしてしまった。
「ね、ねえ? アナタって、鎧龍の——黒鳥レン?」
「む、そうだが……」
「ほんと? 人違いじゃない? 偽物じゃないよね?」
「生徒証明書ならここに」
「やったー! ほんとにほんとに黒鳥レンだぁ!」
ぴょんぴょん、と嬉しそうに彼女ははしゃぐ。
こうもちやほやされるのも初めてなので、レンは戸惑ってしまった。が、悪い気は不思議としなかった。
そして、彼女はハッとなって口を噤む。どうやら、他に人が寄ってこないか気にしているらしい。周りに人がいないのを確認すると、再び笑顔を浮かべた。
「……むう、意外だな。ちゃんと知って貰えていたとは」
「当然! 自分の学校が次に当たるところなんだもん! 特にアナタはすっごい強いって学校じゃ大騒ぎ!」
「ということは——貴様は、ライトレイの生徒」
「うん!」
こくり、と頷いた彼女は溌剌とした声で言った。
「Nice to meet you! アタシ、ライトレイ1年のシャノンって言うんだ! 会えてとっても嬉しいよ、レン! 」
「そ、そうか……それはありがたい。改めて黒鳥レン、だ。よろしく頼む」
少し、意外だった。コーネリアの影響もあって、ライトレイのデュエリストはかなり固い思考の持ち主であるという先入観があり、拍子抜けしてしまった。
が、1年ということは、今年の9月に入学したばかりなのだろう。
まだ、教育の影響に染まっていないということか。
——ライトレイ、か……。
レンはふと、思考を巡らせる。もしかしたら。彼女達はとにかく勝負に勝つことに拘っていた。もしかすれば、これは一種の偵察行為なのではないか? と疑ってしまったのだ。
以前のノアのように、無邪気を装って自分たちの内情を自ら探りにきていた人間がいたので、此処最近少し疑心暗鬼を生じていたが——
——いや、それならわざわざ最初に学校名を出すような真似はしないだろう。僕は何を考えているのだ。
そんな邪な振り切る。目の前のシャノンの表情は純真そのものだ。
「ねえ、時間があったらで良いからさ。話、してもいいかな? 日本のデュエリストの事、もっともーっと知りたいんだ!」
「ああ。もちろんだ」
時計を見る。
まだ、時間はありそうだった。
——まあ、たまには良いか。