二次創作小説(紙ほか)

Act2:シャノン ( No.426 )
日時: 2016/11/05 16:39
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 近くの喫茶店で、2人は向かい合う。
 えへへー、と朗らかな笑みを浮かべて、シャノンは話し出した。

「何か、夢みたいだなぁー。あこがれの日本のデュエリストに会えるなんて! しかもレンはカッコいいし、デュエマも強いし!」
「そんなに褒めるな。何も出ん」
「むう。日本人は謙虚すぎるよぅ。アタシは素直に褒めてるだけなのに」
「……まあ、有難く受け取っておく」
「私は代表じゃないから、レンと戦えないのが残念だけどさ。えへへ……でも、日本のデュエリスト……1回で良いから、戦ってみたかったなあ」
「何だ。遠まわしに僕とデュエルしたいと言ってるのか」
 
 う、と小さく呻き、少しだけ頬を紅潮させると、こくり、と頷く。
 
「……そ、そりゃさ、戦ってみたいよ。でも、アタシみたいなデュエリストがレンに挑むなんて……」
「やってみなきゃ、分からないだろう? ライトレイ程の学校に行けるデュエリストならば、デュエマがどういうゲームかはわかるはずだ。何が起こるかは、最後まで分からん」
「そうでもないよ。アタシ、まだ何もわかってないって言われた。先輩も、先生も、とても厳しいから」

 成程、彼女もライトレイの厳しい環境に、まだ慣れていないのだろうか。
 少し俯きがちだった彼女だが、もう1度明るい顔を見せる。

「でもね。アタシにはデュエル・マスターズしかないからさ。頑張るんだ! アタシなんかをライトレイに拾ってくれた”恩人”の為にもね!」
「恩人、か」
「うん!」

 彼女の目は、輝いていた。
 彼女ならば、希望を失わずに前に進めるだろう。
 その姿からは、あのサングラスのライバルを思い出す。

「……そうか。それが貴様の選んだ道ならば、間違って等はいない。人生、自分次第で運命は変えられる。貴様が頑張れば、例え険しくても道は開ける」
「……何か、レンってすっごい事言うよね。アタシと1歳だけ違うとは思えない」
「そうか?」
「そうだよ! なんか、もっとレンの事が好きになっちゃった!」
「……」

 思わず黙りこくってしまう。
 こうもストレートに好き、と言われるのも始めてだ。LoveではなくLikeの好きではあるが、それでもだ。
 文句を言われたり、邪険にされたりすることばかりだったので、慣れない言葉に戸惑ってしまった。

「それでそれで、日本のデュエリストの事もっと知りたいな!」
「……ふむ。此処に来て思ったが、やはり光が有名らしいな。こっちでは、火が看板になっている」
「火が? ふうん、確かに燃える炎を吐くドラゴンとかってかっこいいよね!」
「そうだな。ドラゴンはやはり、強い。ドラゴンだけで沢山の種族がある」
「こっちじゃ、エンジェルとかがプッシュされてるからねえ。天使の勢力は、イギリスが今一番強いんだよ」

 やはり天使か、とレンは思った。
 白は、ステレオタイプの正義の色。日本では、一方的な正義、支配など悪い側面が描かれることもあるが——本質はやはりそこなのだろう。

「それとさ! 日本の事をもっと教えてよ! デュエマの事以外もあるよね!」
「あ、ああ……日本の事、か」
「うん! 例えばさ、日本って美味しい物がいっぱいあるんでしょ!? 何がオススメ!?」
「なぜそうなる」
「だってだって! 色んなものがあるって聞いたよ! あたし、食べること大好きなんだよね! 日本人も食べることは大好きみたいだし!」

 美味しい物……そういうことはむしろ、ヒナタやコトハの領分ではないか、と思った。
 ——イギリスの食事情……イギリス料理がまずいとはよく言われるが、それは昔の話。今では美味しいレストランも沢山見られる。この辺、よく調べねばな……何故こうなる? 何故調べなきゃいけない流れになっているのだ?
 そこまで彼自身食に興味があるわけではない。
 というよりも、余りにも種類が溢れすぎていて、何から紹介すればいいか、分からない。
 咄嗟に思いついた料理を口ずさんでしまう。

「……カレーライスだ」
「カレーライス? カリーアンドライスならイギリスにもあるよ? アタシも大好きだけど」
 
 そういえばそうであった。
 植民地だったインドのスパイス料理と、ベンガル地方の主食である米と合わせたカレーライスというものを考案したのはイギリス人だ。
 最も、その外観は

「……日本人にとってカレーは最早国民食、様々な派生料理がある。日本のカレーは旨い」
「本当!? 食べてみたいなあ!」

 ——ああ。短絡的な思考の自分が憎い……。しかもイギリス発祥のものを答えてしまうなんて……。話題が途切れてしまうではないか。
 小学生でも思いつきそうなものを口走ってしまった事を後悔するレン。
 もっと和食だとか、そういうものから選んで答えるべきだった、と思う。

「あ、後は麺類だな。うむ。ラーメンだとか……」
「うん! 知ってる! 日本のラーメンって、ヨーロッパでも広がりつつあるんだよ!」
「そ、そうなのか……」

 ——知らなかったァーッ!! 下手したら、”もう全部ヨーロッパで食べればいいじゃん”とか言われそうだ!! 
 日本のラーメンはうどんの派生形であるが、今や世界中に、そして大本のはずの中国でも日式ラーメンとしてチェーン店が出来つつある。
 何というか、自分が紹介しているのに、こちらの方がどんどん勉強している気分だった。
 
「でも、ラーメン食べに日本に行く人もいるみたいだし! アタシも行ってみたいなあ!」
「後は、うどんとか……」
「ああ、それも食べてみたい! そういえば、ハワイにはすっごい行列ができる日本のうどんのお店があるって!」

 ——日本食進出しすぎだろォ!? そんな話初耳だぞ!?
 レンは、自分の知らない世界をどんどん覗いている気分であった。
 ああ、情けない。自分の国を紹介する前に、その自分の国の事すらよく知らない自分が情けなかった。

「後、日本とかってさ。サムライとかいたりするの?」

 幸い、興味は別の事に移ってくれたらしい。
 
「いや、居ないからな。そんなものがいれば銃刀法——」
「でも、十六夜ノゾムっているよね? 鎧龍チームの。あれってサムライじゃないの?」
「髪型だけだからな、あいつのは!」

 そういえば、ノゾムは剣道をやっていたのを思い出す。
 そしてあの総髪、何故彼はあんな結び方をしているのか。身内の事なのに知らないことがまた増えてしまった。
 ——他人に紹介しようとすると、自分が身近の事に対して如何に無知かを思い知るな……。

「でもでも、お城とか、刀剣とか、いっぱいあるんでしょ!?」
「そういうものが飾られている博物館もあるが。後、現存している城もあるにはある。文化も根強く残ってはいるが……」
「やっぱ日本って面白い国だよね——」

 そう、シャノンが言いかけた時だった。
 目の前から彼女が消える。
 怪現象を前にして、レンは辺りを見回した。
 居ない。
 店内に誰も居ないのだ。
 同時に、周囲には妙な空気が漂っていた。

「——決闘空間——!? 何故!?」
『黒鳥レン。気を付けて下さい。何者かが、空間を開きました。邪悪な気配が辺りに』
「……うむ。分かっている」




「この時空間は、完全に先ほどお前がいた時空間から独立している——それは分かるな?」




 声がした。
 見れば——店内に、ローブを被った長身の男が佇んでいる。

「貴様——何者だ」
「我が名は”キング”。宝銃の龍の使い手よ。今やその力は完全に目覚め、英霊を司る王者として顕現したのだ」

 要するに、邪悪龍の使い手ということで間違いない。
 恐らく、コーネリアが言っていたデータに混じったノイズとはこの男のことだったのだろう。
 ——聞きたい事は幾らでもあるが——これは、看過できんな。

「貴様が何者かは大体分かった。敵対するならば、倒すだけだ。この空間を開いたということは、そうだろう?」
「ハハハハハ、その通りだが——倒す? 我を? 黒鳥レン。倒れるのはお前だ。我は、王者の龍を従えし男——お前に我は倒せん!」

 刹那、シールドが正面に浮かび上がる。

『黒鳥レン、やりましょう』
「ああ。勿論だ。敵に容赦はしない!」

 この男を放置することは出来ない。
 決闘空間を解かれれば、喫茶店やシャノンにも被害が出る。
 その前に倒さねばならないのだ。



「——教えてやろう。偉大なる賢王の素晴らしき力を——!! 星の英雄よ。しかと見よ!!」