二次創作小説(紙ほか)
- Act3:賢王の邪悪龍 ( No.429 )
- 日時: 2016/10/24 07:39
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
それは、甲冑を着込んだ龍であった。
槍と思われていたそれは、カパァ、と音を立てると共に光線を放つ宝銃と化す。これが、ケフェウス座の邪悪龍の真の姿、《クラベリオンCep》であった。
遍く知識と知恵を結集し、完全なる龍となったのである。
「——《クラベリオンCep》が武装に成功したとき、効果発動!! 山札の上から5枚を見て、その中からコスト6以下の呪文を好きな数だけ選び、唱えても良い!!」
「なっ——!?」
再び展開される山札。
その中から、次々に呪文が銃弾となって飛んでいく。
「ビンゴ!! 当たったのは3枚!! まずは《魔弾 ストリーム・サークル》!! その効果で、《ブラッディ・メアリー》と《ウツセミヘンゲ》をバウンス!」
「ッ……まずい、これは……!!」
激流の魔弾が、《ブラッディ・メアリー》と《ウツセミヘンゲ》をそれぞれ手札、そして超次元へと送還する。
更にそれだけではない。《クラベリオンCep》の放った魔弾はまだ終わってはいないのだ。
「2枚目、今度は呪文、《魔弾 バレット・バイス》!!」
「クッ……!!」
こちらの手札へ干渉してきた。レンの残る手札が全て墓地へ落とされてしまう。
そして最後は——
「呪文、《魔弾 アルカディア・エッグ》!! その効果で、《タイガニトロ》を破壊!!」
——これにより、レンの場は全滅。
一瞬で更地になってしまった。
キッ、と強大なる賢王龍をレンは睨んだ。
途方もなく大量のマナを有する彼を止める方法は、無い。
「《アルカディア・エッグ》の効果で、3体目の《ネロ・グリフィス》をバトルゾーンへ!! そして、《クラベリオンCep》の効果で——」
そう、キングが言いかけたその時であった。
ピタリ、と彼が動きを止める。
「——何をやっている? キング」
キングの背後には——ローブを深く被った、小柄な人物の姿があった。
その声にはノイズが掛かっており、不気味さを感じられる。
男か女かは分からない。
——だ、誰だこいつは——!?
敵か。味方か。それさえもはっきりしない。
バクバクとなり続ける心臓。デュエルは、中断されたということで良いのだろうか。
「クッ、今すぐにこいつの息の根を止め——」
「愚かな。この男を確実に倒せる確証は貴様には無いだろう? 何処に行ったのかと思えば、こんなところを油を売って——目的を履き違えるなよキング」
「ぐぬう。貴様に言われては仕方あるまい——!! 折角手にしたこの力、早く試したかったが——!!」
小柄なローブの人物は、レンに向かうと言った。
どうやら、キングを連れて何処かで行くつもりらしかった。
間一髪と言ったところか。
「——この男が失礼したな。黒鳥レン。我らは、いずれは戦う身——しかし、それは今ではない」
「貴様らは、何が目的だ——!!」
振り絞るようにして声を出す。
それでも、聞けることは聞いておきたかった。
ノイズのかかった声が言葉を紡ぐ。
「少なくとも。貴様らを倒す事が目的ではないのだ。あくまでも、貴様等を倒すのは貴様らが我々の邪魔になると判断した時のみ。狂人のアンカは、何が何でも関係のないカードまで欲しがっているが——」
「もっとも邪魔をすれば黒鳥レン。貴様に関わる人物から——」
「そこまでにしろ、キング。行くぞ」
くるり、と2人のローブは姿をその場から消す。
同時に——決闘空間が崩れ去ったのだった——
「——ねえ、聞いてるの? レン?」
ハッ、とレンは我に返る。
気付けば、喫茶店の席に座っており、相変わらずシャノンがこちらに話しかけている途中だった。
未だにばくばく、と音を立ててなる心臓。
さっきまでの出来事が、夢のようだ。
「す、すまない。取り敢えず、だな——」
言葉が続かない。さっきまで、決闘空間でデュエルしていたことが頭に焼き付き、会話の内容など忘れてしまった。
——僕に関わる人物、か——
時計を見る。
もうそろそろ時間だった。とにかく、どう弁明するかは決まった。
未だ鳴りやまない胸を抑える。
「——済まない、もうそろそろ時間が着てしまったようだ」
「ええ? 残念」
「僕も貴——いや、君と話せて楽しかった。ライトレイ戦の前に、少し気が楽になったようだ」
「アタシ、ライトレイは勿論だけど、鎧龍も応援しているからね! どっちが勝っても、アタシはオッケーだよ!」
「……ありがとう」
——もしも、僕に関わったが為に彼女も狙われるようなことがあれば大変だ。
そう思い、レンはカードを1枚取り出す。
「そうだ。君に渡しておきたいカードがある。せめてものお礼だ」
「お礼? 良いよ、そんなの……」
「何、こいつは日本でしか出ていないカード。そこそこ使えるはずだ」
「……ありがとう! でも、アタシだけ貰うのも悪いな……」
「それなら、トレードという形にしないか? そちらからは何を出してもらっても構わん」
「じゃ、じゃあさ」
彼女もカードを、ポーチから漁る。
そして、1枚を探し当てると、レンに見せた。
「アタシはコレを」
「……これは」
「闇、使ってるんだよね? 役に立ったら良いなあ」
「……ああ、ありがとう。それでは、僕は此処で失礼するよ」
席から立ち上がるレン。
もうそろそろ帰らないと、皆に心配を掛けてしまう。
さっきの事を、報告するため、というのもあった。邪悪龍がこの街に潜んでいることは一大事だ。
「ねえ、レン」
「ん? 何だ」
「また会ってくれる? アタシ、絶対試合見に行くから! レンの事も応援するから! だから、アタシとデュエルしてくれる?」
「……勿論だ。なら、明日。またこの場所で落ち合おう。練習の合間で良ければ」
「うん!」
レンは喫茶店から立ち去った。
内心では、苦しい程の焦燥を抱えながら——
***
「楽しかったなあ。まさか、黒鳥レンに出会えた上に、対戦の約束まで! カードまでトレードしてもらったし、今日は何て運が良い日なんだろ!」
彼女の目の前には、巨大な石造りの豪邸があった。
「えへへ。自慢できちゃうなあ」
ガチャリ、とその扉を開け、中に入る。
そして——玄関に居た人物に目を止めると、真っ先に駆け寄った。
「コーネリアさん!」
その声で気付いたのか、彼女も振り向く。
冷淡な眼差しを向けるが、口を開いた。
「……お帰りなさい、シャノン。今日は少し遅かったですね」
その言葉は、何処か穏やかだった。
「えへへ。聞いて聞いて! カードショップの大会は勿論、優勝だよ! でもさ、それよりもすっごいことがあってね!」
「何ですか? 聞かせてください、シャノン」
カードを取り出しながら、得意げに彼女は言う。
「日本チームの代表の、黒鳥レンと会って話しちゃった! カードもトレードしてもらったんだよ! これ!」
「……ほう、そうですか」
ぴくり、とコーネリアの眉が動く。
そして——打って変わり、凍てつくような声で彼女は言い放った。
「——よく、見せてくれませんか? シャノン。そのカードをもっと近くで——」