二次創作小説(紙ほか)

Act4:増殖 ( No.430 )
日時: 2016/11/06 12:30
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……今戻った」

 全員の視線が、こちらを向くのをレンは感じた。やっとのことで、宿泊しているホテルの、借りているホールへたどり着いたのだ。
 しかし、もう疲労のためにそれどころではなかった。
 驚きに満ちた表情で、ヒナタ達が迎えに来る。
 
「お前、どうしたんだよ!?」
「やつれてますよ、レン先輩!?」

 やつれている、と言われる辺り、自身がさっきのデュエルでかなり搾られたことが分かる。
 そして、前に出てくるのはリトルコーチでもあるフジであった。

「それよりも、時間より30分も遅れて来るとは、テメェらしくねぇな。どうした、黒鳥」

 詰め寄るように言うフジだが、その表情には少なからず心配する感情が入っていないこともない。
 押し出すように、レンは言葉を紡ぐ。



「——邪悪龍の使い手に、遭遇しました」



 全員はざわついた。
 だが、同時にヒナタは1つの疑問も覚えた。
 見たところ、此処まで自力で戻って来れたということは、彼がその使い手に勝ったか、あるいは命からがら逃げられたということ。
 その間に自分たちに連絡することは出来たはずだ。

「そ、それでどうなったんだよ、レン!?」
「奴は、キングと名乗っていた。街でいきなり決闘空間を開かれてな……。途中で仲間がやってきて、何とかデュエルは中断出来たが。まあ、勝敗は微妙だ。勝っていたか、負けていたか、分からん」
『我が主が苦戦する程の相手。敵としては初めて相対しましたが、邪悪龍とは恐ろしいものでした。まあ、ボクがまだ武装していなかったので、煮え切らないところはありますが』

 そして、と彼は続ける。

「前に、邪悪龍が元は5つの武器だったということは知っているだろう。矛、銃、槍、鎌、剣……矛がソウルフェザーだったならば、奴が相当するのは恐らく”銃”。そして同時に、”賢王(ケフェウス)座”の力の持ち主で、しかもステラアームドまで使っていた」
「ステラアームド!? 奴らはドラグハートじゃないんすか!?」
『邪悪龍もステラアームドを使うなんて、聞いてないよ!?』

 驚いたのは、最初にアンカと直接対峙したノゾムとクレセントだ。
 以前戦った時は、そんなものは使っていなかった。レンの戦ったそれが、邪悪龍のカードというならば——また、違った力を持つ事になるということであるが。
 
「ソウルフェザーはドラグハート、だったわよね、ノゾム君」
「そうっすよ!」
「なのに、今度はステラアームド……?」
「驚く事でもねえ」

 割り込むように言ったのは、フジだった。
 
「クレセント達も、元は只のクリーチャーだったのが、力を付けたことでステラアームドを手にしている。邪悪龍のドラグハートが、龍の武器から解放されたことで、ステラアームドを手にしても何らおかしくはないぜ。なんせ、アンカの奴もソウルフェザーの力を付ける為に暗躍してたみてーだからな」
「そうか。そういえば前も……」

 以前、海戸を襲撃した際もそんな節の事を話していた。
 そうヒナタは回想する。
 つまり、今回レンが戦ったのは、アンカが求めていた力の到達点。それが、ステラアームドの力なのだろう。

「……ぐっ」
「レン!?」

 がくり、とレンが膝をついた。
 ヒナタがすぐさま支える。
 肩で息をしており、やはり決闘空間でのデュエルの反動からか、激しく魔力を消耗しているようだった。

「キングの仲間らしき奴が現れて、一旦デュエルは中断された。どうやら、しばらく僕らに襲い掛かるつもりはない、とそいつは言っていたが……すぐさま貴様らにも連絡を取ろうと思った。しかし——」

 すっ、と彼は自分のスマートフォンを見せる。
 見れば、ビリビリ、と火花を放って動かない。

「どうやら、恐ろしく強力な電磁波でも放っていたのだろうか。これが使えなくなってしまってな」
「電磁波……ちょっとそのスマホも、調べさせて貰うぜ」

 レンが取り出したそれを、フジはひょい、と手に取る。
 
「レン、休むんだ。そろそろ限界が来てんだろ」
「……ああ、そうさせてもらう。済まない」
「レンが謝る事ないわよ。あんたが無事だっただけで、十分だわ」

 ヒナタに肩を貸してもらい、レンはホールから出る。
 その様子を見ながら、フジは溜息をついた。
 
「……どうやら、此処最近イギリスで観測されていた星のカードの正体も、そいつで間違いなさそうだな。コーネリアにも連絡しておかねえと」
「コーネリアに、ですか」

 少し、ノゾムが険しい表情を見せる。
 あの嫌な性格をした女の事を思い出したのが、気に食わなかったのだろう。

「……あいつも、色々あるんだよ。今じゃ、義妹もいるしな。回りを守るだけで必死になってるんだ」
「義妹、ですか」
「ああ。あいつがなんで、『遊撃調査隊(クリーガー)』に入ったのか。そして、何故あんなに戦う事に必死になってるのか——いずれ分かる」



 ***



 ベッドに突っ伏しながら、レンは1人考えていた。
 邪悪龍の事よりも、あの少女の事だ。
 ——断れなかった。  
 あんな笑顔を見せられて、誘いを断ることなどできるだろうか。レンにはあの状況で、平静を保ちながら、断る文句を考える事などできなかった。
 せめてと考えて、アヴィオールにあることを頼んだところまでは良かったが……。
 ——以前に、ヨミの所為でそっちの性癖に落とされたことがあったが……まさか、天然でその気があるんじゃあるまいな、僕は。

『残念ながら、クリーチャーにも人間にも可愛いは守りたい、可愛いは正義という本能は少なからずあるのですよ黒鳥レン。守りたいこの笑顔、って奴ですねえ。その時の貴方の判断は別におかしくはないですよ多分』
「別にそういうのではない、しばくぞアヴィオール。だが、僕に関わったがばかりに、シャノンが巻き込まれないか……それだけが心配なのだ」
『そうならないように、貴方なりに策は尽くしたんじゃないですか?』
「……まあそうだが」

 そういえば、あの少女は。
 自分の事など忘れてしまったあの少女は、今はどうしているだろうか。
 もう、クリーチャーの事とは無縁で平穏な生活を送っているのだろうか。
 ——シャノンには、何も起こって欲しくはないのだがな……。



 ***



「……分かりました。気を付けます」

 受話器に耳を当て、彼女は至って平静とした様子で受け応える。

『それはそうとだな、コーネリア。以前俺が言った事、覚えているよな? テメェの持っているカードの件だ』
「……」
『そいつは危険だ。お前が持ち続けているならば、よりお前を侵食する諸刃の剣だぞ』
「……モロハノツルギ……持てば自らも傷つけるという意味の日本の諺、ですか。ですが、同時に強力でもあるということ。今の私には、これが必要です」
『適合者じゃねえんだぞ、テメェは』
「暁ヒナタも、白陽を所持している。貴方達日本人の言っている事は、矛盾だらけです」
『奴は元々が——』
「——もう良いでしょうか? いずれにせよ、これにだけは干渉しないでほしい。私が持てる、唯一の武器なのだから」
『……仕方ねえ。だが、他に適合者が現れれば——』
「その時は、その人に渡すつもりです。が、それは今じゃありません」

 彼女は、それを握り、言った。
 如何なる魔物も切り裂き、天さえも貫く無銘の剣聖——



「——それまでに現れなければ、邪悪龍は私がこのカードで葬ります」