二次創作小説(紙ほか)

Act4:増殖 ( No.431 )
日時: 2016/11/06 15:34
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: wJNgr93.)

 此処数日続いている日本、いや鎧龍チームの遠征であるが、彼らのスケジュールは決して楽なものではない。
 1日のうち、5時間近くは研究や練習であるが、残りは学校で授業を受けられない彼らに通信で授業を行うといった対策がなされていた。
 また、自学自習の時間まで取られているという徹底っぷり。
 さて、何が言いたいかというと、彼らのスケジュールのそれは、下手したら一般の中学生のそれよりも過酷なものになってくるのである。なんせ、D・ステラの後には定期考査もあるのだから。
 そして、当の本人らからすれば、世界の命運がかかっているやもしれない状況でもあるために、それどころではないのにそれをおくびにも出せないジレンマ。
 つまり——試合の直前でもない限り、日曜はできるだけ休日が設けられていたのである。
 が、しかし。

「……一応、念には念を押す。邪悪龍の連中が何をやっているか分からんし、出来るだけ集団で行動しろ。というか、イギリスで何か異変がないかパトロールしろって意味合いもあるからな」

 結果。自由行動(という名の警備活動)になってしまっていた。
 各々、異変が起こっていないか、2人以上で行動し、街を巡回することになったのである。

「……まあ、出ちゃった以上は仕方ないっすよね……」
「何か起こってからじゃ遅いですから」
「ああ、貴重な外出時間が……」

 ノゾムはがっくりしたような表情を浮かべた。
 しかし、敵がレンの前に現れたというのは、一大事である。
 呑気に遊んでいる暇など最初からあるわけがなかった。

「邪悪龍……鳳凰座のソウルフェザーに賢王座のケフェウス、か……厄介な事になったな」
「……そう、ですね」

 ホタルもヒナタに同意するように、不安そうな声を押し出した。
 
「それでは、一応二手くらいに別れて行動するか。そうすれば危険も少なくなるだろう・残りは各自で決めろ」
「適当だなあ!」
「じゃあ、取り敢えずあたしとヒナタで——」
「……いや、俺はノゾムと行動する。コトハはレンとホタルと一緒に行動してくれ」
「ちょ、何で!?」

 明らかに不服そうにポニーテールが揺れた。
 呆れたように、そしていつになく真面目な表情でヒナタは理由を説明することにする。

「おめーの場合、デートだの何だの言って脱線しかねねぇからな。そもそも、俺は今日は観光気分なんぞじゃねえ」
「ひどい! 幾らあたしでも——」
「十分に有り得るっすね」
「最近の如月先輩は浮かれすぎかと」
「う、浮かれてないからね!?」
「……つーのは半分冗談だ。俺的にクリーチャーの組み合わせを考えたんだよ。白陽とニャンクスだと、どっちも前衛には向いてねえタイプだからなあ」

 海水浴場での戦いを思い出す。彼らの戦い方は、白陽が一応槍を扱えるという程度で、あとは似通っている。いずれも魔力を使った飛び道具を得意とする戦法だ。
 しかも、彼らは共に呪術と魔法といったように戦い方が似ているため、それらに耐性がある組み合わせだと、途端に突破が困難になってしまうのである。

「英雄5体の戦い方を分けると、白陽とニャンクスが呪文主体のスペルキャスタータイプ。んで、クレセントとハーシェルが肉弾戦主体のファイタータイプ。そしてアヴィオールがどれもいける万能タイプだ」
『確かにのう。アヴィオールならば、鎌でもガンブレードでもスペルでも何でも使えるわい』
『まあ、器用貧乏なんですがねえ。それは置き、良い戦術眼ですよ暁ヒナタ』
「RPGで培ったいーかげんな戦法だけどな。でも、できるだけ、クリーチャーは速攻で倒せるに越したことはない。決闘空間に引きずりこまざるを得なくなったら、それまでだけどできるだけのことはしなくちゃな」

 自嘲気味に言うアヴィオール。同時に、ヒナタの考えを一定は評価しているようだった。
 が、それもRPGゲームで培ったものというものに、全員は難色を示す。
 しかし、それまでであった。 
 言っていることは至極合理的である。

「だから、二手に分かれるにしても、俺とノゾム、そして連携を人数でカバーするためにコトハとレンとホタルで——」
「いや、三手だ」

 今まで何も言わなかったレンが口を開く。
 それに全員は驚いたような表情を見せる。

「——今回の自由行動、最初は僕は1人で行動する。用が済んだら、またそちらへ合流する——ダメか?」
「……え、おめーそれって……いや、何で——」
「レン先輩、武闘先輩も言っていたじゃないですか! 1人は危険だ、って!」
「確かにそうだ。例えクリーチャーを従えていても、1体よりタイプの違う数体が同時に行動していた方が死角は少ない」
「な、なんだよ分かってんじゃねえか。それに、お前は昨日襲われたばかり——だから猶更コトハやホタルと行動した方がいいだろ。それか、編成を変えるか——?」



「だが断る」



 すっばり、とレンは言い切る。
 こうなってしまった彼は梃子でも動かないことはヒナタもよく知っていた。
 しかし、普段は規律にもうるさく、和を乱すことには感心しない彼が何故こんなことを言い出したのか謎である。

「……何、用を済ませたら貴様らと合流する。それではダメか?」
「ま、まあ、時間と場所をちゃんと指定してくれるなら……」
「では、決まりだな。安心しろ。クリーチャーがいないかどうかは、しっかりと注意するしアヴィオールにも監視させる。問題ないだろう」
「フジ先輩、いいんですかぁ!?」
「……おい黒鳥。今回は少し看過出来ねえなあ。何があったのか正直に話してみろ?」
「……申し訳ありません」
「……まあいいか」
「いや、それでいいんすか」

 呆れたようにいうノゾム。
 だが、困ったようにフジもいう。

「まあ、こいつなりに考えがあるみてーだし、英雄の中でもアヴィオールは万能だし……別に良いんじゃねえの、とだけ」
「感謝します」
「まあ、テメェの実力を認めてのことだよ、黒鳥。危なくなったら、すぐさま逃げるこったな。くれぐれも無茶はするなよ」

 念を押すように言うフジ。精神的に脆いところがある彼を気遣ってのことだろう。見透かすように、彼の瞳を見つめている。
 その眼力で、自分の心臓を握りつぶされるように感じたレンであったが——

「——はい」

 ——いつも通りの仏頂面で、至って平静を装い、答えたのだった。