二次創作小説(紙ほか)
- Act4:増殖 ( No.435 )
- 日時: 2016/11/06 22:32
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「——で、済ますと思ってんのかオイ」
「何でこうなるんですか……」
『またもや悪用される隠蔽呪文……』
『今回は私の幻術もあるから更に強化されているな』
「悪質なストーキングスキルの類っすね……」
「ひっどいわね! 能力は使い手次第だわ!」
「ああ、すっげー説得力があるな」
「これは、潜入取材に使えそうなスキル! ハーシェルも、何かやってみてください!」
『無理じゃ』
『即答だね!』
背後に群がる4人の影。
言うまでも無く、ヒナタにコトハ、ホタル、ノゾムである。
悪質なストーキングスキルである隠蔽呪文と幻術の組み合わせによって、彼らはレンにもアヴィオールにもよほど接近しない限り気付かれる事は無い。
加えて——
「俺達は変装までしているんだぜ! バレるわけがない!」
「あ、あははは……良いのかなコレ……」
ヒナタとコトハは、片や厚手のコートにどっから持ってきたか分からないアフロの鬘にグラサン、片や帽子にグラサン、そしてマスクとどっからどう見ても露骨で怪しい変装に身を包んでいたのだった。
「あの、ヒナタ先輩……それはいくら何でもバレバレというか」
「黙れノゾム。今の俺はグラサンキッドだ、偽りの名(コードネーム)で呼びたまえ、OK?」
「お、OK……」
「き、如月先輩も……少し悪乗りが過ぎるというか」
「いやあ、何か……後悔はしてる」
「それよりもターゲットBB(ブラックバード)、バスをこのバス停から降りたぞ。お前らも、他人のフリをしておりろ」
「ら、らじゃー?」
「そこも乗るんですね、如月先輩……」
しかし隠蔽と幻術が功を奏したか、気付いた素振りも見せず、レンはバスを降りていく。
どうやら今回は本当に気付いていないようだった。
1人で行動するレンを放っては置けない。万が一、彼に何かが起こっても大丈夫なように始めた今回の尾行であるが——好奇心と個人的な興味の方が勝っていたのは言うまでも無い。
***
「……だけどよぉ、俺らにも黙っていくような用事なんてあるか?」
「まさか、現地で出会った女の子と会う約束をしてるとか?」
「あのレンよ? 絶対ないわよ、ホタルちゃん。レンはタダでさえ堅い性格で、しかもあの事件があったのよ? そう簡単には——」
「散々な言い分だが、かってぇ所はおめーも人の事言えねえからな?」
——何でヒナタ先輩の周りには堅物な人ばっか集まるんだろ……。
正直、ヒナタ、レン、コトハの3人組は、良い感じにヒナタがムードメーカー兼纏め役をやっていて初めて機能しているのではないか、とノゾムは思う。
ホタルもそれには同感だったらしく、頷いた。
「ま、でも気になるよなあ、此処まで来たら」
『しかし、だからと言って他人のプライベートを侵害するのは良くないのう』
『一番他人のプライベートを侵害し得る能力を持っているお前が言うか、ハーシェルよ』
しばらく黙っていた彼だが、一瞬だけ目を瞑ったのちにボソッ、と吐いた。
『……ふむ、この間も終始クレセントの主導権だった、か』
『やめろォ!! 私が悪かった!! そんなところの記憶を読むな!!』
『んー? 何の話をしてるのー?』
『別に何でもないわい』
『呆れてモノも言えないのですにゃ』
「あ、レンが喫茶店に着いたわよ」
「まさか呑気に紅茶でも飲みにか? あいつコーヒー派ってイメージが」
「ちょっと待ってください、先輩!」
おぶっ、と漏れたヒナタの声を無視し、アフロを押しのけてホタルは身を乗り出す。
レンの前には、少女の姿があった。
それも、金髪碧眼が目を引く愛らしいコーカソイドの少女だ。
しかも嬉しそうに、彼と何かを話しているようだった。
「……まさか本当に女の子に会いに、ですかぁ!?」
「うっそだろ、オイ!?」
「ど、どうするの?」
「そ、そうだよなあ……言えるわけねえよなあ、俺らに。向こうで、現地の女の子とデキちまったなんて」
うんうん、と頷くヒナタ。
コトハも半信半疑ではあるが、一応レンのフォローだけしておく。
「いや、まだそうとは限らないでしょ。……アレ、何だろうこの状況、すっごい既視感があるんだけど……もしかしてあたし達、あのバカ兄貴と同じ事やってる?」
「あ、店内に入っていきました」
「取り敢えず、これ以上はよすか」
「そ、そうですね……近くをぶらぶらでもしておきますか」
「クレセントはロンドン市内にクリーチャーの反応が無いかだけ頼む。一番サーチの範囲広いのお前だしな」
『うええ、すっかりかろーしたんとーだよぉ……まあ、仕方ないけどさあ』
***
「それでね、それでね——この紅茶とかどうかな?」
「……ふむ。これは良い香りだ。それに、ジャムと合うな」
「でしょ?」
屈託のない笑顔で話をするシャノン。
紅茶を手に、互いの国の事や、デュエマの事を話す。
この時だけは、邪悪龍の事も、D・ステラの事もレンは忘れる事が出来た。
——何だろう。癒される。普段が、あのグラサン共と付き合ってるからというのもあるが。いや、胃が痛い原因は、ほぼグラサンオンリーだけども。
此処までまともに純真な少女に出会うこともなかなかない。
特に、最近出会った女連中が揃いも揃ってまともではなかったのを見るに、まさに癒し。まさにオアシスであった。
「それじゃあ、そろそろデュエルしよっ、レン!」
「そうだな。僕も君の実力を見てみたいところだ」
席を立つ2人。
勘定を払い、そのまま店を出る。
そして、カードショップに向かうことにしたのだった——
***
昨日のカードショップのデュエルスペースの一角で、対峙する2人。
デッキをシャッフルし、シールドを展開する。
今回、レンが使うデッキは大会で使うものではないが、それでも完成度には自信がある。相手は仮にもライトレイの生徒。気は抜けない。
「やるからには、手加減なんかしないでよね、レン!」
「ああ、勿論だ。全力で行かせて貰おうか」
この時。
レンは決して彼女を侮っていたわけではない。
だが、イギリス戦前の前哨戦のような形で挑んでいたのは確かだ。
しかし——
「——」
彼は後に嫌という程理解することになる。
彼女の背後に潜む影と共に、彼女の持つ力を。
この時はまだ、知る由も無かった——