二次創作小説(紙ほか)
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.44 )
- 日時: 2015/07/05 12:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
現在、バトルゾーンにはホタルが《コッコルア》に《ヴァールハイト》、《カチャルディ》の3体が、ホタルを護るようにして付き添っていた。
一方のハーシェルの場には自分自身に加え、《ムルムル》に《アリエース》、《ウルティマリア》に《キルト》、そして巨大ブロッカーの《シャクシール》計5体。
これぞ、数の暴力。しかも、ターンごとにシールドが増えていくから一体何なの状態である。リンチか何か、その他諸々か。
だが、唯一ついえるのは、光文明の癖して非常に攻撃的だと言う事だった。
「私のターン、《天英雄 ヴァルハラ・デューク》を出して、ターンエンドです……!」
(クリーチャーは私を護ってくれる仲間……!! だから私もその期待にこたえないと……!!)
天英雄 ヴァルハラ・デューク P 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 7000
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに光のカードが7枚以上あれば、次の自分のターンのはじめまで自分のクリーチャーは破壊されない。
W・ブレイカー
マナ武装7によって、次のターンだけホタルのクリーチャーは破壊されない。しかし。
「我のターン、呪文《DNA・スパーク》でヌシのクリーチャーは全てタップじゃ」
まずい。これでブロックは出来なくなってしまった。
ガラ空き同然、さらにS・トリガーが出なければ負けは確定である。
「《シャクシール》! 《キルト》! 《アリエース》! シールドを一気に叩き割るのじゃ!!」
1枚目、2枚目、3枚目、4枚目、とシールドは殆ど割られた。
破片が体のあちこちを切り裂く。血が吹き出て、服を汚した。
見れば、ぱっくりと腕や足が切り裂かれて割れてしまっていた。
「い、痛い……ッ!!」
「ふふーむ。やはり乙女の苦痛に歪む顔は最高じゃの」
とんだ変態だ、とホタルは朦朧する意識の中感じる。
しかも、先ほど入れ替えたシールドは残して。
向こうも当然馬鹿では無いから、罠を自分から踏みに行くような馬鹿な真似はしないはずだ。
「諦めるが良い。乙女よ。ククク……」
眼をカッと見開き、ハーシェルはブツブツと呟き始める。
そして、「ふむ」と分かったように声を漏らすと言葉を発し始めた。
「ヌシ、クリーチャーが自分の仲間だと思って居るな?」
「なっ! でも、それがどうしたって言うんですか!」
「何、我の能力は人間の”心情”を見透かすこと。ただし、ヌシの考えている戦略や記憶云々にまでは干渉できんから安心せよ」
しかし、卑しくハーシェルは笑みを零した。
「だが我の嫁になるに当たって教えてやろう、小娘」
「……なんですか、この期に及んで」
ギラリ、と不気味に目の前の一角馬の瞳が輝いた。
小宇宙のように吸い込まれそうだ。
まるで、奥の奥まで引き込まれるようだった。
「信頼など、妄想だ」
「?」
「お前の目の前にあるそれは、まさしく幻想そのもの」
にやぁーと口角が引きあがった。
「仲 間 な ど 最 初 か ら い な い。 全 部 ヌ シ の 妄 想 じゃ」
さらに、ハーシェルは追い討ちを掛けていく。
「信頼して何になる? その先にあるのは、裏切りからの虚無か、絶望か---------そんなものがあるくらいならば、我の傍にあるべきは-----------己が欲望を満たすための器だけで十分よ!!」
「な、何を!!」
「ヌシはその器になるのじゃ……壊れるまで我が傍に居ておくれ」
邪念が増している。光のクリーチャーのはずなのに。
「信頼なぞ、要らん」
ハーシェルの言葉は続いた。
「全て、我が破壊してくれよう」
***
我は気高き一角獣。我がいた幻獣界では我は畏怖の存在として崇められていた。昔から人とクリーチャーは共存すべき存在とされていた。
何時の日からか、そのことも忘れられていたが。
最初こそ森の他のクリーチャーからも敬われていたが誰も次第に近づかなくなった。
さびしかった。
皆が皆、神話の伝説を鵜呑みにして我に近づこうとしない。
ユニコーンにむやみに近づけば殺される、と。
だがそんなことは我はしない。
いつだって、生き物は皆平等に、優しく扱ってきたつもりだ。
ある日のことだった。
薬草摘みに来たと思われる少女が迷ったのかやってきた。
我はその女に近づいた。
女は怖がらなかった。
その女を森の出口まで連れて行った。
そのときの女の屈託の無く、汚れの無い笑顔ときたら! 我のハートを鷲掴みにしてそのままもっていってしまった。
初めて我は”女”というものに恋心を抱いた瞬間だった。
「優しいんですね」
という女の言葉に。
我にとって、女は我の寂しさを埋めてくれる唯一の存在になった。
毎日、女はあの日以来やってきた。
毎日、他愛のない話ばかりをした。
毎日、短い時間でも傍にいられるだけで十分だった。
----------そんな満たされた”毎日”が続いたある日。
鎧を纏った王宮の兵士が現われた。ここら一帯を圧制で支配する、天使(ジャスティス・ウィング)軍だった。連中は大量の報酬に眼が眩んだ人里の民を使って組んだ軍を傭兵として、こちらに差し向けていたため、クリーチャーの姿はなかった。
どうやら、我の角で不死身の薬を作りたいらしかった。
そんなもの存在しない。全て伝説上の嘘だ。
なのに奴らはやってきた。
だが、そもそもここは秘境のはず。奴らに分かるはずが無い。
それでも我は最後の最後までなるべく兵を殺さないように戦った。
あの女の信頼を裏切りたくなかったから。
だが兵の1人が卑しい笑みを浮かべて語りだした。
「ああ、そうそう。女がテメーの所に毎日来ていただろう」
「何を……?」
「あいつはオレの妻だよ、妻!!」
「!!」
妻……!?
「な、何を」
「あいつはな、テメーに自分の居場所を吐かせるためにオレが送りつけた”囮”だ。案の定、心を許したお前は自分の居場所を自分から吐いちまったって、アイツ笑ってたぜ」
当然だ。一角獣に純潔か不純を見破る能力など、無い。
「 オマケに子供が2人もいる。カッカッカッ、それをテメーはアイツのことを本当に好いていたらしいな。馬鹿らしい。純潔を司るユニコーン様の癖に、自分の傍にいた女に男がいるかどうかも分からなかったのかよ! ゲヒャッハハハハハ!!」
男だけではない。周りにいる兵士は皆笑っていた。
その瞬間------------我の中にある”何か”が切れた。
散々嘘を吹き込んで我を孤独にしたのは誰だ?
我に嘘をついて欺いたのは誰だ?
”不純”な女を我に近づかせたのは誰だ?
ああ、お前ら人間だわ。
うん。
「裏切ったな、我に嘘をついたなあああ!! 散々馬鹿にしやがって、散々我を蔑ろにしやがって、もう許さんぞ人限共があああ!!」
”死ね”
突貫。
角が硬い鎧を貫き、生温かい何かを抉った。
引き抜いた。
紅い水が美しく、そして醜く地面に飛び散る。
目の前の”モノ”は倒れてそのまま動かなくなった。
だが、我の標的はそれだけでは納まらなかった。目の前に生きとしていける者、すべてだ。
***
気がつけば、我は人里にいた。街は血の海。辺りには赤い水に白い塊が浮いたような死体ばかりだった。どうやら森にやってきた兵士を突き殺して血祭りにするだけでは飽き足らず、街の民も皆殺しにしてしまったらしい。
もう動かないガラクタには、頭蓋を貫かれた生々しい後が残っていた。
面影など分からなくて、どれがあの女かだなんて分からなかったが、どうせ我を欺いたのだから関係ない。
「くそっ、くそっ……何故、何故私は-------------!!」
だが私は後悔した。
何度も神に懺悔した。
でも、この黒い感情は収まりきれなかった。
怒りでも、憎しみでもない。
ただただ、重罪への責務が我に襲い掛かった。
何もかも失った私は-----------ある日、崖から飛び降りて自らこの命を絶った。
----------人の気持ちが読めるようになりたい、という1つの願いを残して。
心から愛すことができる者なぞ、最初からいなかった。
全部、我の妄想だった。
全部、全部、我の幻想だった。