二次創作小説(紙ほか)

Act4:増殖 ( No.440 )
日時: 2016/11/26 21:37
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 激しい光の奔流が、店内を包んだ。
 
「馬鹿な……」

 そう呟いたのはレンだった。
 倒れている店長を見て。
 当のシャノンは、急な出来事で何が起こったのが分かっていないようだった。
 自分に触れようとした店長がバッタリと倒れてしまったので、完全に混乱しているようだ。
 ——何だ、一体——!? これは——!? あ、”アレ”が作動したのか!?

「あ、あ、あう……何で!? どうして!? 一体、何で——」
「落ち着け、シャノン」

 ゆっくりと、諭すようにレンは言った。

「だ、だって、急に店長が変な事言って、怖い顔してアタシの方に手を伸ばしてきたと思ったら、バチッてなって——」
「今から僕の言う事を落ち着いて聞いてほしい」

 はぁ、はぁ、と過呼吸気味になる彼女の肩に手を置いて、レンは続ける。

「今のは僕が——」

 


「そこまでです」




 チャカッ、と音がする。
 振り向いた。
 そこには——見覚えのある少女の姿があった。
 それを見て、レンは凍り付く。
 そして、シャノンはその少女の名を呼ぶ。

「コ、コーネリア、さん——?」
「何故、貴様がここに——!?」
「……黒鳥レン」

 彼女は、一先ずその名を呼ぶ。
 レンは辺りを見回した。
 まずい。この構図、ひょっとすれば自分が店長を倒して、シャノンもついでに襲おうと見ようによっては見えるのではないか、と思えてしまった。
 次の瞬間、一閃が目の前を過る。
 そして——どさっ、と何かが落ちるような音がした。

「っ……!」

 倒れたのは、シャノンだ。
 そして、彼女を倒したのは——その背後にいる剣士のような影であった。

「安心してください。少し、眠らせただけです。今この場でパニックになってもらっても困るので」
「待て。本当に待つんだ。一体、何故貴様がここに——」
「決まっているでしょう。極東の猿と——」

 ギラリ、とコーネリアの目が光ったような気がした。
 それほどまでに、圧倒的な威圧感だった。



「うちの義妹が仲良く逢引きしてる中、街中に決闘空間が出現した……由々しき事態です」

 

 義妹、その単語が浮かぶ。
 そういえばフジが言っていた。
 コーネリアには義妹がいる、と——
 更に彼女は、言った。街に決闘空間が発生している、と。

「……アヴィオール、どうなんだ?」
『間違いないですね。それも相当大規模な』
「それともう1つ、質問があります。これは場合によっては、この場であなたを斬る事になりますが——」

 ごくり、とレンは生唾を飲んだ。

「——シャノンにトレードでカードを渡しましたね?」
「……!」

 やはり、この女は全てを知っている。
 だとすれば、何処まで? 
 自分たちがカードに掛けた魔法の事まで知っていたのだろうか。
 その内容まで——それ次第で、自分は此処で彼女と交戦することになりかねない。

「一体、何のつもりでカードに細工をしたのか——答えてください」
「……!!」

 バレている——すべて。
 次の瞬間、冷たい感触が首を撫でた。
 金属だ。
 しかし、振り向くことすらしなかった。
 心臓の音が、激しく、そして速く刻まれていく。
 つうっ、と首筋に滴が垂れた。
 手汗を握り、一言ずつ、言葉を繋いでいく。

『いやー、そもそもですねぇー。”アレ”にこんな効果は——』
「”ドブ龍”、お前には聞いていない。私は、黒鳥レンに問うているのです。勝手な発言をしたら、殺すぞ」

 殺意が伝わってきたのを感じたのか、アヴィオールも口を噤んだ。ドブ龍と呼ばれたことに、少々不服らしかったが、それどころではない。
 クリーチャーには最早、敬語すら使わないらしい。
 この緊迫した状況で、アヴィオールの弁護は役に立たないのだ。
 一言ずつ、一言ずつ、レンは言葉を紡いだ。

「悪意が、あったわけでは、ない——」
「ん?」

 コーネリアはギラリ、とその目を細める。
 まるで、喰って殺してやろうか、と言わんばかりの鋭い目付きだ。

「悪意があったわけではない、のだ——」
「どういうことでしょうか。答えになっていません。答えれば、命だけは助けてあげましょう。答えなければ、この場で殺します。黒鳥レン」

 脅しなのか、そうでないのか。
 それは分からない。しかし——殺す、という文句がとても重い。

「昨日、シャノンと会った時、邪悪龍の使い手に襲われた——」
「……ふむ」
「僕は、僕は偽善者だ——過去に、自分の過ちで大切な人を失った事がある——」

 すっ、とコーネリアの瞳を見据える。
 そこに恐れはない。

「あの時、奴は”逆らえば、お前に関わるものから——”と言いかけた。間違いなく、僕らが邪悪龍と戦うことになれば、周りの人に危険が及ぶ可能性がある。だから僕はまた、恐れたのだ。僕に関わった、この戦いに無関係な人が傷つくのを——」

 コーネリアは、黙って聞いていた。
 レンの話を。

「だから、僕に関わった彼女が危険な目に遭わないように——アヴィオールによって結界を貼って貰った——あれは、クリーチャーやデュエリストの決闘空間に反応するもの、らしくてな——これなら、彼女を守れると思った。最も、結界で防げるのはクリーチャーに関わった事が無い者、のみ。決闘空間を防ぐのは、それだけ難しいということだ」
「ふむ——そうですか」

 射刺すような視線がレンを貫いた。
 表情筋が全く動いていない為、全く感情が読み取れない。
 そして——再び、口を開いた。



「——まあ、そんなところだろう、と思っていましたが、真意を聞けて何よりです」



 首から冷たい感触が消える。
 思わずレンは、床に手を突いた。
 はぁ、はぁ、と息を切らせている。
 びちゃびちゃびちゃ、と汗が床を濡らしていった。

「実はその防護結界とやら、私が昨日のうちに破壊したのです」
「なっ——!?」
「正確に言えば、私のクリーチャーがね。そして、今日一日貴方達をクリーチャーも使って監視していたわけですが——まあ、幸いでしたね、黒鳥レン。自分が悪人じゃなくて。そうでなければ、今頃聖なる剣が貴方の胸を貫いているでしょう」
「……」
「まあ、脅したのは謝りましょう。結果的に、何の魔法か分からなかったので放置は出来なかっただけです。そして、分かっていると思いますが——あの閃光は、私のクリーチャーが放った物。ああ、それと感謝なんて微塵もしていませんよ」

 ギラリ、とレンを睨むとコーネリアは言った。

「——シャノンを守るのは私です。貴方等は、お呼びではない。私のクリーチャーは、防護結界を作るような器用な真似は出来ませんがね——あらゆる悪を貫く剣がある」

 ギリッ、とレンは歯を食いしばる。
 結果的に、彼女に守られたのは事実だ。
 それを認めない訳にはいけない。

「それとですね、黒鳥レン。あまり、シャノンに余計な事を吹き込まないで下さい。彼女には素質がある。次期、漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)の候補になっているほどの、ね」
「……次期、エボニーロイヤル、だと……!?」
「私は、彼女の義姉ではありますが、同じくしてライトレイの上級生でエボニーロイヤル。強き者を見定めないわけにはいかない。そして、その先に待つ運命に導くのも、私の——」
「——自惚れるなよ、コーネリア」

 遮るように、レンは言った。
 


「——彼女の人生の道を決めるのは、貴様でもなければ、僕でもない。他ならない彼女自身で、貴様等はその手助けをすることしか許されないはずだ。僕が、彼女を助けようとしたのは、彼女の人生がもしも邪悪龍如きに邪魔されるようなことがあったのならば、それはあってはならないことと思ったまで。それ以外の事に干渉するつもりはない。貴様や、ライトレイにもな」



 しばらく、沈黙が続く。
 そして、次にアヴィオールが口を開いた。

『コーネリア。さっき、貴方は防護結界をクリーチャーに破壊させた、と言いましたね?』
「ええ、そうです」
『だとすれば、本当に余計な事をしてくれましたね。彼女は、クリーチャーを”見てしまい”、”関わって”しまった。体内に既にマナが蓄積されている。もう彼女は普通の人間ではない。貴方と同じ、宿命に立ち向かう者になってしまった。宿命に立ち向かう者に、あの防壁で逃げる事は許されない。あの防護結界は、人間に使うものではないのもそのためです』
「構いません。得体の知れない、何処のドブ龍が掛けたのかも分からない魔法に頼るよりは、よっぽどマシ——責任を以て、私が彼女を守ります」

 そういうと、彼女はシャノンを負ぶう。

「まずは、街に出ましょう。何者かによって、精神汚染された人々が辺りを徘徊しています。この決闘空間、只のモノではありません。対立するのは、それからでも遅くないのでは?」
「……そう、か……」

 もう、不満も不平も言うつもりは無かった。
 今は事態を打破することが何よりだ。
 レンとコーネリアは、店長を放置し、そのまま他に誰も居ないカードショップを出たのだった——