二次創作小説(紙ほか)

Act4:増殖 ( No.441 )
日時: 2016/12/03 20:12
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「《Q.E.D+》でダイレクトアタック!!」

 警官の体が吹っ飛ぶ。
 いきなり展開されたシールド。
 それに、明らかに人の影が消えた街。
 そして、歪んでいる空。間違いない。自分達は巻き込まれたのだ。
 オックスフォードサーカス上空を覆う、決闘空間に。

『どうやら、敵さんは自分の魔力を混ぜたカードをばら撒いたみたいだね……』
「で、バイオハザードよろしく、それが決闘空間に入って来て、オレらを襲って来てるわけだ。で? なんかその警官調べて分かった事は?」
『何というか……分からない。何か特に異常は見受けられない。魔法の類じゃないみたいだよ』
「魔法じゃない、か……」

 さて、となると心配なのは、ホタルや先輩達の安否だ。
 ヒナタは、すぐ近くの店にいるはずだ。元々グラサンの買い物に付き合うのも、だんだん飽きてきたので憂さ晴らしを兼ねて外を見廻っていたところだったのだ(正確に言えば、土産屋でイギリスっぽい食べ物がないか探しており、嫌な予感しかしなかったので立ち去る事にした)。問題は、離れているホタルとコトハだ。
 すぐさまスマホで通話を試みるが——バチン、と音を鳴らしたかと思えば、煙を吹いてしまった。

「何だよ……これ……」
『強力な、”電気”の力……!? そういえば、何かさっきから、変な気配が強く……抉るように感じる……!』

 どちらにせよ、此処まで広大な決闘空間が開かれている以上は、並みのクリーチャーではないことだけは確かだ。
 まずは元の道を戻り、ホタルとコトハを迎えにいかねばならないと思っていた矢先——

「ノゾム!」
『無事だったか!』

 たったっ、と駆けてくるヒナタと浮かんで移動している白陽。
 はぁ、はぁ、と息を切らせており、切羽詰まった様子だ。
 しかし、無事でよかった、と一先ずノゾムは安堵の息をつく。

『はーくーよーうー!!』

 カードから実体化し、白陽に飛び付くクレセント。
 ぐりぐり、と胸に顔をうずめている。

『ううう、怖かったよ……やっぱり白陽が来ると安心感が違うよう、体感ノゾムの100倍くらいあるよう』
「おい、それをパートナーの前で言うかフツー」
『良いから離れろ……。今はそれどころではないだろう』

 と言いつつ頭を撫でているのだから、満更ではなさそうだ。一層腹が立つ。
 辟易した表情で、ヒナタは咳払いすると事の顛末を話しだした。

「……うあー……店の中の人といきなりデュエルになるなんて思わなかったぜ。面喰っちまったよ」
「そ、そうだったんすか……まあ、何事も無くて良かったっす」
『高潔な気配……光でも上級のクリーチャー、というのは何となくわかる。精神の同調、支配は奴らの十八番だ』
「んでもって、それを可能にするのは——」
『水の、テクノロジー……!』

 先日、レンを襲ったという邪悪龍の使い手・キングと、邪悪龍・ケフェウスを思い出す。
 ケフェウスの文明は光と水。となれば、レンを仕留め損なったのを悔しがったキングが再び現れたということだろうか。

『でも、多分邪悪龍じゃ、ないと思う……!』
「え?」

 言ったのはクレセントだった。
 いつになく、不安そうな表情を浮かべながら。

『”本体”程の強力な力なら、ソウルフェザーと最初に相対した時みたいにもっと速く感じ取れた……! 今回のは、それじゃないよ!』
『彼女の感知能力は、確かだ。信じてやれ』
「んじゃあ、何なんだよ、今回の事件の黒幕は……!」
「とすれば、向こうの仕掛けてきた刺客……? クリーチャーを送り込んできたってことっすかね?」
「有り得ねえ事はない……とにかく、レンのいる喫茶店に戻らねえと!」

 瘴気に覆われた空。
 そこは、果てしない決闘空間で飲まれていた——



 ***



 ——数十分前。
 ホタルとコトハは、オックスフォードサーカス駅を探索していた。
 多くの人が行き交うこの辺りも、一応見回っておく必要があると判断したのだ。
 地下鉄も運航している上に、見慣れない形の車両が走っていて、興味深い場所だった。
 が、しかし。本命は怪しいクリーチャーがいないかどうかのサーチである——にもかかわらず。
 初っ端からホタルがいきなりぶっこんで来た。

「ど、どっちから告白したんですかぁ!?」
「ぶっふっ!!」

 ベンチに座って休憩していた矢先のこれであった。
 思わず、飲んでいたオレンジジュースがむせてしまった程だ。

「きゅ、急に何よ」
「そ、そんなに驚く事でしたか?」
「ねえ、普通、何の脈絡も無しにそういうこと聞いちゃう!?」
「たまには良いじゃないですか! ガールズトーク! 腹の中を割って、互いに色々ぶちまけちゃいましょうよ!」
「何なの、それ……」
「なら、取材という形で! 学校新聞にも後で載せますから! ”電撃交際、鎧龍前期エースカップル誕生★” という見出しで!」
「本当にやめて! 恥ずかしすぎるから! 社会的にあたしが死ぬから!」
「で、どっちから告ったんですか!? ねえ!?」

 かああ、と顔を赤くしてコトハは反駁を加えた。
 ポニーテールがゆらゆら、と恥ずかしそうに揺れている。
 目の前の後輩が、いつになくがっついてくるのが不思議だった。
 仕方なく、ボソッとこぼすように答える。

「……あたしから」
「如月先輩から、ですかぁ!?」
「ねえ、そういう風に言っちゃうのやめて! 聞かれてるかもだよ!?」
「どうせ周りには外国人しかいないから大丈夫ですよ!! ね、色々聞かせてくださいよ、先輩とのこととか!」
「きゅ、急にどうしたのよ、ホタルちゃん……」
「如月先輩とこうやって話すことって、やっぱり少なかった気がして。折角だから色々聞きたかったんですよ」
「そう?」
「はい。チームの中で、女子は私と先輩だけですけど、不思議なくらいに」
「そりゃ、あたしはいつもヒナタとレンの2人と一緒に行動してるし、ホタルちゃんもノゾム君にべったりだからね。教官役はレンが買ってくれたから、ってのもあるけど」
「べ、べったりって言うほどべったりですかねえ? た、ただのクラスメートですよ?」
「……ふーん」

 急に目を反らした彼女には、敢えて突っ込まないで聞かないでおく。爆弾は後にとっておこう。
 眼鏡をくいっ、と指で直すと、ホタルは再び問うた。完全にマスコミモードに切り替わった表情で。

「——だから、アレですね! 後は、どうして先輩のことを好きになったか、とか!」
「え、えええ!?」
「後は、デートは何回、どこに行ったか、とか」
「プライバシーの侵害っていうか、何て言うか!?」

 実はまだ、色々あった所為でロクにしていないのから答えようがないのであるが。

「そ、それと……その、ど、どこまで行ったか、とか……」
「やめろォ!! スクープどころか、スキャンダルが起こる予感しかしないわ!!」

 はぁ、はぁ、はぁ、と恥ずかしさと突っ込みによる疲労で過呼吸気味になるコトハ。
 反撃と言わんばかりに、コトハは言った。

「……ねえ、ヤケに必死ね?」
「え? そ、そうですか?」

 一転構成。
 図星なのか、急に彼女の挙動が変わる。

「……本当にただのガールズトークなのかしらねえ?」
「何の事でしょうか?」
「……ホタルちゃん、正直に言いなさい。今ならお姉さん、許してあげるわよ」
「正直って——」

 


『あのう、コトハ様にホタル様。ガールズトークで盛り上がってるところ申し訳ないのですがにゃ——』
『非常に申し上げにくいのだが……』



 それぞれの相棒の言葉に、ぴたり、と2人は話を止めた。
 そして立ち上がる。
 カード状態の彼女達が、ポンッと音を立てて実体化する。
 
「ねえ、これって——」
『クリーチャーの気配——そしてこれは』
『間違いないのう。気を付けろ。何処に何がおるか、分からんわい』
「ハーシェル、こんなことってあるんですか!?」

 辺りを見回す。
 そして——確信する。今この場は、異様な空気に包まれ、現実の空間とは隔離されているということ。
 だが、1つだけ今までと違うことがあった。
 ふら、ふら、と辺りから数人の男女が歩いてやってくる。
 まるで、操り人形のような挙動で——

「——これって一体——!?」

 そう言いかけた途端、2人の正面にシールドが展開された——