二次創作小説(紙ほか)
- Act5:封じられし栄冠 ( No.444 )
- 日時: 2017/01/21 08:44
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
コーネリアは黙りこくったままだった。
そして、彼女は零すように言う。
「結界など、無駄だったのですよ」
レンは一瞬、戸惑った。
彼女はこちらを振り向くと、哀しそうな表情を浮かべた。
「——彼女は、戦う運命にあるのです。最初から、ね。でも、彼女にはまだ荷が重すぎる」
「どういう、意味だ」
コーネリアの背後に、鎧を纏った影が現れる。
「あんな結界如きで彼女を守れるならば、私達は苦労していないのです!! 彼女こそが、この”冠座”のカードの適合者なのだから!!」
カードに刻まれた文字。
英語ではあったが、ある程度知識のあるレンには読み取れた。
”Knight of the sealed King of the swords(封じられし王剣の騎士)”——あまりにも、直喩的な名を持つカードには鎖で縛られた鎧の騎士のイラストが焼き付けられていた。
「彼女は、物心ついた時からこのカードを持っていました。孤児院から我々が引き取ったのは、2年前。私はライトレイに入ったばかりでした。そして、デュエルに関して天性の才能を持っていた彼女を、養子として我々が引き取ったのです」
「彼女もまた、ライトレイの生徒にするためか?」
「私の父は、教育者ではありますが、同時にプロのデュエルプレイヤーだったのです。その目論見もあったのでしょう。ですが、その頃、私の母と妹は既に他界していたので、私に埋め合わせをする形もあったのです」
つまり、決して彼女をライトレイの傀儡にするためだけに養子に迎え入れたわけではなかったようだった。
しかし。
「すぐに仲良くなった私達でしたが、ある日の事でした。このカードをデュエル中に使ったシャノンが、急に苦しそうに呻きだしたかと思ったら——」
気が付けば、そこは惨状であった。
部屋はぐちゃぐちゃに切り刻まれており、シャノンはぐったりとした様子で倒れていたという。
すぐさま父に知らせた。
カードから実体化したクリーチャーの仕業と判断した彼らは——ライトレイに出向いたのである。
「何故、カードの仕業だと分かった?」
「——私の母と妹が、何故死んだのか分かりますか?」
ギリッ、と憎しみに満ちた瞳でコーネリアはレンを睨んだ。
「——鷲座の邪悪龍を持った、あのデュエリスト!! あの東洋の猿は、旅行していた私達を愉悦の為に襲い、そして母と妹を私達の目の前で引き裂いて殺したのです!!」
鷲座のデュエリスト。
そして、それは邪悪龍であり、コーネリアの家族の命を奪った張本人だったのだ。
「あの後、政府の関係者によって真実を知らされた、生き残った私と父は、衝撃で何も言えませんでした。そして、私は邪悪龍を根絶やしにするため、そして父は邪悪龍に対抗できるデュエリストを育てる為、この6年間、血がにじむような努力を続けてきたのです!!」
「つまり、星のカードを持つシャノンが家にやってきたのは、邪悪龍に対抗できる最高のチャンスだった、というわけか」
「ええ。あれだけの力があれば、邪悪龍を倒せる。少なくとも、あの研究者は言っていました。こんな覇気を放つクリーチャーは見たことが無い、と」
まくし立てるようにコーネリアは続けた。
「ですが、彼女にその荷は重すぎる。彼女は、冠座を制御するのには、まだ未熟ということなのでしょうか……それまでは、私が彼女を守らなければならない。そして、彼女を一刻も早く強くせねばならない。時が来れば、彼女にこのカードを渡すつもりです。そうすれば、邪悪龍を、あの鷲座を——今度こそ、復讐が果たせるのです!!」
「——哀れだな」
心底冷え切った声で、レンは言った。
「ライトレイの生徒と同じ、いやそれ以上だな。シャノンは、貴様等の復讐の傀儡というわけか。僕は人間として、心底哀れだ——貴様等、傀儡師がな」
侮蔑の視線で、彼はコーネリアを睨む。
「守るだ何だと言っておきながら、貴様のやっていることは、復讐の道具を育てているだけに過ぎない。邪悪龍に大事な物を奪われた気持ちが分からんわけではないが——やり方が気に食わん。何も関係の無いシャノンを、貴様等の復讐劇に無理矢理巻き込んだ、そのやり方が」
ギリッ、と歯をかみしめると、レンはありったけの怒りを彼女にぶつけた。
拳は強く握りしめすぎた所為で、血が滲んでいた。
「——コーネリア。何も知らない彼女の手を、貴様は復讐で汚そうというのか? デュエル・マスターズを心から楽しんでいるシャノンに——そんな運命を辿らせたいのか!!」
そう一言、咆えるように叫んだ。
「僕は心の底から貴様を軽蔑する。シャノンは言っていたぞ。貴様の事を恩人とな」
「……何とでも、言えば良いでしょう。私は、あくまでも彼女を強くする。彼女は私を敬慕している。私の言う事ならば、何だって聞く。だから、強くなった彼女を使い、冠座のカードを完全にすれば、悲願がかなうのですよ」
「……何処までも、哀れだな。コーネリア」
吐き捨てるようにレンは言った、その時だった。
暗雲が漂う。
1人の男が、頭を抱えて、ふらふらとした足取りで現れた。レンは思わず身構える。また、あのデュエリストなのだろう。
そして——甲高い笑い声を上げたかと思うと、黒い靄に包まれ——激しい光と共に、それは顕現した。
「クリー、チャー——!? あれは、《英霊王 スターマン》か——!!」
大きな二本の角を持ち、右手には矛を、左手には碇の形をした光を纏わせた人型がこちらへ迫っていた。
「黒鳥レン。復讐の為に誰かを利用するやり方が気に食わないという貴方の美学は分かりました。しかし——貴方に分かるのですか?」
シャノンを地面に降ろし、コーネリアはデッキを手に取る。
「目の前で、大切な家族を2人も殺された私の心が——私は、どのような、如何なる手段を用いても、邪悪龍に報いねばならないのです。貴方如きに、私の何が分かるというのですか」
至って冷淡に、彼女は続ける。
「目の前で、人の形をした肉塊が裂けるのを見たことがありますか? 嘴で頭から脳味噌を貪られるのを見たことがありますか? バラバラに引き裂かれ、飛び散った血と内臓と骨を、貴方は見たことがありますか? 私は——見ただけで、気が狂いそうだった。今もこうして正気を保てている自分が恐ろしいですよ、私は」
自虐するように言った彼女は、英霊王に相対し、譫言のように呟く。
「そうですね——憎悪の塊となってしまった私は、こうして糾弾されてもおかしくはないのでしょう。それもまた、運命(サダメ)」
次の瞬間——黒い靄が、英霊王とコーネリアを包み込んだ。