二次創作小説(紙ほか)

Act4:一角獣は女好きか? ( No.45 )
日時: 2014/06/28 07:34
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

「はは、笑えるじゃろう? そして今日、我は此処に再び生まれていた。我が死の淵で望んだ、”人の心を見透かす能力”を持って!」

 ハーシェルは自嘲した。
 自分にも、この世のすべても全部投げてしまっているようだった。
 この世にやってきて、まず自分が感じたのは、人間の欲望だった。なんと醜く、醜悪な感情なのだろう。なんと薄汚れきった”心”なのだろう。
 ならば、自分がこの世界を思い通りにしてやる。
 そのために、自分と波長の合う純潔の乙女を探していたのだった。
 ……無論、一連の所業から下心が無かったわけではないが。
 そして目の前にいるホタルの眼を見つめようとした。
 そのときだった。彼女の瞳から大粒の雫が零れ落ちて、崩れた。

「……さびしかったんですよね?」
「ふん、同情など要らぬ」
「私に……似てますね」
 
 とくん、とハーシェルの胸が跳ねた。
 自分の瞳を真っ直ぐに見つめる彼女の眼がとても美しく、澄んでいたからだ。
 そこに濁りは無い。
 カードを引くホタル。傷だらけの彼女だが、唯一この戦いを終わらせる必勝方を確かにこの手に誘ったのだ。

「……開示せよ、黙示録。呪文、《アポカリプス・デイ》!!」



アポカリプス・デイ R 光文明 (6)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにクリーチャーが6体以上あれば、それをすべて破壊する。



 バトルゾーンに大量に存在するクリーチャーの軍勢、それらが全て裁きの光を前にして焼かれた。
 -----------皆、ごめん。
 大災害を意味する名を冠したこの光は、増えすぎた生命を淘汰しようとする神の意思によって下される。

「クリーチャーが6体以上いるので、全て破壊します」
「なっ、何だと!?」
「これで、邪魔は入りませんね」

 ターンエンドです、とホタルは静かに言った。
 青筋が浮かぶハーシェル。

「良いだろォ、その頭蓋砕いてくれるわァァァァァ!! 《白壁の聖霊龍ヌーベル・バウラ》召喚じゃァァァァ!!」
「私は、人見知りで誰かに何かを伝えるのが苦手でした」

 語りかける彼女の声は一瞬、ハーシェルの動きを止める。

「でも、色んな人と関わっていくうちに、人に”何か”を伝えるのってとても楽しいんだって気付いたんです。新聞部に入ったのもそう」

 そして、一瞬の迷い、ためらい、全てを捨ててホタルはカードを引いた。

「私は今、”貴方に伝えたい”!! ”貴方を助けたい”って!!」
「女の分際で戯言を、吐くなァー!!」

 ドス黒いオーラが一角馬の周りを包み込んだ。
 そして、それは完全に邪悪な魔物と化す。
 意味の無い悲しみと怒りに暴れ狂う真の怪物だ。
 しかし。
 その全てを受け止めるように、今、此処に、淡島ホタルは立っている。

「《龍聖霊ウルフェウス》召喚ですっ! 墓地にエンジェル・コマンドがいるため、効果で《ドラゴンズ・サイン》を唱えます!」



龍聖霊ウルフェウス SR 光文明 (7)
クリーチャー:アポロニア・ドラゴン/エンジェル・コマンド 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の墓地にエンジェル・コマンドまたはドラゴンが1体でもあれば、自分の手札から「S・トリガー」付きの呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー



 《ウルフェウス》の効果は強力だが、墓地にエンジェル・コマンドかドラゴンが落ちていなければならない。
 さっきの場のリセットはこのための布石だったのだ。
 今此処に、龍の印が押された。神々しき光と共に、支配を司る精霊龍がその姿を現す。
 暗闇を照らし、支配することで後に残るのは希望と慈悲だ。

「闇を制圧してこの世界から悲しみを消してください、《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》!」


 
支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ P 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 7000
ブロッカー
このクリーチャーまたは自分のコスト3以下の光のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、タップしてもよい。そのクリーチャーは、次の相手のターンのはじめにアンタップされない。
W・ブレイカー(このクリーチャーはシールドを2枚ブレイクする)



 現われたのは、神々しい光を放つ天空の使者。しかし、唯の使者ではない。龍だ。龍の力を得た天の使者、その名もエンジェル・コマンド・ドラゴン。
 司るは、”正義”。

「《ヴァルハラナイツ》の効果で《ヌーベル・バウラ》をタップ! さらに次のターン、アンタップできません!」
「なっ-----------!!」
「このカードは私の切札です! そして、私の魂ともいえるカード……。これで貴方に勝つ!」
「ぽっと出の小娘がぁぁぁぁぁぁ!! 我の怒りを鎮められるものかあああああ!! 我のターン、《潜守の精霊龍 フロマイラム》召喚だあああ!!」

 怒りの咆哮が虚しく、空間に響いた。
 しかし。
 もう、彼女はその程度では揺るがない。

「私のターンです。今度はG・ゼロで《巡霊者ウェビウス》に、《瞬封の使徒 サグラダ・ファミリア》召喚! 《ヴァルハラナイツ》の効果で《フロマイラム》をフリーズさせます!」



瞬封の使徒サグラダ・ファミリア UC 光文明 (2)
クリーチャー:イニシエート/ハンター 1500
このクリーチャーがタップされている時、相手は呪文の「S・トリガー」能力を使えない。



「ま、まさか-------------!!」
「呪文、《ダイヤモンド・ソード》で私のクリーチャーは召喚酔い及び、攻撃できない効果が全て無効化されます。どういうことか、分かりますよね?」

 説明されずとも分かった。
 直感的に。
 ホタルの場に全力待機していたブロッカー軍はこの瞬間、全て刃となってハーシェルのシールドへ。

「《サグラダ・ファミリア》で攻撃!」
「あ、あ、ああ……!!」

 声も出ない。
 何故なら、《サグラダ・ファミリア》がタップされている間、相手は呪文のS・トリガーが使えなくなってしまうからである。
 ハーシェルのデッキには呪文のS・トリガーしかない。
 しかも、手札にシノビはない。
 逆転の可能性は、0だ。

「《ヴァルハラナイツ》、《ウルフェウス》で残りのシールドを全てブレイク!」

 ビームが連続で照射され、結果シールドは全て叩き割られた。
 美しく、醜く、そして哀れな一角馬を護るものはもう、無い。
 《ウェビウス》の攻撃が決まれば、そこで戦いは終わる。

「……我の負けだ。一思いに止めを刺せ」

 一角馬は言った。

「我を守るものなど、最初から無かった」
「此処にいますよ」

 一角馬は思わぬ光景に目を見張った。
 少女が歩いてくる。
 あれほどの仕打ちをした少女が、自分から歩いてくるのだ。

「貴方は本当は優しいクリーチャーだって分かったから。わざわざダイレクトアタックをする必要はありません。私は貴方に”勝った”、それだけの事実があれば十分です」

 これ以上、貴方に辛い思いはさせたくないから、とホタルは添えた。

「ヌシ……本当に……物好きな奴じゃの」
「でも、嫁になるって申し出は勿論ですけど跳ね除けますし、勝ったんだから、こちらの言う事を1つ聞いて下さい」

 生意気な女だ、とハーシェルは思ったが、いやそれ以上に度胸のある女だとも思った。
 うーん、そうですね……と考える仕草をする彼女だったが、直ぐに答えた。


「私の……私のナイトになってくれませんか?」


 ハーシェルは、その笑顔を見てもう一度思い出した。
 少女の屈託の無い笑顔を。
 ああ、もう一度信じて良いのか?
 この光を。
 この笑顔を。
 だが、ハーシェルはもう疑わなかった。
 目の前のこの少女に濁りは無い、と。
 拒否権など、とっくに棄てている。

「喜んで、じゃ」

 気がつけば、自分を覆っていた邪気は消えうせていた。
 この少女こそ、我が主に相応しい。
 そのときだった。
 ホタルの視界は急に暗転し、そのまま地面へ落ちていく-------------