二次創作小説(紙ほか)

Act5:龍は死して尚生き続けるか? ( No.48 )
日時: 2014/09/16 20:11
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 決闘空間は消滅して、ホタルは元の場所へと戻っていた。
 
「あんにゃろう、大丈夫か……?」

 手に握られた見たこともないカード----------恐らく一角馬のカード--------を見てノゾムは安堵の息を--------漏らさなかった。
 彼女の身体はズタズタに切り裂かれており、服はボロボロ、全身から血が滲み出ていたのだった。

「ホタル!? おい、馬鹿しっかりしろ!!」

 揺すり起こすが、反応は無い。
 どうやら戦いが終わった後、力尽きて倒れたと思われる。

『安心せよ、少年』

 透き通ったような声が響いた。
 一角馬のカードが実体化する。

『彼女は我の邪念を浄化してくれた。その礼はたっぷりしないとな』
「お前……!」
『少年よ。我が名はハーシェル。今日より、彼女の騎士(ナイト)となるものじゃ。よろしくな』

 どうやら、ホタルは勝ったらしかった。

「はは、ヒヤヒヤさせやがって……いや、待てよでも救急車を……」

 心配は要らん、とハーシェルは言った。

『我が治癒能力で、彼女の傷を癒すことができる。それっ!』

 カードの光がホタルの身体を包み込む。たちまちに、彼女の傷は癒えて言った。傷の自然治癒を促すかのように、ぱっくりと開いた口の間に肉芽が生えていき、元の皮膚へと戻す。

『これで良いじゃろう。ヌシ達には迷惑を掛けたな。それと、あの馬にも』
「ま、まぁな」

 (先輩たちが後は何とかしてくれるか……)
 ノゾムは溜息をつくと、そのまま地面にへたり込んでしまったのだった。

『さて……ヌシ達はどうやら、”生きたカード”の持ち主らしいな』
「達……? ああ、ヒナタ先輩のことか」
『実は、我の世界に存在していたクリーチャーが、この国にいる』

 ハーシェルが住んでいた世界のクリーチャー……?

「本当か!?」
『感覚じゃ。確かではない。だが恐らく、我と同じく死んだ後に転生したものと思われる。一度、森にやってきた火文明の”装甲龍”の軍勢じゃが、その中に一際大きいものがあったのを覚えておる。それと同じじゃ』
「火文明が、森を侵攻したのか?」
『違うな。狙いはジャスティス・ウイングの本拠地じゃったらしい。森そのものを攻撃したわけじゃない上に、あの天使達は圧政で民を苦しめておったから好都合と思って、無視しとったんじゃ』

 どうやら、彼の住んでいた世界では正義の天使軍、ジャスティス・ウイングが圧政を強いていたらしく、それに対して度々火文明軍が反乱を起こしたことがあったらしい。

『リーダーの名は”アヴィオール”で、火文明唯一の頭脳と呼ばれていた知将だったらしい』
「それで、それで?」
『結果、火文明の軍は聖霊龍王を前にして全滅、そのアヴィオールも死んだと聞いた』

 しかし-----------と深刻そうな顔でハーシェルは続けた。

『ヤツは無念が募り、屍となってもなお生き続けているということだけは聞いておったが……』

 それがこの世界に来ているのだとすれば、是非とも仲間になるなら仲間にしたいところである、とノゾムは考えていた。
 しかし、屍になっても生き続けていたということは、恐らくドラゴン・ゾンビである可能性は大である。
 ともかく今は、ホタルを家の中に運ぶしかないだろう。
 次に今までの事をヒナタに連絡することにした。
 すぐに彼は心配の弁を述べたが、大丈夫です、と返す。
 また、ハーシェルの言っていたクリーチャーに付いても聞いてきたが、仕方なくこう返す。

「はい。とにかく、続報を待つしかありません」

 そして、携帯の電源を切る。ホタルの家の中は、思ったよりも綺麗だった。
 彼女の部屋は以前、ローブの男との戦いの後に覗いたことがあったが、なるほど新聞記事がスクラップにされていたりなど、新聞部員らしい。

『ついでに言っておくが、彼女に手を出したら突き殺すぞ?』
「手を出す? 何でオレがホタルに暴力を振らなきゃいけないんだ?」
『……純粋無垢な男じゃの』

 彼の心を見透かしたハーシェルは溜息すらついた。
 この男には、異性への関心というものが少ない、というかまだ子供っぽいように感じられたからだ。
 ホタルをベッドの上に降ろすと部屋の椅子に勝手に座ってノゾムは溜息をついた。

「で、ハーシェル。お前の能力は?」
『相手の心を見透かすこと。ヌシ、無欲じゃの』
「へ? どういうことだ?」
『……つまらん、まあ良いわい。そしてさっき、ホタルの心を見透かしたが、その中に-----------邪悪なものを目の当たりにしたことがある、というのがあった。正体は分からんかったが』

 邪悪な……もの?

「もしかして、それがあのアヴィオールとか言うヤツか?」

 それとも、あの鳥のクリーチャーか。

『分からん。だが、なんとなく……なんとなく嫌な予感がするのじゃ。彼女は、クリーチャーである我を使って、今直面している問題を解決しようとしたのじゃろう』
『ノゾムー……あたし怖い……』

 クレセントも何かを感じているようだった。

 ***

 これは-------------記憶。とある哀れな竜の末路-----------。

「ああ? 負けるだぁ? ふざけんな!! テメェの軍配に戦略が外れたことは無いが、今回ばかりは納得できん!!」
「バトライオウ。貴方の気持ちは分かります。しかし、ジャスティス・ウィングのバックにはあの精霊龍がいるのですよ? 戦いを仕掛けるのはあまりにも危険です」
「これ以上やられてばっかで黙ってられるか!! 俺は行くぜ。あいつ等に目にモノ見せてやらぁ!!」
「バトライオウ……」
「良いか。俺達は戦闘龍だ!! 死ぬまで戦わなきゃいけねぇんだ!! ドラゴ大王様の命に誓ってな!」
「……分かりました。そこまで言うなら止めませんし、僕もお供します」

 ***

「ああ、何てことだ……僕がもっと強く止めていれば、バトライオウは、皆は……」

 仲間の残骸を見て、装甲竜の男は呟いた。
 どの死体も肉は抉られ、目は潰され、骨は露出し血は沼のように辺りを覆っている。
 それを見た彼は他の装甲竜に比べても体躯は変わらないものだったが、モノクルを目に掛けている辺り、知的さが伝わってくる。

「……僕も貴方達の元に行きます」

 刀を取り出した彼は刹那----------------自分の首を一思いに跳ねたのだった。
 死のうにも死ねなかった。
 自分の力不足、抑止力のなさが原因で皆を死なせてしまった。
 気付けば-----------自分は真っ暗な空間にいた。
 しかし、手ごたえがある。
 手を伸ばし、無いはずの首を伸ばす。どうやら自分は地面に埋まっているらしい。そして這い出たそこは-------------墓場だった。
 他の装甲竜達の墓標が置かれている。
 そして、あたり一面に瘴気が漂っていた。

「は、はは……僕には死ぬ資格すらなかったというのか……!!」

 手を見れば、真っ白。骨そのものだ。
 自分は今、完全なる屍龍(ドラゴン・ゾンビ)として生まれ変わってしまったのだ、と己の人生を彼は悲観するしかなかった。

「あーははは、蘇ったかね? 君」
「あ、貴方は……!?」

 その姿は影そのもの。実態が掴めない。しかし、とても嫌な感じがした。

「死んだ兵を使って軍を築こうとしてるのさ。ほら、君のお友達も皆、ね?」

 見れば、バトライオウと思われる骨や他の装甲竜のゾンビなどが辺りを徘徊している。

「君は脳が綺麗だったからね。知性もそのまま……」
「死者を蘇らせた? ふざけるな、命を、仲間を冒涜する気ですか!! 愚か者、愚か者ガアアアアア!!」

 激怒した。こいつの所為で歪んだ人生を送ることになるなんて、まっぴらゴメンだ。
 まして、友の死体を使われるなんて……!
 こいつは絶対に、許さない!!
 そういう思いが先走る。
 
「はぁー、全く愚か者はどっちなんだか---------消えろ」

 刹那、黒い光が彼を襲った。だが、もうどうでもよかった。
 
(はは、僕は皆のところに行けないのか---------教えておくれよ、僕が、僕が一体何をしたって言うんだ----------)

 そこで意識は暗転した。
 光など、目の前には一寸もない。