二次創作小説(紙ほか)

Act1:接触・アヴィオール ( No.49 )
日時: 2014/10/26 15:37
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

「というわけでハーシェルの暴走も鎮めて、見事仲間に、ってわけなんですよ!」

 次の日の放課後。とある公園。ノゾムは嬉しそうにヒナタに事後報告をした。ハーシェルを撃破したのはクリーチャーを持たないホタルだったことに驚いた彼だったが、それと気になることが。

「そのホタルは今日、学校に来てたか?」
「え、それは知らないっす。クラスは別なんで」

 と答えたノゾムは、「それと--------」と続けた。

「その犬は?」
『誰が犬だぁぁぁ! 狐だって言ってるだろーがよ!』

 あ、そーいえば耳が尖ってて毛が黄色いな、と気付く。
 人の言葉で吼えたのは白陽だった。普通の狐の姿、つまりデフォルメ形態。ぱっと見普通の犬にしか見えなかったノゾムは、思い出したように「ああ」と呟いた。滑稽だったのは首をを付けられてリードでヒナタにつながれていたことか。

「おいおい、人に吼えちゃダメだろ、ポチ」
『誰がポチか!』
「こいつさー、尻尾握るとこいつがこの姿になるのは前教えただろ? ずっとカードのままにしてるのもアレだから--------この姿でうちで飼うことにした」
『誰がペットか! 早く外せ、この首輪!』

 凄いシュールな光景である。喋る犬が飼い主に突っ込んでいるのだ。
 また、精神的にも幼くなるのか、普段よりも砕けた口調だった。

「あれ? そういえばクレセントは?」
「鉄槌の手入れっすよ。ほんと物騒なんだから」
『おいてめぇ、クレセントのパートナーになったのは良いとして、あいつに変なことしてねぇだろうな!』

 ノゾムに向かって割り込むように白陽が吼えた。「しねぇよ!」と返したが、今度は飛びついて唸り声を上げながら言った。

『例えば---------添い寝とか、キスとか、後は一緒に風呂に入ったり……!!』

 恥ずかしそうに問い詰める白陽に、

「するかぁぁぁ!! オレの身体が毛塗れになるわぁぁぁ!!」

 と怒鳴るノゾム。
 いや、そっちかよ、とヒナタは”ノゾムに”突っ込んだ。本当にノゾムはソッチの方面は無知らしい。
 彼は首もとの白陽を振り払い、地面に叩き付けた。
 傍から見れば軽く動物虐待だが、あいつクリーチャー(怪物、バケモン)だから問題ないよね。
 
『いいか、覚えておけ! クレセントといちゃこらできるのは、このオイラだけなんだぞ!』
「その辺にしておけ、馬鹿犬」
『だーかーらー、誰が犬だぁぁぁ!』
「お手ー」
『しねぇから!』

 ***

「畜生、家は火事で燃え、嫁は浮気して逃げ、息子はやーさんに転職(ジョブチェンジ)……何て人生だ畜生!」

 呟いていることが全部悲惨なこの中年男性は、デパートの屋上の柵から乗り出し、不気味な笑みを浮かべた。
 
「もういいや、楽になろう」

 ここで終わりにしてやる、と言わんばかりにぐいっと乗り出し-----------

『貴方の人生は確かに悲惨だ』

 誰かの声が聞こえてきたので、不意に乗り出していた身体を引っ込めた。

『ですが、僕の魂の一部を使えば、今よりももっと良い人生が楽しめますよ』
「だ、誰だ! どこにいるんだ!」
『僕は貴方の心にいます』

 クク、と声の主は笑った。
 すると、1枚のカードが空から風に舞って降ってくる。それを右手で受け止めた。

『運命を、その手で変えてみませんか?』

 直後。
 エネルギーが、力が男の腕に流れ込んできた。
 言葉では言い表せない高揚感が襲う。
 何ともいえない破壊衝動が襲う。

「ぶっ壊してやる……こんな運命はよ!!」

 ***

「そーいや、白陽。俺はお前らが前世で何やってたのか、まだ知らねえんだけど」

 不意に切り出された話題に、白陽は戸惑った。「そーそー、オレも気になってたんだよね」とノゾムも乗ってきた。

「クレセントに聞いても嫌がって答えてくれねぇしよ」
『オイラは……』

 と言い掛けたところで白陽は首を振った。

『ダメだ、ダメだ! クレセントが答えたくないことをオイラの口から吐くわけにはいかないんだ!』
「ちぇ、けっちいの」
『るっさいやい!』

 ヒナタはぷい、とそっぽを向いた白陽を抱きかかえ、膝の上に乗せた。
 相変わらず愛想のない狐だ。
 と、ヒナタが言おうとしたときだった。
 ピクン、と何かに反応したように白陽の耳が動き、『こ、これは!』と振り向いた。

「どうした白陽」
『クリーチャーだ……! それもオイラと同じ、”星”の力を持つクリーチャーだ!』

 落ち着かないそぶりで彼は答えた。

『ヒナタ、案内する! 多分、クレセントも同じ反応を感じているはずだぜ!』
「解った」
「んじゃ、オレは家に帰ってクレセントと一緒に合流すりゃいいんすね、先輩!」
「ああ、頼んだぞ!」

 駆け出すノゾムの姿を見送り、ヒナタは白陽の方を向いた。

『着いて来るんだ!』

 くんくん、と鼻で何かの匂いを嗅いだ後、すぐさま彼は飛び出し、ヒナタもそれに続いて行った---------


 ***

 ざっ、ある建物の前に立った男。彼はカードに手を掛けると、それを目の前に掲げた。次の瞬間、影のような手が伸びて、建物の扉を貫通し、中から大量の札束を掴んで戻ってくる。

「いやっはっはっは! 俺様って最強ォーってカンジ? 銀行の中に入るんじゃなくってェ、銀行の外から強盗するとか、斬新だよなぁ、なァ!!」

 海戸銀行。普通の銀行である。以上。の前で札束をバッグの中に詰め込んでいるのは先ほどの中年男性だった。
 だが、見違えたように自信に満ちた笑みをしている。
 直後、爆発が起きて銀行からは火が上がっていた。カードを一度振るうと、再び影の手が伸びる。
 何事か、と集まってきた人々の身体を、その手が貫いた-----------その瞬間、それらはバタバタ、と眠ってしまったかのように倒れる。
 通報を聞いてやってきた何台ものパトカーもサイレンを鳴らして駆けつけた。

「ちぃっ、面倒くせぇな!」

 影の手が伸び、一瞬で一台のパトカーの車体をひっくり返した。そのまま、他のパトカーにぶつけてしまう。
 そのまま、逃げ出す警察官。
 直後、パトカーから火の手が上がり、爆ぜた。それに巻き込まれる人々。

「ひぃーひっひっひぃー!! 人がゴミのようだぜぇ、おるぁ死ねぇ!!」

 再び影の手が人々へ向かう---------そのときだった。

『るぁぁぁ!』

 一陣の影が影でできた手を切り裂いた。男は驚いた表情を浮かべる。
 「誰だ!?」と本日2度目になるであろうこの台詞を吐き、辺りを見回す。
 さらに直後、辺りを覆っていた火が一瞬で消えた。

「な、何だてめぇはぁぁぁ!」
「火を消す程度、この私からすればいとも容易いわ、悪人よ」

 声のしたほうには、クリーチャーの姿となった白陽の姿が。
 さらに、火が消えた跡から、ヒナタが駆けつけた。

「ナイス白陽! つーか、とんでもねぇ現場に足突っ込んじまったな」

 頭をぽりぽり掻いて彼は言った。

「おい、おっさん! そのカードを離しな!」
「るっせえええ、誰が離すかァァァ! やれ、アヴィオール!」

 男のカードから影の手が伸びてきた、が白陽が即座に槍で打ち払う。
 影の手が引っ込んだ。すると声が聞こえる。
 恐らく、カードの中に居るクリーチャーだろう。

『身の程知らずめ……竜骨座の力を持つこの僕に、君たちが勝てるわけがないでしょう。君たちなど、この分身が相手するまでもない!』

 と、そのときだった。男が手に持っていたカードから霊のような物体が現われる。

『こいつの相手でもしていればいいですよ!』

 叫んだ霊はガバッと口を開いたと思うと、もう1枚カードが現われた。そこから、カードが龍の姿を成すのは時間の問題だった。男は再び驚いた表情を浮かべる。

『さあ、今のうちに』
「へへ、ありがとよ! とっとと逃げるとするぜ!」

 だが、すぐさま余裕に満ちた表情で吐き捨てて男は去る。
 ヒナタは目の前に突然現われた龍を見て、驚愕した。

「こいつは……《隠密の悪魔龍 フドウガマオウ》!?」

 そう叫んだ途端、向こうから黒い霧を噴出してくる。
 クリーチャーだ。それも一般クリーチャー。
 今までオラクルの配下とばかり戦ってきたので、こういった普通のクリーチャーと戦ったことはなかったのだ。
 しかし、相棒に呼びかける。

「白陽!」
「ああ、行くぞヒナタ!」

 白陽が黒い霧を放った。
 そして、決闘空間が、開かれた-------------