二次創作小説(紙ほか)

Act1:接触・アヴィオール ( No.51 )
日時: 2014/11/12 19:14
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 ***

「ふぁあ〜あ、何よもう! 折角寝てたのに!」

 クレセントは走りながら機嫌が悪そうに言った。現在、海戸1区の住宅街。最短ルートで塀を飛び越えながら、クリーチャーの反応を感じたクレセントを追っていく。通称、クレセントレーダー。

「仕方ねぇだろぉ!? つーか鉄槌磨きはもう終わったのか!」
「うん、終わったよ。何ならノゾムのテレビで叩き心地を試してみよっかな」
「やめてください、マジで」

 走りながら会話できるこの2人もなかなかであるが。さて、クレセント曰く、闇のクリーチャーの反応は南南東に向かっている模様。
 顔が真っ青になったままのノゾムはそのまま走り続けた。
 
「兎(と)に角(かく)、急がないと!」
「兎(ウサギ)に角(つの)? アルミラージに転職してドラ○エ3に友情出演するつもりか?」

 ゴツン

「バカ! そうじゃなくて、急がないと!」
「痛いー、痛いー、頭がぁぁぁ、頭が割れるー!」

 メッチャ痛い。腕力どんだけあるんだ、と。殴られた頭を抑えてノゾムはクレセントの行く方向へ走っていった。
 一方で、周りの視線が痛い----------と思ったが、一応姿は消せるらしい。それでもさきほどから屋根を飛び越えたりなどの無茶をやっているため、(一度落ちた。痛い)体は既に疲れを感じていた。

「くそっ、喉が渇いた」
「はい、スポーツドリンク。こんなこともあろうかと持ってきたの」

 流石クレセント。既に人間社会というものになじんでしまったらしい。
 だが、スポーツドリンクというものを知っていて、何故人の物を壊してはいけないとは知らないのか。いや、知っててやってるのか。

「サンキュ、クレセント……ゲブホァッ!!」

 渡されたペットボトルの中身も確認せず、ぐび、ぐび、と飲み干したとたん-------ノゾムは盛大に咳き込んだ。

「これコーラじゃねえか、ふざけんな、ゲホゲホ」

 期待した自分がバカだった、とノゾムは後悔した。顔のあらゆる穴からコーラが噴出している。
 運動している最中の身体に炭酸は受け入れられるわけが無いのである。
 いや、それ以前にノゾムが炭酸などのきつい飲み物が苦手なのもあるが。

「あ、着いたかも」
「ゲホ、ここか」

 着いたのは薄暗い公園だった。見れば、40代ほどの中年男性がどデカいカバンを左肩に掛け、もう片方の手にはカードを握っていた。
 見れば、そのカードからはおぞましい気配が感じられるではないか!

「ぜぇー、ぜぇー、もう此処までくれば……」
『追っ手が来ましたよ』
「ん、んだとォ!?」

 男は振り向き様に怒鳴った。が、その瞬間視界に入ってきたのはチビと兎の獣人……兎の獣人!? と男は目をまん丸にしている。
 クレセントが目配せした。やはり、あのカードもこの星の邪気で汚染されているようだ。

「おい、おっさん! とっととそのカードを渡せ! あぶねえぜ」
「るっせぇ、誰が渡すもんか! 俺はこいつで一生銀行強盗で稼ぐんだ! やっちまえ、アヴィオール!」

 そういって男はカードを上空にかざした。途端に---------アヴィオールと呼ばれたカードからクリーチャーの姿が実体化する。
 その姿は何とも奇妙だった。
 全身が骨でできているのだ。白骨化した龍の顔にはモノクル、胴には鎧がついていた。右手には本が握られている。
 しかし、龍の骨は一向に動く気配が無い。

「おい、どうしたアヴィオール! どうにかしろ!」
『貴方の欲望は凄まじい。この僕のエネルギーには丁度いいでしょう』
「ああ!? 何言ってやがる!!」

 次の瞬間だった。ブクブク、と泡の立つような音が聞こえ、男の足元に黒い影が襲い掛かった!
 影は男をすぐさま包み込み、そのままアヴィオールの身体と同化してしまった。

『ふぅ、ご馳走様。ディナーの前の良いオードブルでしたよ』
「く、食ったのか!?」

 目の前で起こった光景が信じられない、といった顔でノゾムは叫んだ。

『食ったのは彼自身ではなく、彼の欲望です。私の体内に取り込まれた知的生命体は生きたまま永遠に私へ欲望を供給し続ける餌と化す。そしてあと少しで、この僕は真の姿を取り戻せるのです!』
「真の姿? 私たち英雄は、この姿がクリーチャーとしての真の姿じゃないの?」
『初にお目にかかります、クレセント。月英雄としての貴方の力、遠くからずっと見ていました。しかし、英雄は所詮、マナから力を借りなければ十二分な力を発揮できない』

 アヴィオールは『しかも』と続ける。

『この星の魔力(マナ)程度では全然足りない。だからこそ人間の力で増幅させるしかない』
「それで、どうするつもりよ」
『”ある方”が言っていました。クリーチャーとしての力を蓄積させれば、マナに頼らずとも”真の姿”を得られると』

 アヴィオールの片手の本が開いた。パラララ、とページがめくれ、足元に魔方陣ができる。
 ごおっ、と一陣の風が吹いた。
 肌があわ立ち、臨戦態勢に入る。

『そして貴方たちからも感じられる欲望、私のディナーとして吸収させてもらいましょう!』
「やれるもんなら、やってみやがれ!」

 直後、アヴィオールの左手に鎌が現れた。そして、同時に黒い霧が噴出す。決闘空間が開いた-----------

「来るよ、ノゾム!」
「ああ、ヒナタ先輩や白陽を差し置くのはアレだが、こいつも速攻でぶっ飛ばす!」

 闇の正気に包まれながら、意識をそのまま委ねた---------

 ***

 現在、ノゾムとアヴィオールのシールドは互いに5枚。そして先攻ノゾムの場には《アクア少年 ジャバ・キッド》に《アクア操縦士 ニュートン》の2体、に対しアヴィオールの場には《ブラッディ・メアリー》と《一撃奪取 ブラッドレイン》。むやみな攻撃は避けたほうが良いか。
 そしてアヴィオールのマナは4枚。

「僕のターン。少々手札に来るのが遅かったですが、《コッコ・ドッコ》召喚。ターン終了です」
「何しようとしてんのか、見え見えだぜ! オレのターン。ここは《超閃奥義 ヴィルヴィー・スパイラル》で《コッコ・ドッコ》をバウンス!」

 《コッコ・ドッコ》がバウンスされ、アヴィオールは次のターンにコストの高いドラゴンを出すことができなくなった。

「ターンエンドだ!」

 高らかな宣言とともにターンを終えるノゾム。
 まだ、小型クリーチャーを並べられる程度のはずだ。ヤツのマナは次のターンに5枚になる。

「ふふ。僕のターンです。3マナで、《ボーン踊り・チャージャー》を使い、マナを増やします。そして、《ブラッドレイン》でコストを軽減しつつ、《コッコ・ドッコ》を再召喚。攻撃はしません、ターンエンド」

 マナを増やし、そして再び現れたクリーチャー。しかし、ノゾムも仕掛けていくしかない。

「オレのターン! 6マナ、やっと溜まったぜ! 《龍素記号Bg ニュートン専用パンツァー》を召喚!」


龍素記号Bg ニュートン専用パンツァー R 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
相手がカードを引いた時、同じ枚数のカードを引いてもよい。
W・ブレイカー


「ターンエンドだぜ!」
「ノゾム。これで良かったのかな……?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! いけるぜ!」

 その時、アヴィオールの顔が少し歪んだ。
 愉快、そして滑稽なものを見ているような目だ。

「貴方はあまりにも無用心すぎた。闇の力、今こそお見せしましょう! 私のターン」

 アヴィオールのマナが2枚タップされた。次の瞬間、《コッコ・ドッコ》が破壊される。
 寒気がした。
 ぞくぞく、とムカデが背中を走っていくような感覚だ。
 唇を濡らすことも忘れていた。
 戦慄する中、現れたのは----------

「光在りし限り、闇此処にあり。影は何度でも蘇る。現れよ、《死英雄 竜骨のアヴィオール》ッ!!」

 知識を司りし竜骨の英雄だった。