二次創作小説(紙ほか)
- Act1:接触・アヴィオール ( No.54 )
- 日時: 2015/06/13 22:17
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「呪文、《月光超技・ムーンサルトスタンプ》!」
「これは、一体……!!」
次の瞬間、《タイガマイト》の体は激流に包まれて動けなくなる。
叫んだノゾムの額には三日月の紋章がついており、そして瞳は青く輝いていた。
まるで、月が放つ淡い光のように。妖しく、そして確かに。
「《ムーンサルトスタンプ》の効果発動。相手のクリーチャーを1体手札に戻す。頼むぞ、クレセント!」
「……そうだよね、あたしが弱気になっちゃ、ダメだよね!!」
墓地から実体化したクレセントはすさまじい跳躍力で、鉄槌を持ったまま空中で1回転し、そのまま《タイガマイト》に叩き付けた。
ぐしゃり、と《タイガマイト》の体は文字通りつぶれ、爆発四散した。
そしてさらに、その衝撃が波紋となって空間を伝わり、《ロマノフ》と《サンダーブレード》の体へ走った。
2体はそのまま動けなくなる。
「更に効果発動。そのまま2体は次のターン、アンタップできない。計3体のクリーチャーを機能停止に追い込む強力な呪文だ!」
「な、何故。”超技呪文”を此処で発動させるなんて!」
「ほんとーだぜ、クレセント。こんなのデッキに入れてるんだったら早よ言ってくれたら良かったのによ」
「あっはっはー、白陽には絶対使うなって言われてたんだけど」
「おい」
でもね、とクレセントは続けた。
「あたしだって白陽の力になりたい。この技を使ったら疲れちゃうけど、これを使って勝てる可能性があるのなら、あたしはこれを使いたい!」
「グレートだぜ、クレセント!!」
クレセントがにやり、と笑みをこぼす。
ノゾムも同じように返した。
「ああ、そうだ。マナ武装7発動! 墓地に《ルーン・ツール》、または《クレセント》とあるクリーチャーが居る場合、墓地にあるこの呪文とバトルゾーンにあるクリーチャーを山札の一番下に戻せば、そのままリアニメイトできる!」
《ムーンサルトスタンプ》と《ニュートン》が山札の一番下に戻った。
バラバラになっていた装甲が再び形を取り戻す。そして粒子が集まって肉体を成した。
無理矢理復活したからかぜぇぜぇと息を切らしてはいるが、確かにそこにクレセントはいた。
「な、闇の呪文でもないのに!!」
---------どうやら、僕の骸骨方陣と言い、彼女のムーンサルトスタンプと言い、どうやら他の文明の特徴を持っているということですか、超技呪文は……!!
とアヴィオールが首を上げた瞬間だった。
既にそこには、鉄槌を振り上げたクレセントが立っていた。
「さあヒーロータイムだ。テメェが! スクラップになるまで、殴るのをやめない!! 《月英雄 碧鎧のルーン・ツールC》でダイレクトアタック!!」
クレセントは鉄槌を持ち直し、大上段に振りかぶったそれを一気にアヴィオールへ叩き付けた。
ガオン、とアヴィオールの頭部を確かに抉り取ったのが見えた。
***
「ふ、ふふふ……僕をこれで浄化したと勘違いしていませんか?」
「む」
息も絶え絶えにアヴィオールは声を発した。
「言ったでしょう、この体はあくまでも僕の”分身”に過ぎません」
「こいつ、この期に及んでまだ……!!」
詰め寄るノゾム。確かに影のように1つの方向に向かってアヴィオールの体は蒸発している。
「僕はこの街のどこかで人間を次々に飲み込んでいるのですよ。この分身を使ってね。さあ、本体はどこにいるでしょうねぇーっ!!」
「テメェーッ!!」
ガッ、と殴ろうとした頃にはもう遅い。アヴィオールの姿はもうなかった。
力が空回りし、そのまま地面に倒れる。
「にゃろう、絶対見つけ出してやる!!」
「の、のぞみゅぅ……」
ん、と振り返る。見れば今度はクレセントが息も絶え絶えに立っていた。
声を発するのも精一杯なのか、呂律が回っていない。
「あたし……ちゅかれた……」
バタン、と倒れた彼女の体が光を発した。次の瞬間には、そこには兎が居た。それも混じりけの無い純白の毛の兎が。
その姿は普通の兎と何ら変わりない。
そして、すぅと寝息を立てて寝ていた。
「あんな大技使ったんだ。疲れてもムリねえよな」
「クレセントォーッ!!」
む、と声を向いた。見れば白陽と後に息を切らしてついてくるヒナタの姿が。
そして白陽の瞳は怒りで燃えている。
一番恐ろしいのは、その白陽の姿が小狐ではなく、クリーチャーの姿をして槍を構えていたことか。式神か何か知らないが、二股首の蛇がシャァーッと白陽の意識に呼応するように威嚇しているのが見える。
「十六夜ノゾム貴様ァーッ!! クレセントの所持者でありながら、これはどういう有様だっ!」
「なっ、ストップ白陽! 何に怒ってんの」
「クレセントに”超技呪文”を使わせただろう!」
ガミガミと怒鳴る白陽。
「あれを使うとなぁー、クレセントは一時的に魔力を失ってただの兎に」
「じゃあテメェもただの狐になれば問題ないな」
がしっ、とヒナタが後ろから尻尾を掴んだのが白陽には見えた。
「あふん」
しゅるるる、と体が縮んでただの子狐に。
『テメェーッ、何すんだぁーっ!』
「るっせぇな。何にキレてんだテメェは」
『良いか、あれを使うとクレセントは滅茶苦茶疲れるんだ!』
「るっせぇな(2回目)、勝ったから良いじゃねえかポチ陽」
『ポチ陽って何!? 嫌だからなオイラ、そんな名前! つーかな、オイラはあいつにこれ以上辛い思いをしてほしくねえんだよ! だからあの技を使うのはやめろって言ったのに!』
「好い加減にしろ。何度も言わせんじゃねえよ、馬鹿狐」
ガシリ、と白陽の頭を掴んでヒナタは威圧感たっぷりに言った。
「そんなのはテメェが決めることじゃねえ。クレセントが決めることだ。あいつを想い過ぎる余り、過保護になってねえかお前。あいつだって同じ思いだ。テメェの足手纏いになりたくねえから、テメェに苦労掛けたくねえ一身で技を使ったんじゃねえのか」
「……分かったよ」
はぁ、と項垂れた白陽はそれっきり何も言わなかった。
ノゾムはクレセントがあの呪文を使うときに言った言葉を思い出す。
「言ってた言ってた。白陽。クレセントはお前の力になりたいから、リスクは承知でもこの技を使いたかったんだとさ」
「クレセント……が」
「まー、とりあえずヒナタ先輩。アヴィオールはどうやらあれが本体じゃなかったぽいっス」
む、とヒナタが怪訝そうな顔をした。
「なるほど」とヒナタは真面目に頷いたかと思うと、「どっかにいる本体が今も欲深い人間を取り込むためにスタンドを飛ばしてるわけだな。射程圏内はどんくらいだ」
「いや分身のことをスタンドって呼ぶのヤメてください」
「良いじゃねえかよ。さて本体、か」
それだけじゃないです、とノゾムは続けた。
「奴は……自分を含めるクレセント達、星の英雄がまだまだ”本来の姿ではない”と言ってました」