二次創作小説(紙ほか)
- Act1:接触・アヴィオール ( No.55 )
- 日時: 2014/11/09 18:44
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)
「本来の姿じゃない……!?」
流石のヒナタも動揺した様子を見せた。
「奴は、星の英雄は人間の力を借りることで更なる姿へ、つまりパワーアップできると言いたかったんスよ。んでもって、白陽もクレセントももしかしたら、いずれは更なる姿になって、あの《ソウルハート》を今度こそ消滅させることができるかもしれないってことっス!」
「どーだかねぇ。イマイチ信憑性が沸かない。しかし例の邪悪なドラグハートは、まだ世界に4つあるのか……《ソウルハート》以上の強敵もいずれ現れる」
そのためにも、とヒナタは言った。
「まずはどうするか考えないとな」
『オイラ達がどうしてここに来たのか、その理由も探らねぇと』
--------だけど、どうしてこうも”俺達の周り”で事件が起こるんだ? 偶然にしては出来過ぎていないか……?
ヒナタは何か嫌な予感がした。まるで、星の英雄のカードは引き合うように自分達の周りで実体化をしているのだ。
ハーシェルもアヴィオールも現れたのは海戸ニュータウンと見て良いのか?
別の場所で復活したのなら、わざわざ此処に来る意味は薄い。
いや、仮に別の場所で復活したのだとしても、運命的に引き寄せあうようなものがあったのだとすれば----------
「先輩ッ、大変っス!」
そこでヒナタの思考は途切れた。
ノゾムの声がする。見れば、小さくなったクレセントを抱き上げていかにもタコにも切羽詰った表情でヒナタに呼びかけていたのが分かる。
「クレセントの体が熱い……!!」
「--------なっ!?」
驚いた。クリーチャーでも風邪を引くというのか。
恐らく、疲れが溜まっていた体に彼女にとっての未知であるこの星のウイルスが入ったのだとすれば、十分考えられる。
『ノゾム、テメェーッ!!』
ガブリ、とノゾムの腕に白陽が噛み付いた。
「いっ」と悲鳴を上げたノゾムは抱えていたクレセントを取り落としそうになった。
深い。とても傷口は深い。牙が離れた途端に血が飛び出してきた。
ガルルル、と白陽が小さな体で威嚇している。
『この糞野郎!! お前が汚れた手で触るからクレセントがこんなになったんだ、どう責任取るんだッ!』
「白陽ッ!」
ヒナタが怒鳴った。
「クレセントがこうなったのはノゾムの所為じゃねえ。それなのにテメェは今、ノゾムに何をした」
『うるせぇ、ヒナタ! 大体オイラは何でこんな奴がクレセントの所持者なのかも未だに納得してねぇんだ! 運命だか何だか知らねえが、こんな奴がクレセントの所持者になって良い訳が無かったんだ!! クレセントはオイラのものだ、こんな糞野郎問題外なんだよ!!』
噛まれた手から血を流すノゾムに容赦なく罵声を浴びせる白陽。
今まで抑えてきた独占欲がとうとう爆発したのだろう。
だが、その態度にいよいよヒナタはキレた。
「こいつ、言わせておけば……! 今度こそデュエルで肉塊(ミンチ)にしてやろうか、馬鹿狐がッ」
ヒナタの瞳が怒りに満ちていく。幾ら白陽と言えど後輩に向かって暴言を吐いたのがいよいよ許せなくなったのだ。
仲間思いの彼の性格からすれば当然のことだった。
もんず、と彼が白陽の首を今度こそ掴もうとしたときだった。
「アンタら好い加減にしろよ!! 今はクレセントの容態が一番先だろ!? このまま放っておいたらクレセントが死んじまうかもしれねえんだぞ!!」
吐き捨てるように叫んだノゾムの声に2人はようやく言い争いを止めた。
「白陽……テメェの言いたいことは分かった。クレセントはお前にとって大事な奴だからな。いきなり他の奴んところに行ったら、そりゃムカつくよな」
ふう、と息をついてノゾムは言った。
「オレはまだガキだ。色恋沙汰には滅法疎いし、分からんことばっかりなんだ。恋情だけは……オレはまだ証明どころか仮定を立てることすらできないんだ」
クレセントを抱えなおして、彼は立ち上がった。
「だからよ、ちょっと時間をくれ。こうなっちまったのもオレの責任だ。こいつはオレが命掛けて看病すっから……もう一度だけ、こいつと向き合うチャンスが欲しいんだ」
ぎりっ、と歯を一度噛み締めてノゾムは搾り出すように言った。
「だから、こいつが元気なったら、こいつはヒナタ先輩に譲渡します」
「ノゾム、お前」
『……チッ』
白陽もようやく落ち着いたようだった。
ヒナタもやっといつもの調子に戻ったのか、息をついた。
「クレセントの容態も不安だが、お前の手の傷も俺は心配だ」
「何、この程度。どうってこと無いっスから」
「そしてさっきの言葉……マジで言ってんのか」
「男に二言はありませんから」
ノゾムはニッ、と笑ってみせた。
とても哀しそうな笑顔だった。
「まあいい、それがお前の最善と思う択なら俺は止めない」
暁ヒナタは分かっていた。
生意気なノゾムは最後まで自分に涙を見せなかった。白陽に罵られても、噛まれても、そして自分からクレセントを手放すと言ったときも、最後までヒナタは彼の涙を見なかった。
そして、それが彼なりの意地なのだ、と。
***
十六夜家、ノゾムの部屋。
布団に体が小さくなったままのクレセントを寝かせて、氷水に漬けたタオルを額に乗せる。
少しでも楽になって貰いたい、という一心で。
「なあクレセント。考えてみれば、お前と出会ってあんまり経ってないんだよな。白陽の”好き”とは意味が違うと思うけど、お前が好きだったんだよ」
恋情ではない。友情、絆のようなものを彼女から気づいたら感じていた。
彼女は、何も答えない。それでもノゾムは話しかけ続けた。
「オレさ、嬉しかったんだ。お前みたいな相棒ができたのが」
-------ずっと、1人だったから。
「考えてみれば、あんときからお前に何か運命みたいなモンを感じてたんだろうな」
”運命だか何だか知らねえが、こんな奴がクレセントの所持者になって良い訳が無かったんだ!! クレセントはオイラのものだ、こんな糞野郎問題外なんだよ!!”
「なあクレセント。オレ、頑張ったよな……?」
あれ、何でオレこんなこと言ってるんだろう。
そんな疑問などに構わず、ノゾムの口から言葉が出る。
「訳の分からねえ空間で戦うことになって、それでもめげずにローブの男にも、アヴィオールにも勝ったのに……こんなのねぇよな」
目頭が熱くなる。何でこんなに悔しいのだろう。
何でこんなに----------ダメだ、こんなこと今のクレセントに言ったって意味が無いのに。
”十六夜ノゾム貴様ァーッ!! クレセントの所持者でありながら、これはどういう有様だっ!”
「オレが……悪いのか? クレセント」
”お前が汚れた手で触るからクレセントがこんなになったんだ、どう責任取るんだッ!”
「オレは……お前と居ちゃいけないのか、クレセント」
彼女は何も答えない。気づいたらぽた、ぽた、と雫が零れていた。
おかしいな。さっきヒナタ先輩にお前を譲渡するって決意したはずなのに。
何でオレ、お前の存在を求めてるんだ?
「頼むから、答えてくれよ……クレセント」