二次創作小説(紙ほか)
- Act2:追憶・白陽/療養・クレセント ( No.56 )
- 日時: 2015/05/24 16:50
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「……すまない、ヒナタ。先ほどは取り乱した」
「謝るならテメェが噛んだノゾムに言え」
屋根の上で背中合わせに星を見る。どんなに喧嘩をした日でも、これが2人の夜の日課だった。海戸は星空を大事にするために”夜は極力電気を消そう”キャンペーンをやっている。
その成果あってか、曇ってさえいなければ、毎晩満天の星空が拝めるようになった。
だがそれとは反対に2人の表情は曇っていた。
「クレセントはやはり、ノゾムといるべきだ」
「何だ? すげぇ手のひらの返しようだな。返しすぎてドリルができるんじゃねえのか」
「実を言うとノゾムに言った言葉も半分は本心で半分は勢いで言っただけだ。クレセントとノゾム。この2人が一番適したコンビだってことも分かっている」
白陽は俯いて言った。二股首の蛇は、彼の首にもたれ掛って、もう寝ていた。
「……そろそろ話しても良い頃かと思う」
白陽はおもむろに口を開いた。
----------すまない、クレセント。
***
妖獣界(クリーチャー・ワールド)。カナを振ればそう読めるが、この世界は他の超獣世界とは全く違う環境にあったらしい。
タイムチェンジャーとか言うカラクリがそういっていた。
何より、クリーチャーの性質が全く違うという。
私は九尾と言う種族の次期長だった。
クレセントもまた玉兎の若き族長の妹だった。
外の世界からやってきた旅人は、我らをキュウビ・コマンド。そして玉兎をムーン・ラビーと呼んでいた。
古き時代から、2つの種族は山で挟んだ隣り合いの集落にあり、そして争っていた。
クリーチャーのサガという奴か、小競り合いを繰り返していた。大きな戦いにはなっていなかったがな。
そして玉兎は水文明の技術を手に入れて、格段にその力を拡大させていった。
我々も元から持っていた妖術に火文明の重化学を組み合わせて全く新しい戦法を編み出していた。
私とクレセントはそんな時代の最中、生まれたんだ。
話変わり、玉兎の集落と通じる山があった。2つの集落を分断する山があった。立ち入りは禁じられていたが、好奇心が旺盛だった私はいつもそこを出入りしていた。
ある日のことだった。
同じことを考えていたのか、美しい子供のクリーチャーが他の小さなクリーチャーと戯れて遊んでいた。
長い耳に混じり気のない純白の毛。話でしか聞いたことがない玉兎だった。
それも私と同じくらいの年齢に見えた。
玉兎と九尾は仲が悪いという話は何度も聞いた。
だが、幼ながらに彼女に興味を持ったのだろう。
話しかけた。
彼女は笑って答えてくれた。
聞けば、宮殿のようなところで暮らしているが、いつも退屈な生活をしているらしい。
だから度々抜け出してここに来ていたらしい。
名前を教えあった。
それから私達は2人で遊ぶようになった。
毎日遊んだ。
山の友好的なクリーチャーと戯れたり、駆け回ったり。
そしていつもすんでのところで自分達の里に帰っていた。
あるときのことだった。いつもの通り、遊んでいたときのことだった。
森の茂みから巨大な大蛇が現れた。
そしていきなり襲ってくる。長い尾で彼女は巻き上げられ、もう少しで口へ----------「白陽!! たすけて!!」この声で私は磨いた剣術を使い、一瞬で大蛇の頚動脈を切り裂いた。
大蛇は断末魔を上げると、動かなくなった。
彼女を怖がらせてしまったか、と思った。実際その通りだった。抱き着いてきた彼女の目には涙が。
「白陽、怖かったよう」
「……もう、大丈夫だぜ」
彼女の笑顔を守りたい。私はいつかしかこんなことばかり考えるようになった。
いつの日か、私は彼女の姿を見るだけで心臓が跳ねるような感覚を抑え切れなくなった。
そして悟った。
これが”好き”だという感情なのだと。
これが私の初恋だった。
だが、ある日を境に。何の音沙汰なしに少女は来なくなった。私も彼女がいないのにこの山に来る意味は無いと思っていつの間にか訪れなくなっていた。
***
---------数年のときが経った。私は青年になった。玉兎と九尾の戦いは日々激化していた。
小競り合いじゃすまないような戦いもあり、私自身が戦場に出向くこともあった。
陰口が度々聞こえる。父が死んで私が長となってから。こんな若造が長だなんて、九尾の未来はおしまいだ、と。現に皆、おじの言う事ばかり聞いて、私の言う事など表面で聞いているだけにすぎないのだ。
全く嫌な毎日だった。味方にも訳なく嫌われているというのは。
ある日、久々にあの山にやってきた。山の様子は何も変わっていなかった。
流石に--------名前も忘れかけているあの少女の姿は来ていないだろう、と思って帰ろうと思ったそのときだった。
「白陽! もしかしなくても白陽だよね!」
振り向いたら、そこには少女がいた。あのときと背丈は変わってしまっていたが、純粋な紅い瞳で分かった。
私は振り向いて、その名前を呼んだ。
震えてまともに声を出してくれない喉に力を入れて言った。
「クレ……セント?」
人違いなんかじゃない。そもそも私の名前を玉兎で知っている者は彼女しかいない。
私は一思いに駆け寄って、彼女を抱きしめた。
「もう、白陽ったら」
「お前のことが好きだったんだ! ずっと愛していたんだ! 種族なんか関係ない、お前が……お前のことが……」
「あたしもだよ、白陽。だいすき」
腕の中で甘く言った彼女の言葉に抑え切れず、私は彼女の唇を奪った。
***
---------また、私達はこの山で会うようになった。
激化する2つの種族の戦いの中でもそれは変わらなかった。
でも、その日はやってきた。とうとう、玉兎の長でありクレセントの実兄のカシマールという男が九尾に宣戦布告を仕掛けたのだ。
明日から、全面戦争が始まる。
2人がこうして会っているのもバレたら、2人とも殺される。
「……始まっちゃったね、戦争」
「そうだな」
哀しそうにクレセントが言った。
私も頷いた。
「ねえ、白陽……あたしの最後の我侭聞いてくれる?」
私は------全てを悟った。
彼女の全てを受け入れる覚悟をした。
***
一時的な幸せ、それは夢で見るまもなく打ち砕かれた。
玉兎軍は九尾領の屋敷周辺にまで押し寄せてきた。長であるこの私自身が出向き、敵を打ち払うという事態に。
だが、今日、この日、戦場で2人が合間見えている。
昨日愛し合ったばかりの恋人が敵として目の前にいる。
彼女は”武神”だった。玉兎の中でもとてつもない馬鹿力を持つ才能の持ち主だった。
戦場の真ん中で私は鉄槌を振るい、容赦なく襲い掛かってくる彼女を見た。
それを剣で受け止める。それだけで体中から血が吹き出た。筋肉が悲鳴を上げている。防御結界を張っていなければ、間違いなくミンチにされていただろう。
「ごめんね、白陽……ごめんね」
やめろ、そんな顔をするな。何で今から殺す奴に向かって--------そんな哀れんだ表情を向けるんだ。
「クレセントォーッ!!」
ガインッ、と剣で鉄槌を弾き飛ばす。そのまま炎を纏わせたそれを彼女の喉元に突き立てる。
だけど、もう一押し。もう一押しができない。
あと少しで彼女を殺せるのに。
玉兎は今まで何人も殺してきた。なのに、何でこの一押しができない。
私は九尾の長なのだぞ。こんなところで、一片の気の迷いで--------------いや、ダメだ。
私は彼女が生きた方が良い。
剣を、自分の喉に向ける。
「ダメだよ、はくよう……何でそんなことするの」
「お前に……生きて欲しいからだ」
「分かっている。分かってるわ。それでも、あたしは貴方が好きで仕方が無いの。たとえ、種族が違ったって、敵対していたって! だから……このまま貴方と一緒に死なせて!」
-------馬鹿な女だ。私なんかと愛し合わなければ、こんなことも言わなかったろうに。
さっきまで私を殺そうとしていたのに、何で私と一緒に死のうとするんだ。
……どうせ死ぬならば、最後まで足掻いたほうが良いだろうに。
「ならば私は--------お前と生きる”未来”を選ぶ!!」
押し倒していた彼女の手を掴んで引っ張りあげる。
そしてそのまま、炎を纏わせた大太刀を振るった。
「それ以上、近づくな! こいつには指一本触れさせぬ!! この私を誰だと思っている? この猛々しき黄金の九尾が目に見えぬというのか!! 白面陰陽九尾・白陽だぞ!!」
「白陽、お前何言ってるんだ? そいつは玉兎だ! 俺らの敵なんだぞ! そんな化物、とっとと切り捨て------」
「誰が化物だと?」
ざくり、と目の前の奴の口へ剣を突き立てた。そして上顎と下顎を切り裂き、払った。
さっきまで喋っていた奴は死体になって転がっている。
皆、口々に叫んだ。
「ら、乱心だぁー!! 族長が乱心だァー!!」
「もう良い、殺せ。所詮、我が甥はその程度だったのだ」
さらに、玉兎側もクレセントを裏切り者とみなしたのか、皆、私達に襲い掛かってきた。
だが私に迷いは無かった。自分の生まれた種族を捨てても、彼女を愛すと決めてしまったから。
クレセントも同じだった。もう、同属だからといって容赦は無かった。
「白陽、未来を掴み取ろう!」
「ああ!!」
胸が張り裂ける思いだった。でも、背中には愛する人がいる。迷いはもう、無かった。
***
何人殺しただろうか。
もう覚えていない。体力はもう、限界を超えていた。敵の数は---------無数。
「はくよう……」
「結晶石の妖術。魔物を封印するときに用いるのだが-----------これを使う」
「ここまでって、ことかな」
「死ぬよりはマシだ」
これによる封印はよほど強力な力でないと解けない。少なくとも、この星に生き物が栄えている間は。
互いに私達は向かい合った。敵が走って襲い掛かってくる。最後の抵抗とばかりに私達の周りを炎で囲った。
「死なない、つまり我々が生まれ変わることは無い。だから離れ離れになることも無い。私とお前は永久に一緒だ」
「嬉しいな、白陽。あたしはどこまでも着いていくよ」
音を立てて、体に水晶が張り付いていく。体と水晶が一体化していく。
最後に唇を重ねったきり-------もうその後は何も覚えていない。
まさかこうして現世に蘇るだなんて、思ってもいなかったしな。