二次創作小説(紙ほか)
- Act2:追憶・白陽/療養・クレセント ( No.57 )
- 日時: 2014/11/10 11:45
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)
話を聞き終わった後、ヒナタは言った。
「白陽。頑張ったんだな」
「私は心に決めたんだ。この手で彼女を守ると」
白陽の眼差しは真っ直ぐだった。
「なのに、その役割がノゾムに奪われたようで悔しかった」
情けないような、そんな顔で答える白陽。
が、それに水を差すようににやにやしてヒナタは言った。
「で、白陽君? クレセントの最後の我侭って何だったのかな? ん?」
その瞬間、白陽の顔が真っ赤になったのが分かった。
恥ずかしさを抑えられないような、そんな顔だ。
「そ、そんなこと、どうでも良いだろう!!」
あれー、どしたのかな、白陽くーん、とヒナタはからかうように言った。
--------言えない! あんなこと誰にも言うか! た、確かに最高だったが……。
むぐぐ、と何にも言えずにいる白陽にヒナタは笑って追い討ちを掛けた。
「へーえ。俺にも言えないことか? キスじゃねえなら何なんだ?」
「子供は知らなくて良い!」
「あー、もう分かった。そういうことにしてやるから。うん」
「何だその言い方は!」
ぷいっ、とそっぽを向いてしまった白陽はそのまま、ため息をついた。
「私は……クレセントに依存しきっていたんだ。あいつがいなくなるのが耐えられなかった。クレセントを自分のものだと思う自分がいる。違うんだ。クレセントは、クレセントは--------」
--------誰のものでもないのに。
それを言いたかった。
なのに。
それを許さない自分がいる。
「もう良い、白陽。ノゾムには謝れば良いだろ。俺も悪かったよ」
「ヒナタ……私はノゾムに嫉妬していたんだ。勝手な思い込みで自分勝手な思いであいつに当て付けていたんだ……!」
「もういいんだ。俺とお前はパートナーだ。クレセントの代わりにはなれないかもしれないけど、辛いことがあったらまた俺に言え」
気が付けば心なしか、気持ちが楽になっていた。
「なあ、ヒナタ。お前は、私のことを怒っていないのか?」
「あ? まあ怒ってはいたよ。だけどさ、星を見てたら、んなことはどうでも良くなった」
ヒナタは言った。
「俺は一番星になりたい----------デュエリストの中で一番輝ける一番星に。皆を照らせる太陽よりもでっかい一番星に」
***
次の日。ノゾムは学校を休むことにした。理由は体調不良とか色々云々と付けて置いた。
とりあえず、祖父の前で仮病を演じるのは気が引けたが、もちろんバレて怒鳴られる。でも正直に事情を話したら何か分かってくれたっぽい。良かったね。
これも、クレセントの看病に全部時間を捧げたいからだ。
獣医のところに行っても、動物とクリーチャーでは体のつくりが根本的に違う。
多分、頼るのは無理であろう。
「のぞみゅ……めいわくかけて……ごめん」
「バカやろ、今更何言ってんだよ」
幼児退行したような口調で小さなクレセントはやっと目を覚まして口をきけるようにはなった。
氷水に漬けたタオルを変えた頃には、またクレセントは寝てしまっていた。
ふう、と一息つき、ノゾムもまた壁にもたれ掛って休む。
そんな中、彼女の寝言が聞こえた。
「はくよう……だいしゅき……」
また、白陽だ。
やはり2人には切っても切れない絆があるのだろう。
「……オレは……クレセントにとっての何なんだ」
***
気が付けば寝てしまっていたことに気づいて飛び起きた。眼を億劫気に開ければ、そこには2対のルビーが。
ノゾムはぎょっ、としたが良く見たらそれは見慣れた彼女の顔だった。
「クレセント!?」
「あ、おきたー! ノゾム、あたしの看病してくれてたんでしょ?」
「馬鹿、まだ寝てろ」
やっとクリーチャーの姿で実体を保てるようになったらしい。
安堵の息をついた。しかし、
「まだ熱がある」
彼女の額に手を当てて言った。
「ばっかにしないでよね! これぐらい、全然動け……ふにゃあ」
立ち上がろうとしたクレセントは体のバランスを崩して倒れた。
慌てて駆け寄るが、怪我は無いようだ。布団の上だし。
「無茶すんな。お前が治らないと、白陽に怒られちまう」
「もう、ノゾム。白陽に何か言われたの?」
「……何でもねえよ」
はっきり言って言いたくなかった、というのが本音だが。
そして、今聞くのもあれだが、思い切って聞くことにした。
「なあ、お前にとって白陽はどういうやつだ?」
「あたしにとっての白陽?」
少し首をかしげたクレセントだが、間髪入れずに答えた。
「あたしの一番大好きな人。あたしが世界で、ううん宇宙で一番愛してる人」
まあ、そうなるよな--------とノゾムは返した。
「……じゃあ、クレセント。お前にとっての俺は?」
「え、ノゾム!?」
うーん、とノゾムかー、と頭を抱えて悩む彼女を見て、ノゾムはため息をついた。
病んでるときに難題ふっかけちまったなー、と少々後悔した。
すると、彼女は口を開いた。
「まだ、正直……分かんないかも」
「だよなー」
「あ、待って! でも一番何となく近い感じがするのは---------友達。地球で最初にできた友達だよ」
このとき、ノゾムは自分がどんなに馬鹿馬鹿しい質問をしていたか気づいた。
---------何で俺、白陽と自分を比べようとしてたんだろ。俺がクレセントの傍にいる理由-------んなもん、俺とこいつが友達だから、それだけじゃいけねえのかよ。
「そうだ、看病してくれたお礼もしないと」
「あ?」
いきなり何言ってんだこいつ、と思って彼女の顔を見上げると、彼女が膝立ちになっている。
「ハグ、してあげる!」
ちょ、おまえ、止めてくださいィィィ!! お前の腕力は異常-------ぎゃあああ、とノゾムの断末魔は家中に響き渡ったのだった。
ひくひく、と気絶して動けないノゾムを見て、クレセントは首をかしげていた。
「あり?」
自分の馬鹿力に対して、よっぽど自覚がないらしい。恐ろしい子である。
***
「ハグはやめようね、クレセントちゃん。ゲブホァッ、骨が折れるかと思った」
「ごめんノゾム……実はあたし、人より力がちょっと強いの」
「うん、知ってた。つーかちょっとのレベルじゃないのも知ってる」
ゲホッ、と咳き込んでノゾムはため息をついた。こいつ風邪引いてたんだよね、ねぇ? と。
くすくす、と笑うクレセントをしばらく膨れっ面で睨んでいたが、ふとおもむろに呟いた。
「……しっかしなー、何で白陽がお前を守りたがってんのかがよく分かったぜ」
「ふぇ?」
「お前の笑顔だよ。あいつが守りたがってんのは」
ノゾムは思い返した。白陽はクレセントが傷つくのも苦しんでいる姿を見るのも耐えられなかったのだ。
だからノゾムに文句を言ってきた。だからノゾムに徹底的に食い下がってきた。
これ以上、あいつの笑顔を奪うのはやめてくれ、と。
---------違うんだ、白陽。こいつの笑顔を守りたいのは、オレも同じなんだ。オレだって、クレセントを、友達を苦しめたくないんだ。
だが、どの道クレセントはヒナタに渡すつもりでいた。
---------それが一番、良いよな。
だからこそ、今だけでも--------ノゾムはクレセントと一緒の時間を過ごしたかった。
「やだ、何真顔で恥ずかしいこと言ってるの」
「お前には笑顔が一番似合うんだってこと」
「ばかっ、恥ずかしいって言ってるじゃん!」
あ、やべ。今度こそ彼は命の危険を感じた。
照れたクレセントが思いっきり自分の体を抱きしめたときは、死ぬかと思ったノゾムだった。
白陽なら、多分平気なのだろうけど。
「……友達、か」
もう1度その言葉を噛み締めた。
「オレには良い友達が……できたな」