二次創作小説(紙ほか)

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ ( No.62 )
日時: 2015/07/05 12:06
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「というわけだ、我が社で開発した最新バーチャルゲームのモルモット……じゃなかったモニターになってもらいたいわけだ」

 目の前にいるいかにも夜寝てなさそーな隈にバリッバリに立たせた銀髪、んでもって睨み付けるような目つきの男はそう言った。
 デュエマ界では屍鬼(グール)とも名高いこの少年は、暁ヒナタと十六夜ノゾムの両名をわざわざ自分のビルに呼んでその研究室に案内したのは、以上の理由があったわけである。

「先輩、この人怖いっす」
「黙ってろ、ノゾム。黙ってれば何もされないんだ」
「おいおめーら、俺のことを悪鬼か何かと勘違いしていないか?」

 というのもこの男、名は武闘フジといい、ボンボンの偉いところの息子である。ものっそい大金持ちである。親父が鎧龍の理事長をやっていて自身もその学校の4回生というだけならばまだ良いが、度々このように彼らを呼び寄せて自社の発明品のモニター、いや本当にモルモットにしてくるものだから、当事者にとっては堪ったものではないのである。ノゾムはここに来るのは初めてだったが。
 本当不運だった。まさかこの人に2人一緒に捕まってしまうとは。
 「パフェ、食う?」なんて言った時点でおかしいと思ったのだ。
 案の定、パフェなど二の三の次、このバーチャルゲームのモニターにされるため、連れてこられたのである。
 ここ、武闘ビルに。武闘財閥の本社があるビルに。

「ヒナタ先輩から度々話は聞いてるっす! すばらしい先輩だって!」
「良いんだぞ? そんなガチガチに緊張して俺の機嫌取ろうとしなくっても」

 ---------何だよこの人、オレの感情が全部筒抜け!?
 ノゾムは驚きを覚えた。父親の商いを見てきたフジはいつの間にか、とんでもない洞察力、そして人間観察力を手に入れたのだった。
 さて、断れない理由としては、ヒナタは度々彼にはお世話になっていること、そして何よりも彼自身も生きたクリーチャーの使い手であり、数年前にここ、海戸で起こった事件を仲間と共に解決したからである。もし断ろうものならば、彼の相棒である《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》のヒジキ、じゃなかった餌食になるだろう。
 いや、マキシマム・ザ・マックスからすれば、フジ以外の人間の子供などヒジキ程度だろうが。
 
「つーわけだ、今日のお前らはモニター……じゃなかったモルモットだ。覚悟しとけや」
「いや、ね、先輩。今思いっきりモルモットって言いましたよね」
「ああん? ヒナタ、俺に文句あんのかコラ」
「サーセンした」

 そして先輩自身も滅茶苦茶腕っ節が強い。不良ぶってはいるが、頭も良い。
 以上のことから、彼らは渋々フジに従っているのだった。

「いいか、これはな。おめーらも楽しめるかなー、どーかなー、と思って連れてきたんだ。むしろ感謝しろ。最先端のゲームを今、ここで遊べるんだぞ」
「まあ、そうっすけど」
「んでもってだ、ヒナタ、ノゾム。”てめぇらの相棒も”持って来たろうな?」

 釘を刺すように言ったフジの言葉に、2人はカードを掲げて自身の相棒を繰り出した。

「ヒナタ。この男から物凄いクリーチャーの気配がするのだが」
「ちょ、ちょっと怖いかも」

 流石のクレセントと白陽も、フジとマキシマム・ザ・マックスの気迫に押されがちだった。

「紹介するよ、白陽。この人が武闘フジ先輩だ」
「ほら、クレセントも挨拶しろ」
「あ、ああ……」

 とは言ったものの、その迫力に気おされて、白陽もクレセントも挨拶の声など出てこない。

「まあ堅苦しい挨拶なんざ別にどうでもいいんだ」
「社長の息子がとんでもねえこと言っちゃったよ」
「とにかく俺はハードの説明をしたい」

 と、フジは部屋の中央にあるモニターとそれを囲むようにおかれた4つの椅子、そしてメインコンピュータを指差して言った。

「この最新バーチャルハード、”WRYYY!”は何と自分がゲームの中に入ったかのように楽しめるゲームの完成系だ」
「”WRYYY!”ってどんなネーミングですか。どこの吸血鬼ですか。Wiiみたいに言わないで下さい。血ィ吸われるんすか俺ら」
「良い意見だ、ヒナタ。名前は後で”WRYYY、You!”に変えておく」
「全然変わってねえよ! WiiUをパクんなよ! 悪い意味でバージョンアップしてるよ!!」

 思わずまたもやタメ口で突っ込んでしまった。幸い、ボケ気質のフジはこれしきのことでは怒らないからまだ良いが。
 
「わかったよ、もういいや。名前はとりあえず”WRYYY!”で確定しておくとして」
「確定するんすか」
「肝心のソフトだ。その名は----------」

 どこからか持ってきた巨大なキャンバスに掛かった幕を引っ張った後、フジは叫んだ。
 そこにはでかでかとタイトルが書いてあった。

「”キング・デストロイ・クリムゾン”だぁー!!」

 ----------ア、アウトォーッ!!
 ヒナタとノゾムは心の中で盛大に突っ込んだ。いよいよアカン方向に突っ込んでしまっている先輩に。

「フジ先輩、どこのデ○クリムゾンですか!! クソゲーの予感しかしないですよ!」
「武闘先輩、どこのディア○ロっすか!! ゴールドなエクスペリエンスなレクイエムに倒される未来しか浮かびませんよ!」
「デ○アボロ? デスク○ムゾン? 知らんな、無駄無駄無駄ァ!!」
「心は既に第五部だよ!! つーかこのネタ分かる人どれだけいるの!?」
「ちなみにキャッチフレーズは”上から来るぞ、気をつけろ”」
「心は既に○スクリムゾンだよ!! ていうかこのゲーム知ってる人どれだけいるの!?」

 うるせーな、もう、とフジは言うとヘルメットらしきものを4つ抱えてやってきた。

「というわけだ、駆け足のようだが早速このヘルメットを付けてもらう。これを被ってそこの椅子に座ってくれ」

 仕方なく白陽とクレセント含んだ4人は席に座る。
 もはや、完全にモルモットである。
 だが仕方が無い。早くしないとフジが切れそうで怖いのだ。

「あれ? これナチュラルに私たちも参加している感じか?」
「いーじゃん、白陽! あたしは白陽と一緒ならどこにでも付いていくよ!」
「こんなときまでラブラブすんのか、てめーらの相棒は」

 と、非リアの一員であるフジはヒナタとノゾムに白い視線を送った。

「内容は普通のRPGだ、安心しろ。後はゲームの中で教える。まずは、この催眠装置を起動させて……グッドラック」
「え、ちょ、おま、フジせんぱ」

 まだヘルメットを被って間もないというのに、何を言ってるんだ、この先輩は、と文句を言わせてくれるわけも無く。

「あ、ついでにさー」

 衝撃的だったのはフジの次の言葉である。


「お前ら、このゲームクリアするまで帰ってこられないからね?

 -------は?
 がんばってねー、という声が聞こえる。
 嵌められた、という言葉が全員の脳みそを過ぎった。
 -------はぁぁぁ!?
 ヒナタ達4人の意識は闇に落ちていったのだった。