二次創作小説(紙ほか)
- Act4:怨炎・アヴィオール ( No.67 )
- 日時: 2014/11/30 15:44
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「まずい、反応がどんどん遠ざかっていくぞヒナタ!」
「くそっ何があったんだ。落ち着け、まずはな……。誰かー!! 男の人を呼んでくれる人を呼んでー!!」
「まずお前が落ち着け、というか二度手間だ、つーかお前も男だろ」
「ジョークに決まってんだろ! さて、連れて行かれてる訳じゃなさそーだけどよ。そういえば、白陽。結局超技呪文ってなんなんだ」
夜道を白陽の姿を追うように走るヒナタは彼に問うた。
「私も気づいたら、このカードを持っていた」
白陽が1枚のカードを持っていた。
「だが、これは手に持っていただけで力が抜ける恐ろしい代物だ。使うなど、もってのほか。クレセントのようになるだろう。だから私も彼女にはあんなにも言っていたのに」
「だけど何で捨てなかったんだ?」
痛いところを突かれたらしい。白陽はそれっきり黙っていた。
ちぇ、けっちいな、とヒナタが言おうとしたそのときだった。
「反応が止まったぞ、ヒナタ!」
「なっ」
「行くぞ、ヒナタ! クレセントが危ない!」
「場所は?」
「えーっと……」
「まあお前が人間の世界の単位なんか分かるわけねぇもんな」
せめて、半径50m圏内! とかそういう具体的な情報が無ければ、彼女の反応を追って直線状に向かっていく他無いのである。
「つーか急がないと!」
「いや、確かに急ぐことはできるが、それだとお前が追いつけなくなる可能性がある」
「くそっ、人間の足には限界あるしな……」
***
「くそっ、せめてあいつの居場所が解れば……!」
ノゾムもたった今、同じことを考えていた。見れば、家の近くの路地は荒れていた。
道路に穴が開いているあたり、クレセントが鉄槌を振るったあとと見て良い。ゴミ捨て場も滅茶苦茶になっていた。
まず、急いで家から自転車を引っ張り出す。
だが、彼女の居場所が解らない。
そのときだった。
『ノゾム……来て』
声が聞こえる。どこかしらから。
そして一瞬で分かった。これはクレセントのものだと。
「何で、こいつの声が今……!」
そして、何となく。何となくだが彼女の居る場所が分かった気がした。
「今、助けに行くぞ!!」
自転車を猛スピードで走らせて、ノゾムは彼女の気配を追っていった------------
***
「らぁっ!!」
鉄槌を再び振るう。しかし、鉄槌は空を切り、衝撃波を起こすのみ。霊力に包まれた相手に風など受け流されてしまうだけだ。
「遅いですねぇ。確かにパワーはありますが、大振りかつ隙が大きい。スピードはありますが、結局重い鉄槌に振り回されてしまっている」
「やかましいっ!」
何度も鉄槌を振るってアヴィオールの体へ叩きつけようとするが、いずれも軽く避けられてしまった。
クレセントの体調は万全ではない。重い体を無理矢理引きずっている状態だ。
一方のアヴィオールは姿を消したり、鉄槌に比べれば軽い鎌を振り回して攻撃することができる。
その差をクレセントは自らの馬鹿力で補っているようなものなのだ。
「だったら、これならどうよーっ!!」
ぶんっ、と鉄槌を投げるクレセント。物凄いスピードで飛んでいくのが分かった。
が、しかし。
「成るほど、振り回すのが苦ならば一か八かぶん投げれば良いと。脳筋の考えですねぇ------------」
余裕の笑みを浮かべたアヴィオールの顔は-----------次の瞬間、へしゃげて胴体ごと吹っ飛んだ。
ひらり、と鉄槌は確かに避けた。しかし、別のものが顔にめり込んでいたのだ。鉄槌に目を取られたのが間違いだった。
それは、クレセントの鉄拳だった。
「ごふっ……!!」
数m程吹っ飛んだだろうか。彼は起き上がって何が起こったのかを整理--------する間もなく。しなやかな脚が自分の体を再び捉えたのが解った。「げぼぇっ」と腹から声が絞り出される。
そして、空中に打ち上げられていった。
「鉄槌がダメなら、拳で決めるまでよ」
クレセントは勝ち誇ったようにそういった。アヴィオールが鉄槌に視線を背けたその一瞬で、距離を詰め鉄拳、そして続けて蹴りを入れたのだ。
アヴィオールは空中に留まり、しばらく頭をもたれていた。
「がふっ、ごほっ、ごげばぁっ」
咳き込む。今ので体の骨が当然ながら何本か持ってかれたらしかった。
ゴキゴキ、と骨そのものの頭を元の位置に戻すと息も絶え絶えに言ったの。
「うぐ、げはぁっ……おえっ、まさか此処までとは……!」
骨の口から黒い血が溢れ出てきた。ハエが集っているのが分かる。とっくの昔に体内の血など腐ってしまっていた。
「パワーではあたしに勝てない。あんた自分で分かってるでしょ」
「鉄槌の重さがどれほどのものか、考えたくも無いですねェ、おげぇ、はぁはぁ、ですが所詮はその程度。確かに体内の組織はやられましたが、元から死んでいる私からすれば、後で幾らでも直せば良い事。ただ、溜まっていた汚血が少々吹き出たようです」
「うるさい。あんたは殺す、いえ再生できないくらいまでに叩き潰す。白陽やヒナタ、そしてノゾムにこんなところ見られたら絶対嫌われるけど、仮にもあたしは武神。返り血を浴びるのには慣れてるから」
手をかざすと、さっき投げた鉄槌が手に戻ってきた。ぺろり、と鉄槌の面を軽く舐めた。
血の臭いがする。今まで、何体ものクリーチャーを殺してきた鉄槌だからだ。
「でも、今のは流石に2度も使えないね、ケホ。次で終わらせる----------」
そういって、足を踏み出した。喉が苦しい。体がだるい。早く終わらせねば。
「貴方、ちょっと……調子に乗ってませんかね」
「何さ、息も絶え絶えに。今楽にしてあげる♪」
クレセントは無理に満面の笑顔を浮かべて跳んだ。凍りつくような笑みだ。彼女はクリーチャー。敵を殺すことに対する良心のタガなど無いのだ。だが、嬲り殺す趣味は無い。一瞬で楽にしてやるのがポリシー。
ノゾムがもう来るまでもないだろう。どうやら敵を買いかぶっていたらしい。鉄槌を思いっきり振りかぶり、その体全体を抉りとらんと振り下ろした。
ガキィン
弾いた。何かが。鉄槌は---------信じられないことにアヴィオールの手で受け止められている。
「まーだ気づいていなかったんですか? 私は既に必要なエネルギーは溜めきっていたのですよ」
でも--------とアヴィオールは続けた。
「もう容赦はしませんよ」
「---------この、力は」
クレセントは一度鉄槌を払い、距離をとった。
「僕はもう、《死英雄 竜骨のアヴィオール》ではない」
ビキビキ、とアヴィオールの全身から音が鳴る。そして、体を覆っていた骨が全て砕け散ったかと思えば、再びその組織が再構成される。
その姿は変化する前(正確に言えばクレセントがフルボッコにする前)とはあまり変わっていない。
しかし、身に纏っていたローブは白い鎧となり、黒い骨を浮き立たせている。手にはさらに何倍もの大きさの鎌が。
骨は刃となっており、より禍々しさを残していた。
「我が真の名は《怨炎の龍骨星 アルゴ・アヴィオール》……! これが星の力を最大限に取り込んだ真の姿ですよ!!」