二次創作小説(紙ほか)

Act5:武装・星の力 ( No.70 )
日時: 2015/07/18 17:46
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 機械仕掛けの巨龍は咆哮した。まるで、目の前の邪悪を吹き飛ばすかのように。
 
『このまま叩き潰すよ、ノゾム!』
「よし、出力超全開、撃ち方始め! こいつの登場時効果で相手のバトルゾーンのクリーチャーをすべて、持ち主の手札に戻す!!」
『オーケー、全弾発射ァーッ!!』

 体中の砲台が開き、アヴィオールのバトルゾーンへ向いた。そして、大量の水の塊が物凄い水圧で《ディアスZ》と《アヴィオール・ゼノン》を超次元ゾーンへ押し流していく。

「ば、バカな……! くっ、武装解除により《アルゴ・アヴィオール》はバトルゾーンに留まりますよ!」
「へへっ、どんなもんだ!」

 元の姿へ戻ったアヴィオールは息を切らしていた。どうやら、とてつもない負担が体に掛かっているようだった。

「私のターン……! 7マナを払い、《デビル・ハンド》で《クレセント・ベクトル》を破壊!」
「確かに破壊は免れないが---------ここで《クレセント・ベクトル》の能力発動!」

 ノゾムが高らかに叫んだ。

「《クレセント・ベクトル》がいると、呪文が唱えられたとき、手札からこっちも多色ではない水の呪文を唱えることができるんだよっ!」

 クレセントが言った。ノゾムも後に続く。

「つーわけで《龍素解析》を使って、手札を山札に戻してシャッフルした後、山札から4枚を引かせてもらう!」



循環月影エンドレス・ルーン クレセント・ベクトル 水文明 (12)
スターダスト・クリーチャー:ムーン・コマンド・ドラゴン 11000
L(レプス)・コア
W・ブレイカー
このクリーチャーの武装が成功したとき、相手のクリーチャーを全て持ち主の手札に戻す。
相手が自分のターンに呪文を唱えたとき、多色ではない水の呪文を自分の手札から唱えても良い。この効果は相手の呪文の効果が使われる前に発動する。
武装解除--このクリーチャーがバトルゾーンを離れたとき、このカードのみを超次元ゾーンに戻す。




龍素解析(ドラグメント・アンサー) R 水文明 (7)
呪文
自分の手札をすべて山札に加えてシャッフルし、カードを4枚引く。その後、コスト7以下の進化ではないコマンド・ドラゴンを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。



 その中から結晶の龍が現れた。《龍素解析》の効果で、コスト7以下のコマンド・ドラゴンをバトルゾーンに出すことができるのだ。

「《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を召喚!」
「し、しまった、それは---------!!」

 アヴィオールは絶叫した。再び、墓地に落ちていた《龍素解析》が発動する。
 《スペルサイクリカ》は失った知識を取り戻す力を持つのだ。



龍素記号Sr(エスアール) スペルサイクリカ SR 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト7以下の呪文を1枚、自分の墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、唱えた後、墓地に置くかわりに自分の手札に加える。
W・ブレイカー
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分の山札の一番下に置く。




「効果でもう1回《龍素解析》を使う! んでもって、もう1回カードを4枚引き、今度は《術英雄 チュレンテンホウ》を出すぜ!」



術英雄 チュレンテンホウ SR 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
相手のクリーチャーが自分を攻撃する時、「S・トリガー」を持つ呪文を1枚、自分の手札からコストを支払わずに唱えてもよい。
マナ武装 7:自分の手札から呪文を唱えた時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、その呪文を墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー



 現れたのは龍脈術によって誕生した英雄、《チュレンテンホウ》。クリーチャーを消すつもりが、逆に増やしてしまったことに憤りをアヴィオールは感じた。
 さらに、破壊した《クレセント・ベクトル》も武装解除で下にあった《クレセント・ニハル》がバトルゾーンに残ってしまった。

「ば、バカな、この僕が----------!!」

 愕然として手札にあった《デッドリー・ラブ》を使うことも忘れたアヴィオールは項垂れてそのままターンを終える。

「策士策に溺れるって奴だな。オレのターンだぜ」

 ぐっ、と自分の拳を握り締め、ノゾムは呟いた。


「ヒーロータイムの幕開けだ」


 にぃっ、と口角を上げた彼は、次々にカードをタップする。

「行くぜ、《スペルサイクリカ》でシールドをW・ブレイク!」
「くっ、トリガー無し……!」

 続けて、《チュレンテンホウ》が咆哮をあげてビームを射出し、シールドを叩き割った。トリガーはない。シールドもゼロ。

「あ、あああ、ああ……!!」

 言葉にならない声を上げるアヴィオール。しかし、ヒーローは目の前の”悪役”に対して容赦が無い。
 爽やか過ぎて逆にゾッとするほどの笑みを浮かべ、ノゾムは言い放った。

「覚悟はできてんだろーな、てめー♪」
「あ、は、あひぃ……!」
「《クレセント・ニハル》でダイレクトアタック!!」

 容赦の無い粛清だった。
 クレセントの持った鉄槌は、再び目の前の骸骨龍の頭をガオン、と抉ったのだった。



 ***


「おのれ、またしても……!」

 アヴィオールは息も絶え絶えに言った。

「今度会ったときは、げぶほぁっ……やべ、肋骨が全部折れた」
「おい、大丈夫か?」

 よくよく考えれば、アヴィオールは魂をこの星の邪気で汚染されているだけ。
 こんな本気でフルボッコにして仲間になりませんでした、とかないよね、とノゾムは心配になった。

「とにかく……!! 僕の体内には取り込まれた人間がいるのですよ、お忘れなく」
「あ」
「くそっ、また人間の欲望を探さなければ!」

 鎌で空間を切り、その中に入るアヴィオール。ノゾムは後を追おうとしたが、シールドの破片が突き刺さっていた肩から血が噴き出す。
 ハーシェルに掛かれば一瞬で治るらしいので、どうにか隠し通して明日ホタルの元に立ち寄るのが良いだろう。

「のぞむ、大丈夫?」
「お前だってボロボロじゃねえか」
「うっ……」

 彼女は自分の体を見て苦笑いを浮かべた。

「……マジで悪かったな、クレセント」
「白陽と一緒にいたい気持ちもある。だけどさ、あたしはノゾムと会えなくなるのも嫌なの」
「悪かった、本当」
「でも最近、白陽とあんまり2人っきりになってなかったかも。今度デートのついでにウフフ--------」

 とクレセントが頬を赤く染めて言いかけたそのときだった。声が聞こえる。その方を見れば、ボロでアヒルがペダルの先に付いた子供用の自転車に乗ってやってくるヒナタと白陽の姿が。
 浮いてやってくる白陽に、ヒナタは必死で追いついていた。

「はぁ、はぁ、廃材置き場にあったこれで何とか追いつけたから良かったものを」
「先輩、その光景めっちゃシュールっす」
「るっせ、俺だってこの年になってこんなのに乗ることになるとは思わなかったよ!」

 ゴム製のアヒルがぴょこーん、とハンドル正面から外れて跳ねる。その光景を見て、思わずノゾムは吹いた。
 すると、白陽の視線を感じた。
 
「……十六夜ノゾム」

 熱を帯びた視線だった。

「何だ、また文句があんのか?」

 言い返すノゾム。しかし、そのときだった。
 白陽はがっ、と地面に手と頭をつけ、吐き出すように言った。2mの巨体の彼が小さく見えた。


「本当にっ、すまなかった!!」


 土下座したまま、彼は続けた。

「今回の件で、私は自分のことがどうしようもなく自分勝手で最低なヤツだと気付いた。お前に嫉妬していたんだ。お前が気に食わなかったんだ。それで傷まで負わせた。だが、そんなのは私の勝手な当て付けだ。貴様は悪くない」
「……ツラ上げろ、白陽」

 その声で顔を恐る恐る上げる白陽にノゾムは言った。

「ヒナタ先輩はてめぇに1発殴っても良いって言ったが、そんなんじゃ、どっかの自分勝手でサイテーなヤツとやってること同じだもんな」
「……ッ」
「痛かったんだぞ、これ」

 ノゾムは自分の手の傷跡を見た。かなり深い牙の痕。もう、二度と消えないだろう。

「後からとってつけたような侘びなんか、オレは要らねーよ。ただ-------」

 
 バキッ


 思いっきり、今拳が届く位置にある白陽の顔をノゾムは殴った。不意を突かれたのか、彼の体が傾く。

「これでオレも、自分勝手で最低なヤツ。お互い様ってことで良いだろ」

 ふーっ、と自分の拳に息をかけるノゾム。
 頬を押さえた白陽も起き上がり、言った。

「……ありがとう……私を殴ってくれて」
「けっ、殴られたことにも礼を言うのかよ。それに謝るならクレセントにも、だろ。自分のことで争われて、あいつも傷ついただろ」
「……いや、あたしは良いんだよ? 2人が仲直りしてくれたら、それで……」

 彼女も何が起こったのかは、大体察しが着いた。

「クレセント、我慢すんな。言いたいこと、この際言ったらどうだ」

 ヒナタが背中を押すように、彼女に言いかける。
 しばらく押し黙っていたが、こくり、と頷くと彼女は言葉を紡いだ。

「ねえ、白陽。あたしのこと想ってくれるのは嬉しいよ……でも、だからってノゾムとか、皆を蔑ろにしちゃ、ダメだと思うの」
「……すまない。だが、私は心配なんだ。もう、お前を危険な目に、辛い目に遭わせたく無いんだよ」
「大丈夫だよ、白陽」

 にこり、と彼女は微笑みかけた。

「ヒナタとノゾムなら、あたし達をもっと良い方向に導いてくれるから」
「つーわけだ。もう良いんだよ、白陽。正直てめーはムカついたけど、今回の件でオレとクレセントの関係も見つめなおせたしな」
「そうか。それで、私の力を使えばその傷も外からは見えないようにできるが」
「いや、このままで良い。もうあいつを二度と辛い目には遭わせないよう、戒めとして取っておく」

 ノゾムは言った。

「オレもあいつを預かる立場である以上、もう辛い目には遭わせねえよ。心配かけて悪かったな」
「……いや、私も改めていう。すまなかった」

 2人が謝ったのを見て、ヒナタはため息をついた。クレセントも胸を撫で下ろす。

「男っつーのは俺も含めてバカな生き物だからなー。たまには喧嘩もするし、かと思えばすぐに仲良くなってやがらぁ。ま、一件落着つーことで」

 ヒナタは空を見上げると、感心したように言った。さっきからやけに明るいとは思っていたが、この所為だったと気付く。


「おっ、きれーな三日月じゃねえか」


 にっ、と笑い彼は帰ろうと振り返った。
 ----------その瞬間、元々ボロだった自転車は寿命がきたのか、バキッ、と音を立てて崩れた。

「これ、俺どうやって帰るの?」