二次創作小説(紙ほか)
- Act6:接近・次なる影 ( No.73 )
- 日時: 2014/11/30 15:27
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
次の日。
怪我をした箇所を無理矢理包帯で服の下から隠し、何とか今日一日を乗り切ったノゾムは、ホタルの家に向かおうと思っていた。
彼女は学校には来ていたらしいが、すぐに帰ってしまっていた。
さて、彼女の家の玄関の前に来る。見れば、ヒナタもいた。
「先輩」
「よっ、ノゾム。お前も来てから入ろうと思ったのさ」
とのこと。
「しかし、アヴィオールについては謎がいっぱいあります。第一に普通白骨化してるのならば、血もカラカラになってるはずだ。なのにやつには汚血があった」
「そういえば、そうだ。クレセントがアヴィオールに一撃を加えたとき、あいつは体内の組織がぶっ壊れて大量出血したらしいな」
「体内にどうやら血をためているらしい、です。それが自分のものかどうかは謎ですけど。おかげさまでハエが口から出てましたよ」
「あー、気持ちが悪い」
さて、呼び鈴を鳴らすと、しばらくして『はーい、誰でしょう』と声がする。ホタルの声だった。
「オレだ。ノゾムだ。ハーシェルとお前に用がある」
『え!? わ、分かりました……』
声がすると、また間をおいて彼女が玄関の戸をあけた。
すると、ノゾムと一緒に居たヒナタも見てホタルは驚いたようだった。
「あ、あれ、この方って」
「暁ヒナタ先輩。知ってるだろ、新聞部なら。って、この人も入れていいかな。悪いけど」
「あ、構いません。暁先輩も、どうぞこちらに」
「すまねーな」
彼は軽く受け答えた。
***
「粗茶ですが、どうぞ。レモンティーはお好きですか?」
「ああ、もちろん。ありがとな」
居間に通してもらい、彼女が接待用の紅茶を持ってやってくる。
飲んだが、なかなか酸味と甘みが絡み合って、これが美味しい。
さて、と隣の先輩が切り出す。
「ノゾムも、そしてこの俺も”生きたカードの使い手”だ」
「生きたカード……」
「そう。星の力を持つクリーチャー。前世で死んだり封印されてた英雄が何者かによって新たな力を手に入れて復活した。ハーシェルも例外じゃねえ」
ヒナタはぴっ、と白陽のカードを彼女に見せた。
『成る程。ワシと似た境遇のものということか』
ハーシェルの声が、ホタルの持っていたカードから聞こえた。
「多分、最近海戸で起こっている多くの怪事件。失踪や神隠し、放火に連続ナンパ」
『うっ……ちょっと私腹が痛くなってきた』
『ワシも頭が……』
白陽とハーシェルはそれぞれ腹と頭を押さえたのがカードの外から見えた。
「……それらは多分、地球にやってきたものの、人間達の邪気にやられておかしくなったクリーチャーが起こしたものだ」
失踪、神隠し、でホタルのこめかみがぴくん、と動く。不安げな表情を彼女は浮かべていた。
「さて、ここでお前に簡単な質問だ」
「し、質問、ですか」
「逆にインタビューされんのはなかなか無いっぽいが、そんな難しい質問じゃねえよ? すっげー簡単。誰にでも答えられる質問だぜ?」
ヒナタは、笑顔で言った。
「さーて、お前の両親はどこにいる?」
どうだ? と彼は続けた。ノゾムはそのやりとりを黙って見ているしかなかった。
「簡単だろ? 誰にでも答えられる質問だぜ」
「……」
黙りこくる彼女に、ヒナタはチッ、と舌打ちした。
「これは俺の想像だが、お前の両親……」
「もう、いいです」
彼女は静かに言った。
「私から言います」
「悪いね。辛いこと吐き出させちまって。だけど、もしもこれが俺の予想通りなら、想像通りならば、多分同じことがこの先何度も起こる。それを止めるためなんだ」
「……すみません」
ホタルの目には眼鏡越しに少し涙が浮いていた。
「私の家庭は、普通でした。1ヶ月前までは」
ですが、と彼女は続けた。
「ある日、黒いもやもやしたものが一緒に居た父と母を包んでいく光景を偶然見てしまったんです」
「黒いもやもや?」
「はい。形は無い抽象的なものでした」
間違いない。アヴィオールの分身だろう、とノゾムは感じ取った。
前に一度見ている。
「そしてそれ以来、真面目だった2人はパチンコに通うようになってしまいました。毎日毎日、ろくに仕事にも行かず、そして口も利いてくれなくなりました」
「そんで?」
「1週間くらいだったでしょうか。もう、2人は家に帰らなくなりました……」
くっ、とノゾムは唇を噛んだ。悔しい。アヴィオールの仕業だと分かっていながら、アヴィオールの所為にできないのが。
「そしてハーシェルと出会ったとき、私は確信したんです。もしかしたら、彼も協力すればあの黒いもやもや--------いえ、アヴィオールを倒せるかもしれないって。両親の仇討ちができるかもしれないって」
「やっぱり、ハーシェルから全て聞かされてたんだな」
『ワシらも何度かアヴィオールと戦ったんじゃが、いずれも逃げられてしまってな』
うーむ、とノゾムは唸った。そういえば、浄化を行うにはそのクリーチャーと同じ文明の使い手が必要だったような気がする。
アヴィオールは闇文明。そして、闇文明の使い手の知り合いといえば---------
「レン先輩!」
「どうした、ノゾム」
「レン先輩ならアヴィオールを浄化できるかもしれませんよ!」
「だっけどなー」
ヒナタは顎に手を当てた。
「いや、さ。何か、あいつに頼むのって癪なんだよなー」
「ちょっと待て、あんた。さっきまでの事件解決してやろうぜっていう積極的な姿勢はどこ行ったんすか」
「そんなもん、レンに頼むって思った瞬間北極に飛んでいった」
「いやいや待てぇ!! 何でそこで意地張るの、お前!!」
「まぁ、頼むだけ頼むけどよ。ぶっちゃけると、頼む必要無くね? って話だ」
は? とノゾムが言ったのを見て、ヒナタは返す。
「来るなら向こうから来そうな気がするんだ。今まで俺らのパターンとして、いずれも適合者と星の英雄はまるで引き寄せられるかのように出会っている。それも、お芝居のシナリオみてーに都合良く、な。偶然にしちゃ、出来過ぎてる」
ヒナタは続けた。
「強いクリーチャー、相性の良いクリーチャーと対応するデュエリストってのはもしかしたら運命的な何かで引き寄せられるようになってるのかもしれねぇ。比喩とかそんなんじゃなくて、マジでだ」
「んじゃあ、何もしなくってもレン先輩、あるいはそれ以外の適合者とアヴィオールが出くわす可能性があると?」
「ああ。だけどレンは元々無色の使い手だ。はっきし言って、闇に転向したのは結構最近なんだ」
「じゃあ、その可能性は低い、と」
「ああ」
なーんだー、と肩を落とすノゾム。もうこの時点で期待値はサゲサゲ、地の底である。
レンからすればとんだとばっちりだが。
「だからだ、ホタル。俺が言いたいのは、俺達も全力でお前に協力するってことだ」
「ああ! 3人いれば怖いもの無しだぜ!」
こくり、と彼女は頷いた。
「ありがとうございます……」
と、そのときだった。ブー、ブー、とヒナタのスマホに着信が入った。
誰かと思って電話に出たところ--------
『緊急事態だ、コノヤロー』
「よし、切るか」
『いや、ちょっと待て』
即効で切ろうとしたヒナタを、声の主は思い切り止める。
「何すか、武闘先輩」
知り合いの先輩、武闘フジにブルーな声を電話越しに浴びせるヒナタ。この間のゲームの一件(短編1参照)は忘れたとは言わせない。色々酷い目に遭ったのだから。
『いや、さ。まず、驚くと思うが--------武闘ビルに来てくれない?』
「理由だけ聞きます。理由だけ」
この人の誘いに乗ってはいけない。知ってる人でも誘いに乗ってはいけないときがあるのだから。
白々しくフジは言った。
『……テレビのニュース見てる?』
「は?」
『知らないっぽいな』
「えー、ちょっと待ってください。おい、ホタル。テレビ付けていいか。適当にニュース番組に合わせてくれ」
「解りました」
ぴっ、と音がしてテレビに画面が写った。そして、報道番組に変わる。そして、そこにでかでかと映っている光景を見て、ヒナタは絶句した。
「何すかこれ」
『いや、さ。うちのビルにね----------トラックが突っ込んじゃったのさ。あ、俺今外にいる』
なるほど、ビルの玄関にどでかいトラックが突っ込んでいるのが見えた。
消防車が火を消している。
「行きませんよ、それで俺らが何で現場に行かなきゃいけないんですか」
『分かってねーなぁー』
フジは、ふぅ、とため息をつくと言った。
『これにクリーチャーが絡んでるかもしれない可能性があるからだ』