二次創作小説(紙ほか)

Act1:記憶×触発 ( No.74 )
日時: 2015/01/11 22:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 仕方なく、ヒナタはノゾムとホタルを連れて、武闘ビルの前へやってきた。海戸の中央にあるこのビルは、結構ここからは近い。
 しかし何度見ても酷い有様である。トラックはばっちり玄関に突き刺さっていた。
 さて、フジが手を振っているのが見えた。ノゾムとホタルは彼の元に駆け寄る。軽く、ホタルにフジの紹介をしたが、彼女は新聞部なので有名な彼のことは知っていたらしい。
 しかし、流石にクリーチャー界のことに通じていることまでは知らなかったようだった。

「で、武闘先輩。これのどこがクリーチャーが関わってるんすか」
「難しいんだがな、あれだ。この運転手、事故の前後の事を覚えていないらしい」
「飲酒運転じゃないですか?」
「違うね。アルコールは検出されてねぇ」
「てんかんとかの発作では?」
「そんな持病は運転手には無かった」

 なるほど、何故運転手が事故の前後を覚えていないのか、全く分からないのだ。しかもこの運転手、50代ほどの男性だが一度も事故を起こしたことがないという。
 まあ、それでもまだ居眠りとかそういう可能性が残っているわけだが。
 しかし、とフジは切った。

「ま、ただね。事故の前に、近くの建物の屋根に”服を着た二足歩行で立つ猫”の姿が目撃されたらしい」

 このとき、ノゾムの中で疑惑は確信に変わった(多分)。いくらなんでも、白昼堂々服を着た猫が建物の上で二足歩行で建っているのはおかしい。
 もしかしたら-------と思った。そいつが何かを引き起こしたのではないか。

「とりあえず、ヒナタ先輩-----------」

 ノゾムはヒナタがいると思われる方向を見た。
 ぽつん、と立ったまま動かない彼。まるで、遠いものを見るような目でヒナタはビルに突っ込んだトラックを見ていた。

「先輩!」
「うおっと」

 びくり、と彼の肩が跳ねた。

「ったく、何ボーッと突っ立ってるんすか」
『いつものヒナタらしくないぞ、どうした』
「いや-------何でもない」

 ヒナタは言うと、フジの方に歩み寄った。

「で、俺らにどうしろって言うんですか」
「とりあえず、立ち話もあれだ。俺のオフィスへ来い」

 そう言ってフジは3人を裏口からビルへ案内したのだった。本当ならまだ立ち入り禁止だったらしいが、フジの前ではルールなど無用だ。

 ***

「さて。お前らはアヴィオールに気を取られて気付いていなかったと思うが、最近この海戸で起こっている怪事件は神隠しだけじゃねえ」

 開かれたノートパソコンの画面にノゾムは見入った。
 それはネットのニュース記事だった。
 『またか、海戸4区で傷害事件 動機は”もやもやしていた。カッとなって後は何も覚えていない”』、『自動車暴走、3人重症 運転手、何も覚えていないと話す』、『海戸1区で強盗事件 犯人の消息不明』、『神隠し、また起こる 今度は30代のサラリーマン』など、物騒なものばかりが集められていた。

「まだ死んだのがいねぇから良いけどよ。問題は、強盗の上2つ。そして今回のウチが被害を被ったトラック暴走に共通するのは----------」
「”容疑者が何も覚えていない”、ということですか」

 ホタルが納得したように言った。

「それも、容疑者は皆素行は真面目で問題なんか起こしたことがないような連中ばかりだ。そして神隠しに共通するのは、いずれも被害者が失踪する前に人生転落してたり、あるいは普通の人間だったのにある日を境に遊びまくったり、とな」

 共通点がいずれも存在する、ということである。

「だけど、それ調べたところで何になるんですか?」
「いや、別に」
「無計画ですか!?」
「だけど全くの無計画って訳でもねーよ? まずは次に似たような案件が出たら、今挙げた例からどちらかに敵を絞るんだ---------ん」

 フジは、そこで言葉を止めた。そして次の瞬間、「ぐっ!?」とくぐもった悲鳴を上げ、顔が痛みに歪むのが見える。
 彼は咄嗟に足元を見たのと同時に、ノゾムも胸騒ぎがしてフジの足元を見た。見れば、隅においていた観賞用の鉢植えに植えていた松がまるで蛇のように伸びてフジの足に絡み付いているのだ。
 そして、枝の先がまるで本物の蛇のように牙が生えた化け物になっていたのだった。

「こい、つっ!!」

 ガシッ、ガシッ、とフジは松の枝をふみ散らすが、一向に痛みは消えないし、離れる気配もない。
 ノゾムも慌てて鉢植えを叩き割る。すると、根がまるで生き物のように蠢き、脚のように動き出したのだ。


『にゃーっはっはっは! これは愉快痛快にゃー!』

 
 声が聞こえた。それも、甲高い少年のようなあどけなさが残る声だった。
 声の方向から、敵は天井に張り付いているようだ。だが、まだ影のようではっきりと姿が見えない。
 しかし、直ぐに自ら姿を現した。
 
「にゃははは、無様な人間諸君、如何かにゃ? この俺様が作った龍化の丸薬は」
「とっとと松を元に戻せ! フジ先輩が苦しんでるだろ」

 ヒナタが声を荒げる。
 クリーチャーはやはり猫の姿をしていた。それも、4頭身程にデフォルメされたような二足歩行。そして、中世風の服を着こなし、極めつけは羽飾りの付いた帽子に長靴を履いていたことだった。

「嫌にゃー、こんな面白いこと止めろだなんて」

 ぴょん、と天井から降りたクリーチャーは戸を蹴破って廊下を駆け抜けた。

「ホタル、先輩を頼む!」
「あ、はい!」

 ホタルは慌てて、ハーシェルを呼び出した。

「行くぞ、ノゾム!」
「了解っす、ヒナタ先輩!」
 
 そして、2人は長靴の猫を追いかけるのだった。

 ***

「ちぃっ、しつこい連中にゃー」

 走る猫は手をかざして再び丸薬を作り出す。そして、床にばら撒いた。すると、床に薬が吸い込まれていき---------

「どわぁっ!?」

 べき、べき、と剥がれて飛んで襲い掛かってきた。それを頭に直撃したノゾムは一瞬でノックダウン。白目を剥いて伸びてしまった。
 一方のヒナタはそれをすんでのところで避け、叫ぶ。

「クレセント! ノゾムを頼む!」
『お、おっけー!』

 クレセントも実体化し、伸びたノゾムを抱え起こした。直後、暴れる床が飛んでくる。
 しかし、そこは流石武神。ヒナタは、彼女が鉄槌の一振りで床をすべて沈めてしまったのが最後に見えたのだった。

 ***

「ちぃーっ、お前、しつこいにゃん!!」
「るっせぇな、しつこいのが俺のトレンドだ。褒めてもいいぜ」

 とうとう、行き止まりまで追い詰めた。ジョークを言ったヒナタだが、はっきり言っていつも朗らかな目は、今は笑っていなかった。
 白陽も実体化し、敵の次の行動に備えた。

「ヒナタ、早くこいつを倒すぞ」
「あー、そうだな。……その前に」

 おい、てめぇ、とヒナタは目の前のクリーチャーに口を開いた。

「どーやら、その丸薬でなんやかんやして、交通事故とか事件とかいっぱい起こしてるみてーだけどよ」
「にゃ? にゃははは、仰せの通りにゃ。あんな面白いことは他に無いにゃ!」

 無邪気な笑いで返すクリーチャー。
 しかし、ヒナタのこめかみが次の瞬間に引きつった。


「今、何つったテメェ」


 びくり、とクリーチャーは肩を震わせる。
 ヒナタは怒りで頭が完全に沸いていた。
 ----------ヒナタ、今日デュエマの大会があるんだよねっ! がんばってよ。あたしさ夏祭りの支度してヒナタの優勝の知らせを待ってるから!
 あの日の思い出が蘇る。
 がりっ、と歯を噛んだ後にヒナタは続けた。

「てめぇはその能力で何人傷つけた?」
「知ったこっちゃないにゃ。この世界ではこの俺様、《爪英雄 長靴のニャンクス》様が法律にゃ」

 ニャンクス、と名乗ったクリーチャーは続けた。

「俺様が何したって、関係ないにゃぁーっ!!」

 次の瞬間、黒い霧が辺りに発生した。決闘空間が開く前触れだ。

「白陽」
「む」

 呼びかけたヒナタは、怒りに満ちた目ではっきりと言った。


「あいつ、本気で潰すわ」