二次創作小説(紙ほか)
- Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解 ( No.80 )
- 日時: 2015/06/26 03:07
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「くっそ、じいちゃんつえーよ!」
はぁ、とため息をついたノゾムは言った。
完敗である。まさか、現役学生デュエリストが負けるとは。
「ふむ。まだまだじゃのう、かっかっか」
だが、今の龍三の表情は何時にも増して楽しそうだった。老人会でもこんな顔をしてデュエルをしていたのだろうか。
……未だに老人たちがデュエルをやっている様が想像できないノゾムではあったが。
しかしこのカードゲーム隆盛時代、誰もがデュエマをやっていてもおかしくはないのであるが。
「しっかし、3D龍解か……」
『すごかったよ、ノゾム!』
「ああ。星芒武装だけじゃねえ。龍解も極めないとな」
「ふむ、果たしてどうだろうな」
遮るように言った祖父は、ノゾムに歩み寄ると、続けた。
ノゾムは弾かれたように、振り向く。
「世の中には、龍解とは違う様々な戦法がある。龍解も確かに強力かもしれんが、それだけに執着する必要はない」
「というと?」
「剣道とて同じ、自分の戦い方を長い時間掛けて育てていけば、それで良い」
「……俺の、戦い方、か」
彼の中には、まだ星芒武装と龍解しかない。しかし、デュエマは何もそれだけが決め手となる戦法ではないのだ。
ノゾムは自分が今居る世界が、ほんの一端でしかないことを実感できていないのだ。
「とにかく、稽古ありがとよ、じーちゃん」
「うむ、精進するがよい----------」
と、龍三が言い終わった時だった。
ぽつん、ぽつん、と音がする。
「おや、雨か-------------」
呟いたノゾムは、窓の方をふと見た。
***
「うーむ」
クレセントのカードを見ながら、ノゾムは言った。
じろじろ見られているのに好い加減耐えかねたのか、彼女が実体化する。ただし、今は人型ではなく兎型の姿であったが。
「なーにー? ノゾムー」
「星芒武装、か……」
少し怒ったような顔で、クレセントは「だーかーらー、何考えてるのー」と言うが、少しおでこを撫でてやると「あふん」と機嫌の良い声を上げて大人しくなるのは、”兎の飼い方”とかいう典型的なペット本にあった知識で得たことである。
「うふふー、のぞむー」
「甘えん坊だな、お前は本当に……」
「……でも、白陽が今は、とっても辛い思いしてる。あたしばっかり、休んでいていーのかな」
チッ、と心の中でノゾムは舌打ちした。
畜生! 俺はやっぱり二の次かよ! 怪我した俺の心配は!?
半分仕方が無いことではあるのだが、クリーチャーを従わせる身としては、少々やるせなさを感じてくる。
「それよりも、だ」
憤りを押し殺し、ノゾムはクレセントに問うた。
「この星芒武装……いや、正確に言えば《月影機構 ルーン・ツール・S》のカード。これは一体、どっから出たものだと思う?」
「多分、それは”あたし自身”だと思うの」
「……何だって?」
耳を疑った。兎だけに。いや、そうではなく、だ。こんな不恰好な装甲(武装前)が彼女自身だというのか。
「はっきりとは分からないけど、あたしの”守りたい”って思いとあたしの精神が共鳴して生まれたんだと思うな」
「じゃあ、ステラアームド・クリーチャーは本体のクリーチャーの精神が何らかの要素が合わさって具現化したってことか」
「そして、それをもう1回身に纏う事で、よりその気持ちが強くなったんだよ?」
「1度分離させたものを再び纏うことで、更なる力を手に入れる、か?」
分からない。
最初からその力が使えない理由が。
何であれ、この能力。まだまだ解明が全く進んでいない。彼自身、これ以上の追及はやめていた。
「ノゾムー、だっこしてー」
「はいはい……」
いつもは白陽にして貰っていたのだろうか。若干、嫉妬の念が沸かないこともない。
だが、彼女の白い体毛は心地よく、彼の意識を闇に引きずり込んでしまうほどであった。
「……ノゾムー? もういーよー?」
返事が無い。その代わり、ぐーすかぴー、という鼾が帰ってきたが。
「やだ、もう! 寝ちゃってる!」
だが仕方ないか、と彼女は半ば諦めた。
------------ノゾムも疲れてるもんね……今日くらいは甘えさせても良いかな。
さっき甘えてきた自分を棚に上げ、彼女は微笑む。
「……白陽……大丈夫かな……」
だが、一方で恋人の容態が未だに不安だった。疲労が激しいだけなので、少し休めば回復するはずではあるのだが。
***
-------------クソッ、クソッ、クソガァァァァーッ!!
息を切らしながら、ニャンクスは”4本の脚”をフラ付かせながら、裏路地を歩いていた。
”あの戦い”以降、自分がクリーチャーとしての姿を保てなくなったのも、全部あの男・暁ヒナタの所為だ、ぶっ殺してやる、と。
何故、自分が此処にいるのか、とかそういうことは関係なかった。いや、考えたくも無かった。
そんなことより、この世界を滅茶苦茶にしたい破壊衝動が自分の中に渦巻いているのである。
----------マナ武装9発動!! 《ガイグレン》、アンタップ!!
繰り出される、斬撃、斬撃、斬撃。
それこそ死ぬかと思った。こんな目に遭っても死なないのは、辛うじて彼がクリーチャーという存在であるからか。
それ以上に、この世に再び生を受けた英雄であるからか。
普通のクリーチャーならば、消滅しているダメージだ。
-----------俺は……誰だっけ……。
何も思い出せない。
自分がニャンクスという名前で、前にいた世界でかなり高い地位に居たことだけは覚えている。
誰かに仕えていたような気もしなくはない。
しかし、それだけだ。曖昧に記憶はぼやけている。
その理由は、全く分からないわけでもなかった。
彼の中に渦巻く意味を成さない憎悪が、彼自身の記憶や思い出(この2つは脳内では違う場所に記憶されるため、違うものとする)を侵食しているからだ。
ひょっとして自分は死ぬのではないか。自分が此処まで歩いてこられたのは、ある意味の奇跡だったのではないか。
もう、立てない。歩けない。
そのまま、意識が遠のいていく----------
「……あれ? 何この子猫?」
声が聞こえたときには、もう何も思い出せなかった-----------