二次創作小説(紙ほか)

Act3:捨て猫×少女=飼い猫? ( No.81 )
日時: 2015/05/19 16:51
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


「あ、気付いた?」

 如月コトハは、塾帰りだった。天気予報で降水確率が高かったため、傘を持っていったのが幸いであったが、土砂降りの雨に打たれることに。
 こんなに酷い雨とは聞いていなかったのである。
 というわけで、いつもの帰り道を歩いていたそのときだった。
 ふらふらした猫が無気力な表情で傍を歩いていたのに気付く。慌てて見れば、その猫がいよいよぶっ倒れたので、顔が真っ青になり、急いで猫を抱えて家まで走って帰ったのが事の顛末である。
 幸い、親はまだ帰ってきていなかった。急いで身体を洗うと、汚れていた体毛の色がはっきりしてくる。
 さらに、V字型の顔、長く細い美しい尾と四肢、ピンと張った肉の薄い耳、そしてサファイアブルーの瞳。飼われていたのが逃げ出した奴がどこかで別の猫と逢引したのか、幼くも気品に満ちたオスのシャム猫だった。
 怪我をしていたので傷薬と包帯を巻いておき、しばらくクッションに寝かせておいたが、いましがた猫はパッチリ目を見開き、飛び起きたのだった。

「はい、ミルクとアジの開きだよ。たくさん食べて元気出してね」

 しゃがんで猫の目線になっているコトハの表情は、先ほどから緩みっぱなしであった。
 というのも、如月コトハは可愛いモノ好きなのである。 勿論、それは猫といった動物も例外ではなく、だ。部屋には彼女が作った縫い包みが置かれており、堅物な彼女の部屋には意外にも年相応な少女としての趣味と器用さが現れていたのだった。
 ただし、絶対にこの部屋はヒナタ達に見せることは出来ないが、そこは年頃の少女のアレという奴である。
 子猫は、ちろっとミルクを恐る恐る舐めて、大丈夫なのを確認するとぺろぺろと勢いよく舐めだす。
 その光景を見ながら、コトハの表情は余計に緩んでいったのだった。いつも張り詰めている気持ちが、解されていく。

「あーあ、そういえばヒナタの奴も”白陽”っていう狐飼ってるみたいだったけど」

 白陽の話は、ハーシェルの一件の後に聞いた。星の英雄の話。オラクルの件で超常現象には慣れていたため、然程驚かない自分に驚いた。
 人間の順応力というのは、恐ろしいものである。
 厳密に言えば、白陽は狐というより狐型のクリーチャーであるのだが、そんなことは彼女にはどうでもよかった。
 数年前、如月家は猫を飼っていた。キャシーという、7歳の気品に満ちたシャム猫だった。度々、家を抜け出す癖さえ無ければ、良い猫だった。しかしある日、家を飛び出したまま帰ってこなくなったのである。いつもならば次の日の朝には帰ってくるのに。
 しばらくして、町のすぐ近くの道路で臓物をブチ撒けているのが見つかった。車に撥ねられたのだ。
 ショックで、しばらく新しい猫は飼えないでいた。
 コトハ自身も、心の隙間が埋められなかったのである。しかし、この子猫を見て、もう1度猫を飼いたいと思えるようになった。

「もふもふー、良いなー」

 思わず、子猫に触りたくなるが、慣れてもいないのに不用意に触るのは良くない。そのため、我慢していたのだが----------


「ニャーオ」


 すりすり、と子猫が自分の身体に頬を摺り寄せてくる。珍しい、此処まで人懐っこい野良猫も。
 抱きかかえても嫌がらないのだ。
 もうこの子、この家で飼っても良いのではないか。幸い、キャシーを飼っていた頃の、猫用トイレを初めとする飼育セットが残っている。傷が治るまで飼う事はできるだろう。

「良い子ね……キャシーの生まれ変わりなのかな、貴方って」
 
 正統なシャムだったキャシーとは違い、この子猫は恐らくシャム寄りの雑種なのであろうが、そんなことは関係なかった。
 ……いや、本当に雑種なのだろうか。まさか、純血統のシャムが野良でそこらへんをほっつき歩いている訳はないし……。
 しかし、目の前の子猫は余りにも別の猫の特徴が無さ過ぎる。最初こそ、シャム寄りの雑種なのだろう、と思っていたが。
 何だろうか、この貴族というか、何というか、それ特有の雰囲気を漂わせている辺り、ただの猫ではないように感じたのだった。
 ……そして、彼女の予想は、後に当たることになる。


 ***


「白陽、大丈夫か?」
「あー、くれせんとー、くれせんとーなのかー、オイラのほっぺにちゅーしてくれー、ノイローゼで死んじまうよー」
「駄目だ熱で頭がイカれてやがる」

 この惚気狐は、熱が出てもブレないままであった。恥知らずの馬鹿狐とはこのことである。
 目の前にいるヒナタをクレセントと見間違えるくらいなのだから、クリーチャーワールドに居た頃のバカップルぷりが見えてきた。
 白陽はボカしていたが、ある意味大人なヒナタには分かる。決戦の前日に行為に及んだ程のバカップルぶりが。
 それはともかく、である。超技呪文の反動は、恐らくクレセントみたく真の姿に目覚めなければ消えないだろう。
 このままでは困る。

「頼むぜー、ニャンクスをブチのめすためには、お前の力が必要なんだからよ」

 最近、ヒナタはニャンクスとの再戦に備え色々なデッキを試していた。ドラグハートのみならず、最近は侵略という戦術も開発されており、ヒナタは早速それを試したいと思っていた。
 だが、いずれも机上論。しばらくはドラゴンで戦っていくことになりそうである。

「お前には早く良くなって貰わないとな」
「あふん、そこはやめてくれ、くれせんとー」
「返せ、俺の慈愛と博愛の精神を返せ」

 このエロ狐、チビになると普段こそ冷静ぶっているものの、そのメッキが剥がれてこうなるのだった。

「ったく、どうしたもんか」

 はぁ、とため息をつき、雨の降る外をヒナタは眺めていたのだった----------