二次創作小説(紙ほか)
- Act3:捨て猫×少女=飼い猫? ( No.82 )
- 日時: 2015/06/08 09:07
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
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明くる日のD・リーグ。今日は二回生の日だった。この学園には、S・ポイントというシステムを搭載したD・リーグという授業が行われている。
前にも説明したが、もう少し詳しく解説すると、生徒同士によるデュエマで勝敗を決め、成績をつけるというものだ。
しかし、このS(シールド)・ポイントというのが厄介なのである。これは、最初に生徒が30ポイントほど持っており、相手との勝負に勝ったとき2ポイント増加、負けたときに2ポイント減るというものだ。
ただし、問題は相手とシールドの差をつけて勝った場合、更にボーナスで相手のポイントを奪えるという点で、万が一ポイントが0になったものは退学。これにより、半ば強制的に生徒の闘争心を引き出しているのだった。
そしてこのシステムにより、今のところ10数人ほどが退学している。
とはいえ、このS・ポイントはD・リーグ以外でも貰えることがあるので、なかなか退学できないようにはなっているのだが。
さて、本日の生徒注目の対戦カードは---------
「《暗黒鎧 キラーアイ》進化! 《悪魔龍王 キラー・ザ・キル》へ! クリーチャーを全て破壊し、シールドをT・ブレイク!!」
「お、おいおい、やべーよコレ……」
暁ヒナタと黒鳥レンであった。よりによって、この2人である。
そして、試合の結果だが---------
「僕のターン! いくぞ、《キラー・ザ・キル》でダイレクトアタック!!」
「うわあああ!!」
今回は、レンの勝利に終わったのだった。
新しいデッキを組んだ彼は、新たなドラゴンでヒナタを倒したのだ。とはいえ、この2人の戦績はかなり拮抗しており、ヒナタが10回勝ったのならば、レンも10回勝っている、というほどのライバルっぷりなのである。
「ちくしょー、やられたぜ、今回は……」
「貴様とのデュエルは、恨みっこなしだからな。気が軽い」
「互いにS・ポイントが溜まっているしな」
互いに二回生の筆頭戦力と言われている。彼らが退学することはないだろう。何の筆頭戦力かって、夏に行われるチーム大会、鎧竜サマートーナメントの筆頭戦力なのだから。
「ねぇ、あんたら」
と、2人でやーやーやってる間に、コトハが話しかけて来た。
久々の、いつもの3人組だ。
「んあ? 何だ」
けだるそうに返したヒナタは、彼女に問うた。いきなり、何のようだろうか。
コトハの顔は、普段と打って変わってうれしそうだし。
「ねぇ、ねぇ! 聞いてよ! 昨日、猫を拾ったんだけど」
「拾った?」
いきなり何だろうか、彼女は。ペットの話など聞いてない、と言わんばかりにレンは顔を顰めた。
だが、猫というワードでヒナタは、ある人物を思い出す。ニャンクスだ。此処で、彼の興味は完全に猫へ向かったのである。まだ、レンとコトハには話していない、昨日の決闘だ。
レンを引っ張り、話を詳しく聞くことにした。それは、塾帰りにふらふらの猫を助けたというものだった。
しばらくは惚気のような話が続いたが、「でも、妙なことがあるのよ」と彼女は言った。
「……野良猫らしいんだけど、雑種じゃなくて血統の良いシャムみたいなの」
「野良でシャムがほっつき歩いているもんなのか? つーか、血統の良いシャムって見て分かるもんなのか?」
「前にシャムを飼ってたから……。車に撥ねられて死んじゃったけど」
「では、捨て猫か。可愛そうに」
「怪我もしてたから、手当てしたのよ」
人懐っこい辺り、そうなのだろう、とレンは判断した。
一方で、ヒナタは別のことを考えていた。
-----------そういえば、ニャンクスの野郎の目はサファイアブルーだったな。シャム猫の特徴のそれだ。偶然か? 俺がニャンクスを倒した次の日に、コトハがシャムを拾うなんて……偶然じゃねえものを感じるのは、俺だけなのか?
感じるも何も、当事者はヒナタしかこの場にはいないので、仕方がないのであるが。
「……まさかな」
こんなに幸せそうな顔をしているコトハは、初めて見た。いつもは気丈に、強気に振舞っている彼女だが、飼い猫が死んでからは、どこかで苦しい思いをしていたはずだ。まして、車に撥ねられたのだから尚更である。
そんな彼女の幸せを壊す権利は自分に無い、どんな理由があろうが、とヒナタは抑えたのだった。
「ところでレン」
コトハは話を変える。
どうやら、先ほどのデュエルについてのようだ。
「新しいカードを使っていたけど」
「ああ。ダーク・ナイトメア。鎧竜で開発された、闇文明のもう1つの新種族だ。個人的に、こちらの方が好みでな」
「ま、確かにレンにファンキー・ナイトメアは似合わないだろうな」
「闇文明の高潔な美学を貫くには、これ以上無い」
そんな他愛の無い会話が続いた、そのときだった。
「ヒナタせんぱーい!!」
「ど、どうも……」
声のする方を見れば、ノゾムとホタルの姿があった。
「あら? 貴方が新聞部の淡島ホタルちゃんだっけ」
「話は聞いている。大変だったな」
「どうも、ご無沙汰しております、如月先輩! 黒鳥先輩!」
明るさはある程度は戻ったのか、快活な表情で答えるホタル。しかし、どうやら只事では無いようだった。
「お前ら。どうしたんだ?」
「実は、スマホのニュースを見ていたんですが……」
ホタルが画面を見せる。そこには、”交通事故再び、3人意識不明”という見出しのニュースだった。
思わずヒナタは「馬鹿な!」と声を上げてしまう。ニャンクスは昨日、ボコボコにして、しばらくは動けないのではなかったのか。
「……どうなってんだオイ……!」
痛めつけようが足りなかったのか。新聞の記事には”長靴を履いた猫”という記述が記されており、ニャンクスの仕業であることには間違いないが……。
「どうしたのよ。この長靴を履いた猫って……」
「クリーチャー、なのか?」
「……」
ヒナタはしばらく黙っていた。
張り詰めた表情の彼を、ノゾムは心配そうに見つめていた。
「……ヒナタ先輩、こいつは……」
「待て、今は何も言うな」
ノゾムを制し、ヒナタは続ける。
「……分かった。放課後、もう1回会おう」
「あ、はい!」
「了解です、先輩!」
そういって、2人の後姿を見送るヒナタ。
レンが怪訝な顔で「何か知っているのか?」と聞いてきたが、何とか振り切り、彼はその場を後にした。
-----------まさか……そんな偶然が------------!!
未だに、彼の中では焦燥が渦巻いていた。