二次創作小説(紙ほか)

Act4:リターンオブ・サバイバー ( No.85 )
日時: 2015/05/23 14:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 ノゾムとホタルには、集合場所を予め指定しておき、一旦ヒナタは家に戻ることにした。
 そして、クッションの上で熱を帯びた体を苦しそうな荒い呼吸で躍動させている白陽に毛布をかけてやる。
 まだ彼が治るのは先だろう。クレセントでさえ、あの後もう少し時間が掛かったのだから。

「……すまねえ、また行って来るぞ、白陽」
「うーん、ひなたー?」

 霞んだ視界に見える彼の姿が、まるで置いてけぼりにしていくように白陽には見えたのだろう。
 

「おいてかないでくれよぉ……おいらも連れてってくれよぉ」

 
 熱の所為か、弱気にそんなことを呟くのだった。

「おいら、ひなたが学校行ってる間も、すっげー寂しかったんだよぉ……」
「すまんが、お前にこれ以上悪くなられても俺ァ困るんだよ。クレセントの夢でも見て我慢してろ」

 流石に冷たいか、とヒナタは思った。これで諦めてくれれば良かったのだが。

「たのむよ、連れていってくれよ……」
「だぁーっ、お前って奴はなーっ!」

 思わず怒鳴るヒナタ。これも白陽の体調を考えてのことであるのだが。
 
「ちっ、仕方ねぇ……カードのままで居ろよ? デュエマには出さねーぞ? それでも良いな?」 


 ***


「えっ、白陽連れて来ちゃったんすか!?」
「はっ、デュエマには出さないし、カードのままで居ろとはキツく言っている。とっとと回復して欲しいから休んでろって言ってるのによ」
『すまぬヒナタ、無理を言ったな、ゲホゲホ』
「やっぱり、置いて来たほうが良かったんじゃないですか?」

 ヒナタ達が集合したのは、事故があったという交差点の周辺だった。交差点には警察の事故処理車と警官に阻まれ入ることはままならなかったが、いたしかたないことである。
 何か手がかりが無いか、探すことにした。
 それに、ニャンクスはまだまだ遠くには行っていないはずだ----------

「と言いたいところだが、こいつを相手にしてる間に10分も経ってしまった、全部この惚気狐の所為だということにしておこう」
「先輩……」
『もう! 白陽を悪く言わないで! 白陽はあたしに会うために来てくれたんだよね? そうだよね?』
「お前最近少しずつヤンデレ入ってないか」

 あのー、とホタルが割ってきた。


「とりあえず、”あれ”については何かコメントしないんですか? 特大スクープものなんですが」


 ”あれ”? と2人はホタルが指差した方向を見る。
 そういえば、さっきから雲がかかったように暗い。今日は雲ひとつない晴れた天気のはずなのに。
 上空を見た。
 確かにそこには、”何か”よく分からないものがあった。
 とても巨大で上空を覆いつくしてしまいそうな、何かが。


「って、どええええええええええええ!?」


 そこには、巨大な5つの足が左右についた、要塞のような何かが上空に浮遊していた。全貌こそ分からなかったが、それが明らかに普通のものではないことだけは察しがついた。
 周りの人間はそれに気付いた様子はない。ただ、「急に空が暗くなったな」程度にしか思っていないのである。
 恐らく、見えていないというのが正しいのであるが。

『あれは……クリーチャーか? しかし、何のクリーチャーなのかさっぱり分からんのう』
「待ってください! 何か出てきますよ! デジカメ用意しないと」
「ブレねえな、お前も」

 ガコン、と要塞の口のような部分が開いた。そこから----------何かがこちらへ向かってくるのが分かる。
 それは、異形のモノ。クリーチャーであることは明確であった。

「待てよ、あれ見覚えがあるぞ!! 《ブレイズザウルスα》に《流星魚α》、《鉄壁の守護者ガリア・ゾールα》じゃねえか!?」
「サバイバーじゃないですか! 何でそんなクリーチャーが此処に!」
『恐らく、ニャンクスが生み出したと見て間違いないが』
「大本はあの要塞……《シェル・ファクトリーγ》ですね」

 サバイバー。それは地下から現れた侵略者。デュエル・マスターズではかなり前の種族であるが、愛好家はそれなりに多い。
 しかも、彼らは固有能力をサバイバー同士で共有するという特殊な力を持っており、数を増やされれば厄介だ。
 さらに、本体であろう《シェル・ファクトリーγ》はこの位置からは遠すぎて決闘空間に引きずりこめないか。

「仕方がねぇ! 雑魚だけでも蹴散らすぞ!」
「了解! ぶっ潰してやるぜ!」
「わ、分かりました! ハーシェル、お願い!」

 3人のデッキが輝き、黒い靄が発生する。それがサバイバー達を包み込み、今此処に決闘空間が開かれたのだった。


 ***


「ヒナタの奴ら、最近僕達を置いていくことが多くなったな」
「あいつら、あたし達を巻き込むまいって思ってるんでしょうけど、勝手に戦力外にされちゃ困るのよ」

 如月宅の前で、レンとコトハは最近のヒナタ達について話していた。コトハの腕にはしっかりと例の猫が抱かれていた。
 レンを呼んだのはこれを見せるためだったというのだから、彼からすれば迷惑極まりないことである。

「決闘空間が開けるとはいっても、実質”生きたカード”の有無はやはり死活問題よ。なのに、オーロラの奴、黙って出て行っちゃったんだから! いつになったら戻ってくるのやら!」

 はっ、とコトハは口を噤んだ。レンの顔がいつにも増して、険しくなっていた。
 地雷を踏んでしまったか、と彼女は後悔した。


「……スミスはもう、戻っては来ないがな」
「レン……」

 
 彼の相棒はもう、戻ってこない。オラクルとの戦いで彼を庇って死んだのだ。
 吹っ切ったつもりだった。だが、未だに辛い。彼は自分が嫌になった。コトハに要らぬ心配を掛けてしまったか、と。

「とにかくだ、コトハ。最近僕も調べていたのだが、このような事故や事件が多すぎるんだ」

 気を取り直すように、レンはスマホのニュースの画面を見せた。

「ヒナタ達から聞いたことは、星の英雄と邪悪なドラグハートのこと。そして、まだ英雄は2人、この海戸にいるということだ」
「それも、地球の邪気で汚染された英雄でしょう?」
「ああ。最近の事件、ヒナタは黙ってはいるが、ひょっとすればこれも英雄の仕業ではないか、とな」
「とんでもない連中ね……」
「これが本気を出したらどうなるか。オラクル以上の脅威になる前に、僕らでどうにかしなければなるまい」
「でも、あたし達で対抗できるの? 生きたカードは、いずれもこれまでの常識に縛られない能力を持つカードもあるのよ?」

 できるさ、と彼は言い切った。


「僕らは今までの戦いで、いつも相手のカードの効果を知っていた訳じゃない。いつも未知の敵との戦いだった。わざわざ生きたカードに頼る必要はない」


 コトハは彼の言葉を聞いて逆に不安になった。
 彼はスミスがもう帰ってこないから、自分を奮い立たせようとしているのではないか。離れていても、オーロラやドラポンがいる自分達とは違って、もう彼には相棒と呼べる生きたカードは居ないのだ------------