二次創作小説(紙ほか)
- Act5:格の差 ( No.91 )
- 日時: 2015/06/07 15:26
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
「ちっ、使えないな。他の英雄は思った以上の強さだったか」
一部始終をあるビルの屋上から見ていた男は、悪態をついた。
「ニャンクスの奴、どこに行った? 英雄共を倒すと息巻いていた癖に返り討ちにされたか」
男の姿は、フードを目深に被ったパーカー姿であるが、背が高く格好は大人のそれであった。
-----------自分が再び事件を起こし、そこに俺がクリーチャーで畳み掛けろ、とテレパスで奴は言っていた。どうやら、相当こっぴどくやられたみたいだな、情けない。自分で闘えない程、弱っているのか。何であれ、復讐は失敗か。まあ良い。奴の復讐なんぞに俺は興味は無い。俺が奴を回収すれば良い話だ。俺がニャンクスの能力を一生利用し続けるだけさ。
何であれ、ニャンクスの作り出す丸薬によって、男の世界は変わった。
身体の力は漲り、衰え、疲れを知らない。さらに、その丸薬を応用して、気に食わない連中を蹴落とすことにも成功した。
あてにこそしては居なかったが、ひょっとしたら本当に自分は王になれるかもしれない。
「……幸い、今の英雄の連中は俺には気付いていないみたいだな。まあ、良い。ニャンクスが俺の所有物であるうちは大丈夫だ……!」
にやり、と男は笑う。英雄に自分の居場所を悟られていないのならば。先にニャンクスを回収すれば良いという結論に至ったのだ。
「……呪文、《ディメンジョン・ゲート》」
***
「……今、嫌な感じがしなかったか?」
「……ええ」
レンとコトハは、顔を見合わせた。デュエリストの直感か。虫の知らせか。遠くで、何か悪いものが現れたような気がしたのだ。
それもそのはず、彼らはかつて生きたカードを所持していたので、そのときに得たクリーチャーの感覚が未だに痕のような形で残っているのである。
人間が生きたカードを所持していると、だんだんそのカードと波長が合って来て、感覚さえも共有してくる-----------これは、以前にフジが言った言葉であった。
「……どうしようもないわね。クリーチャーの力を借りられないもの」
「居たところでどうするつもりだ? それに---------------」
そこで、レンは言葉を止めた。
近い。感覚がだんだん近くなってくる。
「----------見えるか? コトハ」
「ダメよ、見えない。近くに居るってのは、分かるんだけど!」
気配は上空の方から感じた。
次の瞬間-------------空間が裂けた。2人は身構えた。敵のクリーチャーかと思ったのだ。
しかし。現れたのは、意外な人物であった。
男だ。
見知らぬ男が、裂けた空間の奥から現れたのだ。
「……此処か」
男は地面に降り立つと、辺りを見渡す。そして、コトハに抱きかかえられているシャム猫を見るや------------
「……おい、ニャンクス!! 演技はそこでお仕舞いにしろ」
-----------意味深な台詞と共に、猫の名前と思われる単語を叫ぶ。
「気をつけろ、コトハ! この男、恐らく生きたクリーチャーの使い手だ!」
「分かってるわ! 今のは多分、呪文でも使ったんでしょうね! でも、ニャンクスって一体------------」
と、彼女が辺りを見回したそのときだった。
コトハの腕に抱きかかえられていた猫が飛び出す。
「あ、ちょっと!」
駆け寄るコトハは、そこで脚を止めた。
おかしい。猫の様子が。
ビキビキ、と音を立てて、その姿が変わっていく。服がどこからともなく、貼り付く様に纏われていき、直立二足歩行になった猫は最後に帽子を被り、ぴょい! と男の肩に飛び乗った。
「この小娘に預かって貰っていたのか? ニャンクス」
間違いなかった。目の前の猫は、クリーチャーだったのだ。
「にゃははー! おかげさまで傷は何とか治ったのにゃー。こいつが外出してる間に回復薬剤ガン積みしたおかげにゃー」
「そうか。ならば、相応の礼をしてやらないとなぁ?」
男の顔が卑しく歪む。視線はコトハとレンの方を向いていた。
コトハの表情は、完全に動揺していた。
「うそ、でしょ……!? あんた、クリーチャーだった、の……!?」
「にゃははー! お前が猫好きで、感謝してるのにゃー! ちょっと媚びただけでこれだから、人間なんてちょろいのにゃー、にゃーはっはっは!!」
コトハの心を抉るように、ニャンクスの言葉が突き刺さる。目の前のこいつは、優しくした自分を完全にバカにしている、と。
-----------待てよ、だとすれば、こいつも白陽やクレセントと同じ英雄ということか?
あのニャンクスからは、目に見えて邪気が増している。
-----------つまりは、あの男はニャンクスの正統な持ち主ではない、ということか。暴走状態のニャンクスに利用されているに過ぎない。
「何、貴様らには消えて貰う。口封じだ。ニャンクスのことは、誰にも教えるわけにはいかないのでね------------!!」
笑う男の手にはカードが握られていた。完全にこちらを消すつもりである。
《ナチュラル・トラップ》のカードだ。
----------呪文、だと!?
ぞくり、とレンの肌が泡立つ。いや、まさか、だ。そんなことがあるわけがない。
しかし、今まで何度も超常現象に出くわしてきた2人はそれを完全否定することが出来なくなっていた。
そして今回も例外ではなく。
「----------死ね!!」
地面から蔓が現れた。カードのイラストのとおりだ。それが、レンとコトハ目掛けて襲い掛かった。
びくり、とレンは生命の危険を感じる。
腕に、脚に絡み付き、じりじり、と引きずり込んでいく。まずは、レンからだった。
---------女の方は、後で好き勝手できる。だが、あの坊主のほうだけは殺す!! じゃーな!!
「ぐあああああ!!」
身体が軋み、骨が割れそうだ。コトハが必死にレンへ呼びかけるが、彼は悲鳴をあげるばかり。
-----------此処で僕を殺すつもりか!! 畜生!! 何でいつも僕ばかり、こんな目に遭うんだ-----------
こんな死に方では、あの世でスミスに顔向けできない。
「畜生ォォォーッ!!」
次の瞬間だった。
轟!! と一陣の風が吹く。
そして、ドス黒いオーラがレンから迸ったのが、ニャンクスに見えた。
-----------こいつ、今までクリアなオーラしか無かったはずなのに……!! 一気に、色を得た……一気に”闇文明の色、力”を得たにゃ……!! まさか、こいつ-------------!!
「-----------む?」
同時に男の余裕は途切れた。
蔓は次の瞬間、砕け散ったのだ。
まるで、レンの身体を何かが護っているような。
そのまま、蔓は何かに毒されたかのように、腐っていき、コトハも解放する。
「ぜぇぜぇ……何だ、これで終わりか? 半端なものだな、呪文というのは」
息こそ切れていた。が、しかし。レンには確かに
男は青ざめた。
「くそっくそっ!! バカな!!」
------------何故だ。何故呪文が通用しない!!
怒鳴り散らしながら、男は次の手段を考えていた。
今まで使ってきた手段が利かない相手に遭遇したことで、男の焦燥は募っている。
しかし、そのときだった。
ニャンクスがぴょい、と男の肩から飛び降りる。
「ばっかだにゃー。デッキは持てとあれほど言ったのににゃー」
次の瞬間、男の手に40枚の紙の札が現れる。加えて、さらに何枚かが追加された。
デッキだ。恐らく、デュエルでケリを付けるつもりらしい。
「ああ、すまない……! 奴らも俺らと同類か?
------------それは間違いにゃー、お前は俺様の駒にゃんだから。
と言う訳にもいかなかったので、「まあにゃ」と曖昧に返す。
レンもそれを見るや、デッキを取り出した。
「コトハ、下がってろ。こいつは僕が倒す!」
動揺し、地面に膝をついているコトハを一瞥し、彼は言った。
今は自分が戦わねばならないときだ。もしかしたら、ヒナタ達も闘っているかもしれない。先ほどまでの嫌な感覚の正体が、それだとすれば。
「お前は何者だ!」
レンは答えなかった。自分でも判らない。しかし、それがスミスの残してくれた遺産だというのならば、彼に感謝せざるを得なかった。
ビリビリ、と自分の周りの空気が震えた気がした。
-----------僕だって、僕だって戦える!!
デッキケースから、40枚のカードが現れる。それを握り締め、目の前の敵にかざす。
そして、先ほどの質問に、手短に答えた。
「貴様を裁くモノだ!!」
次の瞬間、黒い靄のようなものが噴出した--------------!!
「決闘空間、解放!!」