二次創作小説(紙ほか)

ピース5:実力の差 ( No.11 )
日時: 2014/10/17 07:00
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 先に動きはじめたのはもちろん、俺達だ。幹部なんざ知ったことあるか。面倒だから一気に決めてやる。
 リオの手に気合がこめられた。同時に再び空気の刃ができる。

「リオ、真空波!!」

 ぎゅんぎゅん、と刃は音を立ててカイロスへ一直線。効果はいまひとつなのは分かりきっている。だが、本命はそちらに集中を向けさせて本当の一撃を食らわせること!!
 リオの影の爪が伸びた。シャドークローで伸してやるぜ!
 案の定、真空波は先にカイロスに直撃してリオの爪も遅れて襲い掛かった。
 どぉん、と音が響いて砂煙が舞った。
 しばらく何も見えなくなる。
 
「……その程度か?」

 目の前のヤツが憫笑したのを見て、俺はカイロスの方を見た。のけぞってもいなければ、攻撃を受けて怯んだ様子も無い。
 ガッ、とリオの拳が掴まれた。一瞬、冷や汗が伝う。シャドークローはカイロスの身体に到達する寸前にその腕で掴まれているというハプニング。
 こいつ虫だよね? 虫が格闘ポケモン相手に圧倒的な実力見せちゃダメだよね?
 
「カイロス、ヤツを拘束しろ」

 刹那、カイロスの2本の角がリオを挟んだ。棘が付いた角にとらわれたら、もう逃れられないってナビにあったが、これは相当ヤバい状況だよね。

「からの--------馬鹿力」

 本能でこれはまずいと察した。筋肉が一気に膨張したカイロスがドゴッ、ドゴッ、とリオに拳をぶつける。
 さらに、このときに角の拘束を解いていた。
 ボールに戻す暇なんか無かった。
 吹っ飛んで来たリオが俺の身体に襲い掛かる。そのまま俺も一緒に押されて後ろにあった固い物に頭をぶつけた。
 このめり込んでいく感じ、そして生暖かいものが首を伝って流れていく。
 あ……れ、これって岩だ。洞窟の壁だ。我ながらやってしまったらしい。
 目の前の視界がぼやけてくる。

「これで少しは痛い目を見ただろう。おい小娘」

 アゲハはどうやらミオの方を向いて喋っているようだ。
 意識が朦朧としている所為かだんだん切れ切れにしか聞こえなくなってくる。

「さて、このまま私……戦って手持ち……失い、イッシュに帰る手段も失うか、それとも大人しく逃げ……か」
「くや……けど、後者を……ぶわ」
「賢明……だ。だが……用は無い。私はこいつら……違って、子供を攫う趣味は……ない。さっさと消……ろ」
「言われな……も」

 どうやら見逃して貰ったらしい。けど、もう何も考えられないや……。
 意識が闇に……落ちていく----------

 ***

「……しっ……さいよ!!」

 あれ? 何か聞こえる。
 女の声だ。
 光だ。目の前に光が……。

「起きろォーッ!!」
「だぁー!! うるせ痛たたた」

 怒鳴った直後に後頭部に痛みが走った。
 頭の中に響く感じだ。
 目の前にいたのはミオだった。頭に何か巻かれているのに気付く。
 えーっと、何だっけ……。そうそうアゲハってヤローのカイロスにリオがぶっ飛ばされて、俺もそれに巻き込まれて------ああ思い出した、壁にごつんしてそのまま気絶してたのか。
 なるほど、包帯で丁寧に巻かれている。応急手当はばっちりってか。

「悪かったわよ。でも起きてくれなきゃ、あたしの腕力じゃあんたを岸まで運べないから。でも、黒き翼軍の幹部に挑むなんて随分とまあ無茶してくれたじゃない」

 さっきまで人に無茶させてたヤツが言いますか。

「あー、そうかよ。で、ガブリアスは?」
「野生に帰化していたみたいだから、捕獲したわ」
「じゃ一応は任務完了、か」
「それと……助けてくれてありがと」

 それを聞いて少し感心した。
 自分勝手なヤツだとは思うが、一応礼は言えるのな。

「まさか、あのガブリアスが連中の手に掛かっていたなんてね。あんなチョーカーは初めて見たから」
「あのチョーカーをつけると、ポケモンの力が通常の倍近く強化される上にチョーカーのコントローラーへ従順になるって変なおっさんが言ってた」
「早速連絡ね。”セキュリティー・イッシュ”にも伝えて動いて貰わないと」

 そう言ってミオはライブキャスターに着信を掛けた。

「もしもし、ミオです。はい、ガブリアスは捕獲しました。ただし、ガブリアスは黒き翼軍が開発したと思われるチョーカーで連中の下っ端に操られていた模様。さらに幹部のアゲハの乱入に合い、負傷者が1人。それが勧誘していたトレーナーで……。ただ、命に別状は無いです。……はい……はい、了解です。すぐに向かいます」
「どうだった」

 ミオは複雑そうな顔でこちらを向いた。

「すぐにセキュリティー・イッシュの本部に来い、だって。ヒウンシティに行くわよ」

 セキュリティー・イッシュ……イッシュ地方の今の警察組織か。ニュースとか見ねえから全然分からないけど。

「P・ユニオンはセキュリティー・イッシュと同盟を組んでいるの。あの黒き翼軍を倒すためにね」
「ああ、そうかよ」
「……ただ」

 湿っぽくあいつは言った。

「あんた、このままP・ユニオンに入る覚悟はある?」
「何だって?」

 聞き返すと、彼女は申し訳なさげに言った。

「こういう仕事をやっていると、今回みたいな怪我をする可能性もあったりするってこと。そして最悪、黒の翼軍に狙われて事件に巻き込まれるってことも在り得るわ」
「おいおい、バカ言うな」

 俺は言った。確かに傷は痛いし、今日はビビってばっかだった。
 だけど、

「一回乗りかかった船だ。もう降りる訳にはいかねえよ。それに、あのアゲハっていういけ好かない野郎にもリベンジしねえとな」

 やられてばっか、てのは嫌いな人種なんだ俺は。
 そういって笑ってみせてやった。

「それによ、元はと言えば誘ったのはてめーだろうが。今更辞めろだなんてブラック企業みてーな真似すんじゃねえ」
「……悪かったわね」

 覚悟だなんておこがましいけど、後にはもう退けないと思うんだ。
 幻のポケモンのことも奴らを追っていれば分かるかもしれない。

「行こうぜ、セキュリティー・イッシュの本部とやらに!」
「分かってるわよ」

 彼女は少しむっとして返すと、ギャラドスを出した。そして2人ともそれに乗る。
 ぶっちゃけると面倒なことに巻き込まれたとは思う。
 だけど、俺の追ってる幻のポケモンに近づけるチャンスだし、何よりぶっ飛ばしたい相手が出来た。
 まずは目的が出来たんだ。どんな任務が来ようが、全部やりきってやる!

「でも、その前にアンタは病院行かないとね」

 あ、俺怪我人だったの忘れてた。そして打った頭がずきん、と痛んだ。


 ***

「ただいま戻りました」

 アゲハはローブに身を包んだ男------背丈だけならば少年のものだが----------の前で跪き、頭をもたれた。

「……奴らの処分はしっかりと下しておきました。減給・降格、その他諸々」
「新しいチョーカーを持ち出した上に勝手に使ったんだからね。当然だろう。君の部下に対する管理責任は--------今回は問わないでおくか。あれは仕方がないよ」
「申し訳ありません」

 「それと------」とアゲハは言葉をつなぐ。

「やつらを倒したのは少年とそのルカリオですが、歯向かってきたので少し痛い目に合わせてやりました」
「ほーう、大の大人であるアンタに突っかかるとは、随分血気盛んなようだ」

 男は言った。

「まあ、そういうやつって結構危険なんだよね。案外アンタ、今度戦ったら負けるかもしれないぜ」
「いえ、心配は無用」

 アゲハは自信の右耳に付けているインカムを指差して言った。いや、正確に言えばそこに嵌めこまれている虹色に輝く石だ。

「進化を超える進化。あの少年はそれを使うまでもありませんでした。よって我らを脅かすには至りません」

 ふむ、と男は言った。

「男子3日会わざれば括目して見よ……ランセ地方に伝わる格言だけど、案外そのとおりかもしれないよ」
 
 男は続けた。

「もしかすれば、すごい成長スピードを見せてくれるかも、だね……!」

 狂喜に満ちた笑みにアゲハの背中が泡立った。
 彼はこれから自らの組織に襲い掛かるかもしれない脅威に期待すら抱いているのだった。

「それと、気になることが。あの少年は妙な腕輪を所持していまして、それに嵌め込まれていた石が我らの持つそれに似ている気がするのです」
「それは流石にありえないさ。入手ルートは? 普通のイッシュ人がこれを手に入れるだなんて無理だよ。たぶん、それを模した観光グッズなら幾らでも見るし」
「はあ」
「ああ、そうそう。”破片”の場所が分かったらしい。既に”カシワ”に頼んで捜索に向かわせたよ」

 男は電子マップを展開して得意げに言う。


「場所は---------ヤーコンロードだ」