二次創作小説(紙ほか)

Re: 名探偵コナン夢物語2『闘い…』 ( No.5 )
日時: 2014/10/25 23:54
名前: らいち。 (ID: 8MLsWoCW)



2.一人ぼっちのエメラルド

ロンドンのとある一軒の家…
一人の男が、バルコニーでコーヒーをすすっている。

「おじさん!」
「ん?」

男が辺りを見回すと、
一人の女の子が少し遠くに立っていた。

もう俺も、おじさん、なんて言われる年か…

そんなことを考えながら、コーヒーをテーブルに置き、
女の子を家に招き入れた。
4歳くらいの、きれいな黒髪をした女の子だ。

「おぉ、アンも一緒か。」
「そうよ。」

二人は日本語で話している。

『アン』は黒いトイプードルだ。
今も、尻尾をぶんぶん振っている。

「ジョンおじさん、この間はありがとう。
 ママがお礼に、ってレモンパイを焼いたの!食べてね!」
「じゃあ、早速いただこうか。」

ジョンおじさん、と呼ばれた男は、
さっきまで飲んでいたコーヒーと、
女の子のために、淹れたての紅茶を持ってきた。

アンは、爪をカリカリと鳴らしてバルコニーを走り回っている。

「アン、おいで。」

紅茶を蒸らしている間に、
ジョンは棚から何かを取り出した。

「何それ?」

アルミホイルに包まれていたのは、
クッキーのようなものだった。

「分かった!犬用クッキーね!?」
「正解。」

ネットで調べて作ったのだと、説明した。

黒いぬいぐるみのような身体は、
回れ右をしてジョンのもとへとすっ飛んでいった。

「よーし、お手。」

クーン?とアンは首を傾げたが、
差し出されたその手を見て、即座に右前足をのせた。

「よしよし。」
「えーっ?
 アン、あなたお手できたの?」

クッキーを小さく分けてアンに与えているジョンを見て、
女の子はびっくりしていた。

「できるヤツはできるさ。」

お手を覚えさせたその男は、得意げにウインクしてみせた。

「何で??
 あたしが教えようとしても、全然覚えなかったよ…?」
「さぁ…知らなーい。」

見た目にそぐわない幼くはっきりしない返事をかえし、
ジョンは紅茶と食器を取りに、キッチンに戻った。


「わー!りんごの匂いだ!」
「レモンパイだからな。
 せっかくいい香りなんだ、普通の紅茶じゃレモンの匂いが
 分からなくなってしまう。」

秋の光が降り注ぐ中、
バルコニーは笑顔と話し声で一段と明るかった。

近くを通りかかる人は
自分の知らない言語で話す二人に、大いに疑問を抱いたのだろうが。

「アニー。」
「なあに?」

女の子は、やっとその名を呼ばれた。
フォークを少し重そうに運んでいる。

「お父さんとは、仲はいいか?」
「うん!パパは大好きだよ!…もちろん、ママもね。」
「そうか…」

ジョンは エメラルドの瞳を潤ませて、
ぬるくなったコーヒーを一口飲んだ。

彼のふたつの記憶が、ふと交差した。
自分と同じ色の瞳をした、アニーによく似た女の子…
その子を思い出すと、
アニーの母であるエイミーの悲しそうな言葉を思い出してしまう。

「実は、夫は…MI6なんです…。」

その一言で、
すべてを理解してしまったような気がしてしまった。
亡くなってはいないようだが、
その父は アニーに何かを想わせているに違いない。

「あ、そろそろ帰らないと!」

はっとした様子で立ち上がったアニーと同じように、
アンも立ち上がり、くるくる回りだした。

「送って行こうか?」
「ううん、大丈夫よ。今度は、英語教えてね!」
「あぁ。」
「バイバーイ!」

ガタン、とドアが閉まった。
すっかりピカピカになった皿を見て、

「あいつにも、レモンパイ食わせてやりたかった…」

ジョンがそうつぶやくと、
スマートフォンに 一件のメールが届いた。
画面には、『ジェイムズ・ブラック』と表示されている。

何の用ですか、ジェイムズ。
と何回か画面をタップし、メールを開いた。

〈 先日、あの一件で 彼のことがヤツらにばれかかったが、
  君のところには火花はかからなかったかね…?
  突然話が変わるが
  彼のところで、君の娘と見て間違いない少女が世話になっている。
  どうやら、ヤツらの犠牲者となっているようだ。
  我々の協力に関しては、同意してくれた。
  そろそろ 我々も動き出す。
  待っているぞ。 J.B. 〉

ジョンは立ち上がり、食器を片付け始めた。