二次創作小説(紙ほか)
- Re: 名探偵コナン夢物語2『闘い…』 ( No.7 )
- 日時: 2014/10/26 18:14
- 名前: らいち。 (ID: bp91r55N)
4.準備
ふつふつと音を立てる鍋。
フライパンの上で奏でられる、おいしそうな匂いのハーモニー。
シュウ兄の後ろ姿。
たまに足元に流れてくる、冷蔵庫の冷気…。
シュウ兄が料理するのをじっと見ていて、
そんなに見ていて何が楽しいのか と訊かれたときに答えた言葉だ。
今もそれを、
見て…聞いて…感じている。
椅子に座って脚をバタバタ動かしていると、
「今日は、お前の好きなシチューだ。」
とシュウ兄が言って、
味見用のお皿を渡してきた。
「知ってるよ〜。」
「フッ…。」
旨味と甘味が程よく混じり合って、おいしい。
「おいしいけどさ…」
「何だ?」
「チョーカーのスイッチ、切ったままでいいの?」
今日は、変声機の電源が切られたままだった。
かたん、
と皿が置かれて、見た目と中身が一致しない男はこちらを振り向いた。
「今日は特別だ。」
「ふうん…」
すると、
彼がいきなりスイッチを入れて
「ところで彩ちゃん、宿題は終わりましたか?」
と悪戯に笑って訊いてきた。
「終わってますよー。」
こちらも舌を出して笑ってみせた。
「なら、よろしい。」
機械音とともに、その声はもとに戻った。
きっと、
真純ちゃんは チョーカーを面白がって、シュウ兄を困らせるんだろうな。
そう思うと、自然に笑えてくる。
こんな暮らしになってから、
よく昔のことを思い出すようになったのは、気のせいだろうか。
お父さんと2人暮らししてたら、
こんな感じなのかな…?
真純ちゃんは、私のこと 羨ましいって、思うのかな…?
陽希たちは、部活とか頑張ってるかな…?
様々な想いが私の中を廻っていく。
世界は何気に、平等にできているのかもしれない。
「完全な幸せ」というものが、存在していないのだ。
2人の笑顔と話し声が リビングを温めている。
そんな空間に、
冷たい涙が、
ポロリと落ちた。
「奈都…?」
心配そうに私をのぞきこむシュウ兄。
何だか、
ここは温かすぎると、そう思ってしまった。
両親が共働きだった 2〜4歳の夏と冬、
私は、世良家で日々を過ごしていた。
真純ちゃんは 妹ができたみたいだと、よく相手をしてくれた。
キチ兄は 日本のことを、沢山教えてくれた。
シュウ兄は 時々そばに寄り添って、話を聞いてくれた。
おばさんは 普段は家にいないしぶっきらぼうだけど、
優しくて、笑うとすごくかわいい。
4人が親だった、と言っても過言ではないだろう。
それくらい、私はみんなのことが大好きなのだから。
やだな。
何泣いてるんだろう。
みんなは今まで、もっと辛い思いをしてきたのに。
異父兄妹で
そのうえ、お父さんは2人とも亡くなっている。
私だったら、
そんなの絶対に耐えられない。
「お茶…とってくる。」
その場を離れようとして、とっさに嘘をついた。
「おい…」
でも、
立ち上がろうとしたとたん、
世界がぐるりと回って、目の前が真っ暗になった。