二次創作小説(紙ほか)

Re: 「アイシテル」の言葉じゃ、足りない位に君が好き。 ( No.8 )
日時: 2015/01/06 14:39
名前: らいち。 (ID: .VvRUm0J)


2.無色〈ベルモット〉


この星空が
こんな輝くのは
このどれかに君がいる、からなのでしょう…



煌々と燃え、崩れ落ちていく我が家。
まるで 子どもの頃に見た戦火のようだった。

「ねぇ、目を開けて!あなた!」

傍から見たら、黒焦げの人形をゆすっている女にしか思われない。

でもこの人は…
一生愛しぬくと、誓い合ったヒト。

「ハ… もう、終わっちまうのか…?」

ススで汚れたまぶたを 彼がゆっくりと開いた。
涙で潤んだ瞳は、私達の背後に迫る炎を 滑らかに映しだしていた。

「終わるなんて、ロクでもないこと言わないで!」
「いや…もう十分、幸せになれたよ…」
「そんな…」

呂律の回らない話し方だったが、
彼は 一生懸命、その想いを話してくれた。

「お前に出会えて、可愛い女の子が2人も産まれて…
 こんな俺でも、お前はずっと応援してくれて…
 そのおかげで MI6なんていう仕事にも、随分、
 身を入れることができたんだ…
 いつかこうなるんじゃないかとは、覚悟していたが…」

彼はそこで一旦 口を止め、私の髪に触れた。
あなたに出会うまで ずっと好きになれなかった、
プラチナブロンドの髪。

あなたは、そんなところまで愛してくれた。
私の心までも、愛してくれた。

「君に出会えてよかったよ…本当に…ありがとう…」

その言葉を最後に、温かな手が動かなくなった。

「私だって…一生忘れないわ…。
 あなたには 伝えきれないほど、感謝でいっぱいなの…」

止めどなく溢れ出す涙。

赤みがかったきれいな茶髪…
長いまつ毛…
そして…
あの2人にも遺伝してしまった、クマ…


——…え?寝不足?この隈は生まれつきだよ。


あの時の声が 聞こえてきた気がした。

この後 人生の歯車が大きく狂ってしまうとも知らずに、
彼女は彼を抱きしめていた。

Re: 「アイシテル」の言葉じゃ、足りない位に君が好き。 ( No.9 )
日時: 2015/01/22 19:52
名前: らいち。 (ID: FA6b5qPu)

「ついに、こうなってしまったか…」

落ち着いた低い声が 私の耳に入ってきた。
反射的に振り向くと、そこには———

「お、お父さん?!」

何と、父が立っていたのだ。

「なんでこんな所に?…まさか——」
「女は秘密を着飾って美しくなるんじゃ、ないのかね?」
「…」

不謹慎だとはわかっていながらも、「じゃああんたは女なのか」と思う。

すると、お父さんは私たちのほうに近づき、
冷たくなった彼を ゆっくり抱き上げた。

「ちょっと、何するの!」
「お前たちを こんな目に遭わせてしまったんだ…
 せめてもの罪滅ぼし、良い策がある。…ついて来なさい。」
「え、ええ。」

少しの事にいちいち 焦る私に比べ、お父さんは冷静だ。

こうして私たち『3人』は、
手遅れの消火が始まった家を去ることにした。

ごめんなさいね…
メアリー、エレーナ。
あなた達なら…大丈夫よね…?

「「お母さーん!!」」

遠くから微かに、あの子達の泣き叫ぶ声が聞こえた。

「娘たちが心配なのか?」

父が問う。

「当たり前じゃない…
 私だって、母親なんだから…」

昔より小さくなってしまった背中を見ながら、ぼそりと答えた。

「でも、こんなんじゃあ…
 そんな甘ったれた事、言えないわよね。
 母親なんて言える資格も、無い…。」
「そんな顔をするな」
「え?」

顔を上げると、お父さんがこちらを向いていた。
彼の身体は 硬直が始まってしまったせいか、少し運びにくそうだった。

「上層部には、しつこいほどに言っておくから。
 俺の孫、なんだしな。」
「お父さん…」
「ほら、さっさと行かないと。」
「そうね。」

悪く言えば、子離れが出来ていないのかもしれない。
けれど、もし お父さんが私たちのことを嫌っていたら…
もっと昔に、とっくにヤツらの餌食になっていただろう。


しばらく歩き続け、見たこともない建物の前に着いた。

「ここだぞ。」
「…って、どこまで来ちゃったわけ??」
「ロンドンはまたいだ。詳しい事は明かせないが。」

気づくと、辺りが朝焼けで 金色のベールに包まれていた。

父につづき
ガラスの戸に近づくと、ひとりでに 左右に開いた。

「うわ、何なのこれ…」
「自動ドアだ。」
「…」

再び彼に近づこうとしたその瞬間、
金属音とともに 冷たく硬い銃口が頭にあてがわれた。

視線を巡らせると、4人ほどの男が 黒いコートに身を包み、
私を鋭い目つきで睨んでいる。
その全員がサングラスをかけ、片耳にイヤホンをさしていた。

「下げなさい」

お父さんがそう諭すと、彼らは それぞれの持ち場に姿を消した。

Re: 「アイシテル」の言葉じゃ、足りない位に君が好き。 ( No.10 )
日時: 2015/01/24 14:38
名前: らいち。 (ID: eK41k92p)

見たことのないような機械に繋がれた…私の、夫…。

彼の身体は なぜか硬直が解け、
血色の良い顔に 戻っていた。

「今は この程度しか処置を施せぬが…、許しておくれ…。」
「何も、あなたのことを恨んだりはしてないわ。
 むしろ感謝してるもの。でも、何なのよ ここ。」

青白くぼんやりと明かりのともる、静かな部屋。
父は 夫に薄い布をかけ、ゆっくりとこちらを振り向いた。

「俺は、この組織をまとめている…いわば、ボスというものなのかもしれん。」

金属のカーテンのようなものが、カタカタ音を立てて開き始める。

「マフィアが元組織だった。
 …だが、そこでの仲間内争いが激化し、3つのグループに対立した。」
「マフィ…ア」
「一番大きな『あちら』の組織は、少しずつ追い込まれているらしい。
 そして、もう一つは…海に出たきり、消息不明だ…。」

父が 近くの椅子に腰かける。

「残った最後の一つが…お父さん達なのね?」
「ああ。そうだ。」
「じゃあ、目的は、やっぱり……」

カーテンが上がり切った。
何十年振りにも感じる昼の太陽が、アイスブルーの瞳には 眩しすぎた。

「「この世界を、変えること」」

あの人達との思い出が、走馬灯のように 駆け抜けていく。

結婚式を挙げた日のこと。
心に焼き付けられた戦火。
よく笑っていた、メアリー。
貧しい世を生きぬいた、姉。
髪をとかしてと よくせがんできた、エレーナ。
帽子を深く被った途端、冷酷な表情になる 夫。
家族に隠し通してまで、こんな世の中を変えようとした、父。

おかしい。
不意に、何かに突き動かされた。

なぜ、彼だけが…
なんで、大切な人たちが…
こんな目に………!

「お父さん、私…
 私も、何かがしたい!この世界を、変えたいの!」

人生が狂い始めた、瞬間だった。


「許可しよう。我々の プログラムへの参加を…。
 今日から お前の名は、『Vermouth(ヴァ—ムース/ベルモット)』だ。









 ——————————アイリーン。」




≪I love you. But we can't meet. I miss you...≫

Irene Theiler