二次創作小説(紙ほか)

Re: 【ポケモン】ヒビキたちの物語 *ビターメモリーズ ( No.372 )
日時: 2016/06/19 11:40
名前: ゆーい ◆p17PNBs1wA (ID: hfVure16)
プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?mode=view&no=10940

※死ネタあり、雑音=ノイズ って読んでくれるとわかりやすいと思います。


前回→ >>367


コトネの雑音 1


もしあのときに戻れたら、私は逃げてはいないだろう

もしあのときに戻れたら、私は自分の気持ちを伝えていただろう

もしあのときに戻れたら、私は二人を悲しませなかっただろう


そんなこと願っても、さよならしてしまったから戻ることはできないのに。



「なあ、帰ってきてくれよ…」


ヒビキくんの消えそうな言葉が聞こえる。
わかってる、わかってるよヒビキくん。君の気持ちなんてわかりきってる。

でもね、帰れないの、私は。…死んでしまったから。
生まれ変わることは可能だよ。でも、今の私は生まれ変われない。成仏してないから。


私は現実世界を視ることができる。まあ、それは死んじゃってからの話なんだけどね。
夢から帰った後のヒビキくんが心配になって、様子を確認するためにそっとヒビキくんの部屋を覗く。
ちょっと変なことしてる気分で汗が垂れる。


「まあ、ヒビキくんには私の姿は見えないし、いいよね!」


そろ〜っと覗いてみると、ヒビキくんは蹲っていた。
窓から入ってヒビキくんの近くに寄る。あ、不法侵入じゃないからね!


「ヒビキくん、どうしたの? ってあ…! どうしよ、ヒビキくん泣いてる…!!」


ヒビキくんはボロボロ涙を溢していて、止まる気配がない。
私は突然のことにあたふたして、ヒビキくんの周りをうろちょろする。
でもヒビキくんは泣くのを止めない。困ってると、ヒビキくんの口から弱音が漏れた。


「言葉が伝わったって…悲しいもんは悲しいに決まってるじゃんかよ…コトネ……ごめん…」

「悪いのはお前なんかじゃないよ…全部俺とシルバーだよ…お願いだから帰ってこいよ……」

「もう一度だけでいいから…逢いたい…」


綺麗なヒビキくんの瞳から涙が溢れて、服に水玉模様ができていく。
私の姿は見えないと思うけど、なんとかして笑顔にさせたくて色々試してみるけど失敗。

時間が経つばかり。

笑ってくれない。
ヒビキくんは泣き止まない。
笑ってほしいのに、笑っていたいのに…これじゃあ…
私の目からも自然と涙が出てきた。


「ごめんね……ヒビキくん…」


部屋の時間が止まってしまったかのように、静かになった。
聞こえるのは二つの嗚咽だけ。
私は何もすることができずにその場で固まってしまった。


「辛いよね、ごめんね」






時間が経って、ヒビキくんは立ち上がった。私の頭の上にはてなマークが浮かぶ。
ヒビキくんの目に涙はない。
そういえば、生きている間に最後にヒビキくんの涙を見たのはいつだっけ。

記憶を辿ると、そこにたどり着いたものは…


「そうだ、みんなで楽しく笑い合ったときだ…それから見てないや…」


それからは死んじゃってからしか見ていない。悲しい涙しか見ていない。
楽しく笑い合ったのは今から一年と数ヶ月前。

戻りたいけど戻れないあの日。

あの日に戻りたくて、あの景色をもう一度見たくて頑張ってる今の私。

私が死んじゃってからヒビキくんたちの明るい顔はほとんど見なくなってしまった。
でも、ほとんど見れないというの中に見れるのは偽りの明るい顔だけ。
本当の明るい顔なんて見れやしない。

それが辛かった。




ヒビキくんはシルバーの家に行くようだ。


「シルバー、来たぞ」


「ああ、ヒビキか…入っていいぜ」


ヒビキくんが中に入る。そのあとに続いて私も入る。


「なあ、ヒビキ…お前、コトネに言ったのか? 言ったんだったらいいんだけどさ」


「ああ、言ったよ。…でも、戻れないって…帰れないって言ってた。…今の自分じゃ帰れないって」


もしかして、ヒビキくんはシルバーに相談していたのかな?


「コトネ、あいつ助けてほしい筈なんだ。絶対苦しい筈なんだ。…なのに、なんでだ…」


私はヒビキくんの言葉にドキッとした。
…ヒビキくんは気づいてる。私の気持ちにすべて気づいてるんだ。


「それに、お前も助けてほしいだろ…シルバー」


「んなわけっ、ないだろっ…!」


「もうバレバレだよ。そんな顔して言われたって」


シルバーの目から光がなくなる。いつも暗い顔してるけどさらに暗い顔になった。
一年前はこんなじゃなかったけど…

シルバーは俯きながら話した。少し涙声だ。


「これ以上、お前に何を言ってもダメな気がするから、言う」

「今も、一年前も、辛いのは確かなことだ。死にたいって思うのも、確かなこと」

「一回、自殺でもしようと思った」

「コトネが轢かれて、即死で…ヒビキも、起きなくて」

「二人がいない世界なんて、生きてる価値はないって、思った」

「でも、コトネの声が脳裏に響いて」

「生きようって思った」

「でも無理だ」

「コトネは二度と帰ってこない」

「コトネを殺したのは俺なんだ」

「…俺が嫌いって言ったの、…嘘なんだよ、全部…!」


ぽたぽたと水滴が落ちる。……シルバーの涙だ。
ヒビキくんは黙って聞いている。


「俺があいつのこと消えろって、嫌いって言ったせいで…!」


「…辛かったよな、大丈夫だから、俺が絶対助けてやるから。二人で頑張ろうぜ」


「ごめん、ごめん…!」


「大丈夫大丈夫。辛いのは俺も一緒だよ。きっと、コトネも辛いんだろうな…」


私は時間が過ぎるのを待った。罪悪感が消えていくのを待った。
でも、時間は過ぎていっても罪悪感は消えていかなかった。

ここまで…私はここまで二人を苦しめていたんだ。自分の誤った選択のせいで。


痛い


痛いよ


ヒビキくんと一緒に外に出たけど後は追わなかった。
体中が痛くなって、心も痛くなって、歩けなかった。前に進めない。


どうしよう


痛い


助けて


助けてヒビキくん



2に続く→ >>375