二次創作小説(紙ほか)
- Re: 東京喰種 -オリジナル ( No.1 )
- 日時: 2015/08/19 23:40
- 名前: アーリア ◆IYbi.dCFgs (ID: Tf5VGYTU)
【序章】
時刻はすでに二十二時を過ぎている。
通報のあった路地裏は、不気味なほど閑散としており、まるで人の気配がない。
二人の男は、目下の”それ”を見つめたまま立ち尽くす他なかった。
地面にぶちまけられた血、その海に沈む死体は一つだけではない。二つ、三つ……。
「これは、ひどい……」
うち若い男はそう呟き、気分が悪そうに口を手で覆っていた。
複数人の血の匂いが鼻腔をつんざく、彼の片割れである男もこれには眉をひそめた。
が、その直後何かに気付いた彼は、いきなりうつ伏せになった死体の肩を持つと、勢いよく体を仰向けに返す。そしてその顔をじっくり覗き込むと、男は舌打ちをして素早く体を離した。
「——”赫眼”か」
赫眼(かくがん)。
うつ伏せ死体の眼球は血のように赤く染まり、本来白色であるはずの強膜はどす黒く変色していた。
次に他の死体に視線を向ける。男の予想通り、不自然に二体とも服の背中が破れている。
推測されるのは、おそらく——こいつらは”赫子(かぐね)”を出した、か。
「他二体も黒か。くそが、”喰種”の死体だと。ふざけやがって」
男は声を荒げて怒りを露わにする。
そんな男とは対照的に、若い彼は困惑した表情を浮かべていた。
「あの。な、なぜ喰種の死体が?」
若い男は問う。しかし、男はそれに答えなかった。代わりに、若い彼にこう聞き返す。
「東区のこの場所で人が喰種に襲われている、とかいう通報があったんだったか」
「は、はい」
「電話がすぐに途切れたんで、悪戯か、あるいは通報人も襲われた可能性があったんで、俺たちが見回りに来たわけだ」
「……はい」
「つまり俺たちには通報者の情報は何もない。いや、通報者がわざと正体を隠した。そいつの狙いはおそらく」
と、そこで男の言葉を遮られた——二人の頭に『鋭い何か』が叩き付けられたのだ。
しかし、それが男を捉えることはなかった。
男は一瞬の判断でその場から飛びのき、上からの奇襲を凌いだのだ。
男は素早く体制を立て直すと、男は”自分が手にしていたアタッシュケース”の鍵を開けた。
バチン。
勢いよくアタッシュケースの開く音、取り出した「何か」を手にすると、一振り。砂埃を薙ぎ払い、奇襲を仕掛けてきた相手にそれを向けた。しかし、男は砂埃が明け、相手の姿を目の当たりにした瞬間にひどく動揺する事となる。
ボロボロの布きれを頭から被った人、否、喰種。尾てい骨から伸びた”赫子(かぐね)”、硬化と軟化を繰り返しながら自在にうねる喰種の捕食器官が目に映った。血液のように流れ、歯よりも丈夫なそれは、人を殺すために使われる凶器。赫子は主に四種類に部類される、その内尾赫はバランスが良く弱点といえる弱点はない。
いや、男にとってそんなことは頭に入らなかった。
それよりも、目の前に現れた喰種の赫子に串刺しにされている”それ”から目が離せなかった。
「くそったれ。てめぇ殺りやがったな」
それは、先ほどまで男と行動を共にしていた若い彼だった。
赫子が突き刺さった腹から血が流れ出る、ピクリとも動かない。
喰種は彼の体からゆっくりと赫子を引き抜くと、瞬時に赫子を引っ込めた。
自分の体よりも何倍も長いそれは、布きれのしたにすべて吸い込まれて収まった。
「このあたりの喰種じゃねえな。俺たちをここに誘い出して、何が狙いだ」
男は問うが、喰種は答えない。代わりに喰種はゆっくりと顔を上げた。
怒気を含んだ赤い双眸と視線がぶつかる——そこに素顔を隠す面はなかった。
それゆえに男は見たのだ、”最期”に喰種が口端を吊り上げるさまを。
*
昨晩未明、東区の路上で男性二人が喰種に襲われて死亡した。
朝一番に報道されたそのニュースは、東区を大きく震撼させた出来事であった。
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