二次創作小説(紙ほか)

Re: 東京喰種 -オリジナル ( No.4 )
日時: 2015/08/19 23:46
名前: アーリア ◆IYbi.dCFgs (ID: Tf5VGYTU)

>>001

「怖いよねー。東区じゃあ最近喰種絡みの事件なんて起きてなかったのに」
 すれ違いざま、女子高生の群れがそう騒いでいた。



【第一章】喰種



 ここは『東区』。

 東京ほど都会ではないが、とりわけ田舎でもない。”小都市”と言ったところだろう、主に五つの区に分けられているようだ。そのうち、東側のエリアは『東区』と呼ばれている。

 他の区と比べて人が多いが、そのほとんどが観光客らしい。
 お洒落な若者カップルや友人仲間、家族連れが多い印象だ。
 まぁそれもそのはずだ、ここはこの小都市の観光名所。開園して比較的新しい遊園地があるそうだ。 

 「私」もたまたま手に入ったチケット片手に、例の遊園地にやってきた類だが——うん。中々良い暇つぶしにはなっている。生憎、お土産を買うお金は持ち合わせていないが、こうして人の行きかう群れをぼーっと眺めているのは案外楽しいものだった。

「えぇっ!? そ、そんなぁ……じゃあ、ホントにみんな来れないの? わ、私、もう中に入っちゃった……」

 と、そんな時——ふと、困惑した声が耳に届く。
 何の気なしに声のした方へ顔を向けると、携帯電話を片手に涙を浮かべる女の子の姿があった。
 人が良さそうなおっとしとした声は、今にも泣き出しそうなくらい震えている。

 私はちょっとした興味本位でその会話に耳を傾ける。
 電話の相手は彼氏……なのだろうか?
 まだまだ若い男の子の声が聞こえる。相手が何を話しているのかまでは聞こえないが。

 さて、女の子はしばらく電話の相手の話に聞き入っていたようだが、突然「えっ」と驚きの声を上げた。
 突然声を上げたものだから、周りの視線が一瞬彼女に向く。
 しかし、彼女はそんな事には気づかず、いや、おそらくそれどころではないのだろう。
 彼女の慌てっぷりを見るに『事態は一刻を争う』、といった雰囲気だ。

「ま、待って!私一人だけそんな、今から私もそっちに……!」

 と、言って走り出そうとしたその時。足が縺れ、彼女はそのまま顔からすっこけてしまった。
 とても痛そうだ。
 その拍子に彼女の手から携帯電話が離れ、勢いよく地面を滑って行った。
 それも、私のすぐそこの足元まで。
 
「うー……」
 彼女はと言うとしばしの時間鼻の頭を押さえて悶絶していた。
 そして、ふと我に返ると、半べそをかきながら落とした携帯電話を探し始めていた。
(何やってんだろ、この子……)
 関わる気はなかった。携帯電話は私の足元にあるが、探してるならじきに見つけるだろう。
 しかし、こう、彼女の姿を見ていると、ついこう思ってしまったのだ。

(ああもう、仕方ないなぁ)

 ようは、見るに堪えなかったのである。


 私はため息をつくと、足元に滑ってきたそれを攫って彼女の元へと歩き出した。
 そして、半べそをかいている彼女の目の前に、携帯電話を乗せた手を差し出す。

「?」

 差し出されたものを見て、一瞬きょとんとする彼女。
 しかし、その手の中の物が自分の探し物だという事に気付くと、安堵の表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございますっ!」
「いいよ、別に」

 そう言いながら、私は彼女が立ち上がるよう軽く手を引く。
 彼女は立ち上がると再びペコペコと頭を下げてきた。
(もうそれはいいってば)
 大したことはやっていないのにそう何度も頭を下げられても困る。
 それよりも、気がかりなことがあった。

「あのさ。これ、大丈夫なの?」
「はい?」
「携帯、画面ヒビ入ってるけど」


「……えっ」


 終始穏やかそうな彼女だったが、この時ばかりは「やってしまった」と言わんばかりに眉間にしわを寄せ、目をひん剥いていた。
 



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