二次創作小説(紙ほか)
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.1 )
- 日時: 2015/06/28 18:54
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
第一章《来訪者は》
「 」
その人は口をぱかりと開けながら自由落下速度で落ちてきた。顔は無表情で、かつ目線は僕の方を向いたまま。瞳の奥は何の感情もない、空っぽだった。そんな黒い瞳をしたその人は、頭を真下にしたまんま自由落下速度で落ちてきた。
「って死ぬ死ぬ死ぬ!!普通に死ぬって!!」
そう叫ぶと隣にいたSS先輩——もといザップさんがイライラした顔でこっちを見る。うるせえとか言いたげな顔だった。その反対の隣にいたツェッドさんは不思議そうな顔でこっちを見ている。必死に上を指さすと二人が上を向き、はっと顔色が変わった。そりゃ口をぱかりと開けた人がこっちを見ながら落ちてきたら顔色も変わるだろう。すぐさまザップさんが能力を使ってその人を(ぐるぐる巻にして)助け出す。若干擦り傷はできたものの、気にならない程度だったのでそこはスルーしておく。
「あの、大丈夫ですか?」
おずおずとツェッドさんが助けた人に聞いてみる。するとその人はロボットが顔を動かすように顔を上げる。どうにも女の人のようで、黒く長い髪を三つ編みでまとめていて、服装は落ち着いたカジュアルスタイル。靴はスニーカーだったけどなにか仕掛けが施されているようだった。ちなみにメガネをかけている。見た目年齢は、大体二十を超えているか超えていないかの感じだった。その人は口を動かした。
「 。」
けど、僕らにはわからない言語だった。ヘルサレムズロットは元々ニューヨーク、そうつまりアメリカにある。ということは僕らの言語は英語になるんだけど、どうやら相手は英語ではなく、別の言語を使って返事をしたようだ。しきりに僕らが頭にはてなマークを出していると、相手はそれを察したのか、また口を開いた。今度は英語で。
「君たちが助けてくれたんだ?」
頭を少し傾けながらその人はそう言った。流石に今度は聞き取れたので僕が返事をする。
「はい、そうです」
「助けたのは俺だがな」
「ありがとう、今頃助けがなかったら私は今頃ざくろのように脳みそが飛び散ってただろうね。それはそれで愉快だけど」
顔をひとつも変えずにそんなことをいうのでちょっとゾッとしたが、本人は素直に言ってるからそれはそれでいいのかもしれない。目の前で脳みそがざくろのように飛び散る光景を見るのは勘弁願いたいが。
ザップさんがぐるぐる巻から解放させると、女の人はぺこりと改めてお礼を言ってきた。
「っておい、お前そういや今日来る新入りだったよな?」
ふとザップさんが思い出したようにそんなことを言ってきた。何それ初耳なんだけど。そういう旨の事をいうと、言ってないからな、といつものゲス顔で煽ってきた。クソムカつくな殴ってやりたい。ちなみに後ろにいたツェッドさんも同じようなことを思っていたりする。
「そうなんじゃないかな。多分」
あっけらかんとその人は言う。多分って何だ、ていうかこの人身をなにかに任せすぎだろ。
ザップさんはポケットから一枚の紙切れを取り出して、それといま目の前にいるその人を見比べる。どうやらその紙切れは写真らしく、ちらっとみたらその人が写っていた。少し印象は違って見えたけど。もう少し良く見てみると名前が書かれていて、「巴瑠」とだけ見えた。それがどういう名前なのかはわからなかったけど、ともかくそれがその人の名前らしかった。
「名前確認させてもらうが、ハル=マユズミでいいな?」
「あってるんじゃないかなー。多分」
「とりあえず本人なのは確認した。行くぞ」
その人——ハルさんが頷くとザップさんはさっさと方向転換をして本部へと足取りを変えた。ハルさんはそれに早歩きでついていく。僕らも遅れないように少し走りながら本部へと戻っていった。
「君が、新入りのハル=マユズミさんだね?」
「はい、あってます。ミスタクラウス」
本部につくと、そこにはクラウスさんとチェインさん、それとギルベルトさんがいた。スティーブンさんは別の仕事があるとかで不在だった。K・Kさんも後で来るらしい。ハルさんはクラウスさんのことをじっと見据えていて、何か瞳の奥を覗き込んでいるようだった。
「早速だが、君に関していろいろと聞きたい。いいかね?」
「いつでもどうぞ」
その言葉をきっかけに、ハルさんの情報聞き出しタイムが始まった。ハルさんは僕たちと違って元々この国の出身じゃないから、そこまでも根掘り葉掘り聞かれるのだろう。と、予測していたがそれは当たっていたようで。やっぱりハルさんの出身国とかそういう方面も聞き出していた。話を聞くとどうやらハルさんは隣の国の日本出身で、英語はホームステイする時に完璧に覚えたんだとか。どうりで流暢な訳だ。他にもハルさんは17歳だったりとか、弟がいるだとか、技はテキトーに組み立ててテキトーにそれっぽくしただけだとか。聞いてみるとなかなか面白い人だった。
あとびっくりしたことはファストフードを食べたことがない、とはっきり本人の口から言ったことだった。理由としては、親が自分の作った料理を食べて欲しかったからというのと、健康に宜しくないから禁止されていたということからだそうだ。でも今は自由なので、あとで食べに行ってみたいと言っていた。
「あと、君の言う師匠に関して教えて欲しい」
「師匠?ああ、ものすごい人だったね。あれはもう人間の域を超えた人間って感じだった。三つ首の竜とか作ってたり人間の腕とか作ってたり、あと娯楽でケルベロスを再現してたっけ。流石に外に出すのはやめてくれって言ったけどさ。あと師匠自身については、本人の口から何も聞かされてないよ。つか聞く気にもならなかったけど。あ、そう言えば」
そこまで言うと、ふと何かを思い出したようにぱっと顔をあげて身につけていたバッグのようなものから、ルーズリーフの切れ端のようなメモ用紙を取り出した。そのメモはよつ折りになっていて、かなり小さな紙切れになっていた。クラウスさんが受け取ってその紙切れを広げる。後ろからのぞき込んでみると、そこには英語ともう一つの言語——日本語だろう——でこう書かれていた。
『はじめましてライブラの皆様方。私はいま目の前にいるであろう黛巴瑠——そちらではハル=マユズミの師匠に当たります、錦織 郁——カヲル=ニシキオリ——と申す者です。今回巴瑠にこのメモを持たせたのは皆様方に依頼したい事があるからなのです。というのも実は先日、どうも研究物資を盗んで自分にそれを注入した阿呆がいまして。その阿呆がどうにもそちら、ヘルサレムズロットに向かったようなのです。注入したのは恐らく、自分の血液が茨になる薬。その茨は皮膚を突き破り自在に動かし人を殺すことができます。つまり、その茨には自我が宿っているのです。その茨をもった人間は厄介なことに「食人性癖」の持ち主なのです。ですのでこちらでは対処しきれないので、皆様方に依頼したく存じ上げます。ああ、ちなみに。巴瑠に関してはもう早速任務に出させても構いません。それと、その阿呆は殺してくださると助かります。それでは』
随分と丁寧だった。文体からして女性だろうか。いや名前がまんま女性だから女性だろう。まあそれはおいといて。
「おいおいおい随分な野郎じゃねーか。食人性癖持ちってよお」
「しかも血液が茨とは……少しゾッとしますね」
それで殺してくれか……怖いなあこのカヲルって人。
「ねえ、写真とかない?」
チェインさんがそう聞くと、ハルさんはすっと写真と思われる紙切れを差し出した。その写真には一見地味で普通にしてたら目立たないような女の子が写っていた。目の色はやっぱり黒色で、それでいて白いカチューシャをつけている。表情はどことなく物憂げな笑顔を浮かべていた。こんな子が本当に食人性癖の持ち主なのだろうか。にわかには信じ難かった。
「ハル=マユズミさん」
「ハルでいいです。ミスタクラウス」
「ハル。早速だがこの手紙のとおり君には任務に出てもらう。ライブラの一員としての、最初の仕事だ」
そう言うとクラウスさんは立ち上がり、ハルさんを見据えて、こう言葉を口にした。
「改めてようこそ。秘密結社ライブラへ」
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.2 )
- 日時: 2015/06/30 18:18
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「」
とりあえず外に出てあたりを散策すること十分。ふとハルさんはぽつりと呟いた。別の言語——日本語だろう——だったからさっぱりわからないけど。ちなみに今この場にいるのは僕とハルさん、それとザップさんとツェッドさんだったりする。
「」
そしてまた日本語であろう言語で何かをつぶやく。とても苦々しい顔でつぶやいていた。どんな言葉なのかは分からないけど、なんとなく誰かに向かっての罵倒言葉ということだけはわかる。すごくイライラした口調だった。
「」
いい加減良く分からないので試しにどんなことを言ってるのか聞いてみた。そしたら
「ふざけんじゃねえよクソが絶対ぶっ殺すって言ってた」
と返ってきた。一体誰に言ってるんだソレ。と喉元まででかかったが、なんとなく飲み込んでおく。それを言ったら多分なにかされることは目に見えていたから。
ふと、目を下ろすと腰あたりについている二丁の変わった銃を見つける。どうやら機械部分があるようで、なんだか何かのアニメだかなんだかで出てきたドミなんちゃらに似ていた。よく見るとその銃は変形するようで、所々に変形するような箇所がいくつかあった。気になってじっと見ているとやっぱりザップさんに絡まれた。
「おうおう陰毛頭、そんなに腰が気になんのかあ?お前も目覚めたのか?」
「うるせーよちげーよなんでそこなんだよ。僕は銃が気になっただけです」
「銃?」
ツェッドさんがそう聞くと、ハルさんは気づいたようで腰の二丁の変わった銃を手に取る。重量は結構ありそうだけど、本人いわく軽量化してるから持ちやすい、とのこと。その二丁の変わった銃は、師匠が魔改造した銃らしく、普通の銃じゃ出来ない事も普通にやってのけるすごい銃だという。魔改造と言えば、ハルさんのスニーカーも師匠によって魔改造されて色々な機能を備え付けているらしい。例えば地面を滑るように走れたりとか、電撃技や氷結技を出せたりなど。氷結技ってなんだかスティーブンさんを思い出すなあ。
「あれ、もしかしてあすこにいるの……」
ぴくりとツェッドさんがどこかを向いてそう呟いた。ばっと僕を含めた三人がそちらを向くと、たしかに写真でみた女の人がそこにいた。ただ隣に男性がいて、その男性と仲むつまじく談笑しているからか、すぐに攻撃、というわけには行かなかった。もし外れていた場合、大問題になるからだ。いろいろと。けどハルさんだけは戦闘態勢をとってそちらを伺っていた。ちょっとどういうことですか、といいかけた時、ハルさんは僕に目線を向けず黙ってとだけ言い放った。ハルさんはすぐさまスマフォを取り出し本部に連絡を入れた。恐らく見つけたということを伝えて、こっちに来るようにお願いをしたのだろう。連絡をし終えてスマフォを仕舞うと、僕たちにこう言ってきた。
「このまま様子見」
「へ?」
「師匠から聞いた話だけど。どうにもアレは引き金がひかれることで、本来の性を見せるらしいの。あと隣にいる男。あいつも異常性癖の持ち主で、そっちは殺人性癖だって。そいつもやっぱり引き金がひかれることで本性を出すタイプなんだって」
「で?その引き金っつーのは何なんだ?」
「それは———あ、引き金こっちから引く手間が省けたみたい」
そう言ってちらりとそちらを見やる。するとさっきの二人組の一人が、手に傷を負ったらしく(原因は分からないけど)、手の甲から血を流していた。
「………まさか、とは思いますけど」
「そう、そのまさかさ」
それを見た女の人と男の人がぷちりと一旦動かなくなったかと思えば———
その血を流している手に、女の人は思いっきりかぶりついた。
反対に、男の人の方は女の人の方の腕に、思いっきりナイフを突き立てた。
「うわっ!?ちょ、あれ!!」
「そう、あのふたりは、『血を見ると本性が現れる』んだよ。けど、女の方はあれはまだ軽い方」
ハルさんはさらりと言うと、その二人の方に歩み寄り、ちょうど死角になるところで銃を構えた。狙いは———男の人の方。
「おいあいつ何するつもりだ!?」
「まさか違う人の方を殺そうとして——」
るんじゃ、といいかけた時に、男の人の方の頭がはじけ飛んだ。それをみた人々は我先にと逃げ惑う。耳障りな音をたてながら頭はぼとっと地面に落ちる。それのせいで流れる血の量は倍以上になった。あたりは赤い液体で染まっていく。それの真ん中にいた女の人は、頭をかくんと下げたかと思ったら、いきなり頭をあげて奇声をあげた。そして。
背中がばっくり割れたかと思ったら、その中から大量の茨が流れ出した。
「き、気持ち悪すぎる……」
「俺も同感だ」
「僕もです」
背中から茨が出ることはまだいい。けれどもバックリ割れた中からどばっと出てきて、しかもその中身までも茨だというのは正直勘弁願いたい。吐きそうになったのは嘘じゃない。ハルさんはこっちに合図を出した。多分、『殺るぞ』の意味なんだろう。それを確認した二人は、その茨の人の目の前に出てきた。僕は戦えないから見守ることぐらいしか出来ないけども。
「いくぞ、ヘマすんじゃねえぞ魚類」
「言われたくないですね」
そう言い合いながらも二人は自分の武器である『焔丸』と『突龍槍』を構える。それに気づいたのか、茨の人は二人に向かっていばらを伸ばしてきた。だけど二人はそれを難なくかわす。多分それを交わすことは難しいことじゃないんだろう。すぐに茨を切り落とす。それを見てるだけの僕を、隣にいるソニックが励ます。いつの間にいたんだいソニック。するといきなり携帯にメールが入ってきた。なんなんだと思いつつメールを開くと何故か『ハル』と言う人からメールが入っていた。もしかしてハルさんか?つかいつの間にメアドとってたんだ?まあそこは気にしない方向で。本文を見るとこんな内容だった。
『君の義眼で奴を見て頂戴。師匠によると、奴の体の中には茨のコア——即ちデカい白い薔薇の花がある。そこを壊せば茨は血に戻り、奴は出血多量で死ぬらしい。そのコアが何処にあるか、見て欲しい。見つけ次第連絡求む』
コア…その白い薔薇の花が体のどこにあるかを見ればいいのか。見えるかどうか分からないけど、やるしかないか!
僕は『神々の義眼』を発動させて、茨の人に目を向け、そのコアを探す。デカい白い薔薇の花……どこだ?首や心臓部分にはない…となると……腹の部分?
目を腹の部分へと下ろすとその例のデカい白い薔薇の花が見つかった。
「っ見つけた!!」
すぐに携帯を取り出してハルさんへメールを送る。ちょうど腹の鳩尾の部分。そこにコアがある。そんな内容を書き込んでハルさんに送信する。ため息をひとつ漏らすと、ソニックがいきなり服の裾を掴んできた。何かと思って後ろを向いてみると
「オイシソウ」
その、茨の人が僕を据わった目で見下ろしていた。
涎を垂らしていて、顔は真っ赤に紅潮していて、なおかつ至る所の皮膚がばっくり割れてそこから茨を出していた。
「イタダキマス」
「え」
気づいたら目の前に茨が迫っていて、僕を捉えようとしていてた。何が起きるのかさっぱりわからなくて、唖然としてその茨が来るのを待っていることしかできなかった。視界が完全に真っ暗になってああ、終わった。と思って目を閉じた時だった。
「『エスメラルダ式血凍道
エスパーダデルセロアブソルート《絶対零度の剣》』」
不意に、当たりの気温が寒くなった気がした。気になって目を開いてみると、視界が開けていた。そして、後ろから肩をポンと叩かれた。目の前には凍ってズタズタになった巨大な茨。茨の人をはとっくにそこから居なくなってたけど。まさかと思って後ろを見てみると
「やあ少年。遅くなった」
笑顔のスティーブンさんと若干焦ってるクラウスさんがいた。そのまた後ろにはギルベルトさんが立っていた。K・Kさんはと聞くと、また別の仕事が入って、これなくなってしまったらしい。
「殺人依頼だって聞いたから何事かと思って来たけど……なるほど、そう言う事か」
「そう言う事か……って?何です?」
「あの少女は茨に支配されている。残っているものがあるとすればそれは食人願望だ。今の少女はそれ以外何もかも茨自体に支配されてると思った方がいい。だから殺人依頼を出したんだろう」
「支配されてるって、脳までもですか?」
「ああ。そう考えた方がいい」
まさかここまで事態が厄介なことになってるとは、と言いたげな顔だった。クラウスさんも茨の人を落ち着いた顔で見据えているけど、実際かなり考えているのだろう。このまま放っておけばいずれ死ぬ、けどもし茨から解放されたとしても、食人願望は変わらない。殺すか、生かして泳がせるか。そのどちらかの決断を迫られているんだろうと、勝手に僕は推測する。
ピロリと携帯がなる。メールが届いたんだろう、開いて確認するとやっぱりハルさんからだった。
『了解。んじゃあぶっ壊す。あの二人にアレ捕まえてって伝えてくれる?』
流石に今あの場(茨の人とザップさんとツェッドさんが死闘を繰り広げてる)に出たら多分一瞬で死ぬことが間違いないので、クラウスさんとスティーブンさんにメールを見せて頼むことにした。お二人は納得してくれて、快く引き受けてくれた。まず最初にクラウスさんが気を引いて、その隙にスティーブンさんが作戦を伝えるという感じで行くことになった。絶対この作戦なら上手くいく。そう確信した。
- Re: 血界戦線《来訪者は外からやってくる》 ( No.3 )
- 日時: 2015/06/30 18:59
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: ktFX/uOB)
「伝えてくれたみたいね」
結局私もあの場に出ることになって、茨を交わしつつそっちを確認する。
「『ブレングリード流血闘術117式
絶対不破血十字盾《クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ》』」
一方ではミスタクラウスが奴の気を引かせて奴の攻撃モーションをミスタクラウスに集中させる。万が一の時は茨をぶっ壊したりで対応。もう一方ではスターフェイズ氏がレンフロ氏とオブライエン氏に作戦内容を伝える。うん、まあそこそこいいんじゃないかな。私は少し高台に避難してたけど、内容を伝え終わった時にそっちに戻る。
「さていくか。『Operation起動』」
レオが言っていたドミなんちゃらに似てる魔改造された二丁の変わった銃を構える。私の声に呼応するように、銃も起動する。
『イエスマム』
「『74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』」
『74絶対弾丸道《セブンフォー:アブソルートバレット》』
二丁の変わった銃———『ν[NEU]』を変形させて魔改造されたスニーカーに装着させる。バチバチと電撃が走る。私は真っ直ぐに上へと飛び、奴の真上へと狙いを定める。目標ロックオン。視界良好。いける。
「『電撃蹴《ショック・ウーダラー》』」
私はそいつの頭上に、電撃が迸る蹴りを思いっきり入れてやる。バチィッと爆発音にも破裂音にも似た音があたりに広がる。そしてそれと同じくらいのスピードで閃光が起こる。少し眩しくて目をおおってしまったが、とりあえずは的中した様子。そいつは感電して少し麻痺った。あれで麻痺る程度とか茨すごいな。ともかく一瞬の隙はできた。それを合図に、例の二人が話に聞いた『血でできた糸』をそいつに巻き付け、固定する。我に帰った時にはもう遅く、そいつはグルグルにされていた。振り解こうと必死にもがくけどそれは無駄。私はν[NEU]の照準を奴の鳩尾に合わせる。一瞬の沈黙の後。
「『漆黒破壊槍《チョールヌイ・プーリエ・クシオ》』」
一つの銃から放たれた黒い槍は真っ直ぐにそこに向かって、白い薔薇の花を粉々に砕いた。そして、あたりには赤い液体が飛び散って、そいつの口からも赤い液体がごぽっと飛び出て。最終的にそいつは糸が切れた人形のように倒れ、動かなくなった。
その後、その茨の人の遺体は焼かれた後にどこかへと葬られた。その人と共にいた男の人も、またどこかへと葬られた。前の日はグロ映像が飛び交った場所も、今ではすっかり日常へと戻っていた。あれだけ暴れた茨のあとは、綺麗さっぱり消えていた。まるであの事件が最初からなかったかのように。
本部に戻ると、すぐに歓迎会と言う名の飲み会が始まった。その時いなかったK・Kさんは、ハルさんを見るなりものすごい勢いで愛でていた。若干ハルさんは時々入る首絞めに苦しみつつも、満更でもなかったようだ。ちなみに彼女が飲んでいるのはドクターペッパーなる飲み物だったりする。
「えっと、不甲斐ない所もあると思いますが、これから宜しくお願いします」
それが歓迎会と言う名の飲み会の締めの言葉となり、その日はお開きになった。
「」
朝出社すると、一番最初にハルさんが出迎えた。その時かけられた言葉はやっぱり日本語だったけども、なんとなく「おはよう」っていってるのがわかった。
「おはようございます」
「おはよう、レオナルド君」
クラウスさんも来ていたようで、観葉植物か何かに水をやっていた。今この場にいるのはそのクラウスさんとハルさん、それといま頭上にいるチェインさんぐらいだろうか。
「おはようございますチェインさん…」
「おはようレオ」
挨拶をするといきなり頭が軽くなったかと思うと、いつの間にかハルさんのもとにいた。ソニックはハルさんの銃——ν[NEU]と言っていたっけ——に夢中になっている。
けど当の本人の目の下にはなにか黒いものがついていた。
「ハルさん、もしかしてオールしました?」
「……久しぶりのアメリカ風呂だったから、よくわからなくてようやく風呂に入ったと思ったら日付変わってたわ」
そう言ってソファに体を預けた。かと思うとすぐに寝始めた。急な人だなあ、と思う。
急に空から降ってきて急にライブラに入って急に戦って急に馴染んで急に寝てしまう。ものすごく急な人だ。
「そう言えばクラウスさん」
「なんだね?」
「ハルさんを入れた理由ってなんですか?その、師匠って人から頼まれたこと以外に」
今まで疑問に思っていたことをクラウスさんに聞いてみる。いくら師匠さんからの頼み事だとしてもライブラに———それも上層部にほいほいと上げるものなのだろうか。僕はちょっとしたきっかけだけれども。まあ『この眼』があるから入れたみたいなもんなんだろうけれど。クラウスさんは僕をソファに座らせて、自分も座ると、言葉を選びながら語り始めた。
「……彼女をライブラに招いたのは、彼女が抱える『秘密と能力』だ」
「秘密と…能力?」
いつの間にか僕の頭の上にはチェインさんが座っていて、興味深そうに聞いていた。
「まずは能力について話そう。彼女は本来ならば血法を持っている」
「血法?」
「『大和流血針道』と言って、自らの血を針に変えて戦う血法なのだが、彼女はそれを使うことを良しとしない」
「なんでですか?」
そう聞くと、クラウスさんは少し悲痛な顔をして、こう答えた。
「彼女はその自らの血法の過ちで、弟さんを殺して、否、亡くしているからだ」
口から出たその言葉に、僕はただ呆然とするしかなかった。
クラウスさんは続ける。
「そのせいで、彼女は血法を使うことをやめてしまい、二丁銃ν[NEU]を使うようになったのだ。それが、彼女が15の時だ」
「………じゃあ、ハルさんの秘密ってのは?」
苦し紛れに喉からなんとか声と言葉を出す。クラウスさんは少し考えたあとにこう切り出した。
「レオナルド君、チェイン。ここからの話は誰にも口外しないでほしい。彼女のためだ」
「はい」
「………彼女には特殊体質のようなものがあって、『人の死が見えてしまう』ようなのだ」
「人の死が……見える?」
「見えるのではなく、見えてしまう、と言った方が正しいのかもしれない。望まずに人に触れてしまうだけで、その人に近づいている死が見えてしまうようなのだ。それも、近ければ近いほど鮮明に、音声もついて」
「…………今までにもそういうことがあった、ってことっすよね。それがあるってわかってるってことは」
「うむ。それも避けようにも避けられぬようなものばかり、だそうだ」
今度こそ絶句した。それはチェインさんも同じだったようで、体が震えているのが嫌でもわかった。僕だって手が震えている。ソニックも涙目でクラウスさんを見ていた。クラウスさんは、悲痛な面持ちでただ僕たちを見ていた。そんな時。
「今日こそ見切ったぜ旦那ああああ!!」
いきなり扉が開いたかと思うと、ザップさんがクラウスにむかって足蹴りをかまそうと飛びかかってきた。しかしクラウスさんはそのままの体制でザップさんを軽く流してボコしていた。流石です。そのあとザップさんは気絶した、と思われる。
「話を戻そう。我々がハルを受け入れたのはそれらが主な要因だ。これは彼女の師匠———ミスタニシキオリからも頼まれたことなのだ」
「人の死が見える………ですか」
「その体質についてはドクターエステヴェスにもお願いするつもりだ」
そこまでいうとクラウスさんは仕事があるらしく、ギルベルトさんとスティーブンさんと一緒にライブラを後にした。相変わらず忙しそうだ。チェインさんはというと、ザップさんの顔を踏みつけたあと、すうっとどこかへと消えていった。んで、ザップさんはというと顔を顰めてソファにどかっと座った。
「おい、今までなんの話してた。さっきの『人の死が見える』ってなんだ」
「……クラウスさんから口外するなと言われてるので答えられません」
「あ?んだよ先輩の言うことが聞けねえってのかあ?あ?」
「うわやめてください!やめろクズ!!後でスティーブンさんとクラウスさんに言いつけますからね!?つか口外したら怒られんのは僕なんですって!特にハルさんに!!」
「あ?三つ編みメガネに?」
「そうですよ……ってなんだそのあだ名!つかハルさん起きちゃいますから!!」
ぐりぐりと頭に拳を押し付けてくるザップさんの手を抑えながらそう訴えると、その声に反応したのか、ハルさんがもぞりと動く。目を少し開いて僕たちの方を見やる。
「」
何やら口をパカッと開けて何かを発するとそのまままた寝てしまった。どうやら随分と疲れているようだ。そしてちらっと手元を見ると
盛大に中指が立てられていた。
「…………」
その時のザップさんの顔が今でも忘れられない。
《来訪者は・終》